ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

序章 壊れた思考 1/2 ( No.1 )
日時: 2010/07/20 16:11
名前: 礼夜 ◆ylmP.BhXlQ (ID: WPWjN3c4)

第一章 壊れた彼女の理想


   序章【壊れた思考】




 周りの人達は、私のことを変な人間だという。どうして変なのか、私には全く理解できない。
 むしろ変なのは、私のことを変といった人達だ。どうするとあんな思考になるのか、全く不明。

 お母さんに怒られた。むかついたからお母さんを殴ってみた。するとお母さんは、今まで嘘だったように大人しくなった。
 先生に怒られた。むかついたから言い返してやった。もっと怒られた。イラつきが抑えきれなくなったから椅子を放り投げてみた。
 先生の目に当たって、先生は失明。当時十歳で四年生だった私は、お父さんに酷く怒られた。
 何度もその先生に謝らされてまたむかついて、今度はお父さんを殴ってみた。

『なんでこんな子に育ったんだ……ッ!』

 その時のお父さんの血を吐くような叫びは、今でもありありと思い出せる。
 それからお父さんにぶたれた私は、半狂乱になってそこ——先生が入院している病室から飛び出した。

 そして、車に撥ねられました。

         * * *

「美玖ちゃん、一緒に遊ぼ」

 小学校一年生の夏休み。私は、引越した。それなりに友達もいて、クラスのリーダー的な存在だった私。
 私は二学期に転入して、友達が全くなく独りだった私に声を掛けてくれたのは花園真希だった。
 その子は可愛くて、小学生一年生のわりにはおしゃれで大人びていた。そんな彼女が、私は嫌いだった。
 理事長の孫だということは聞いていた。『仲良くしてね』とお母さんにも言われた。

 だけど私はあまり好きにはなれなかったから、遊ぼうと言われて断った。
 ただ、それだけだった。

「……あ、凛ちゃん」
「近寄らないでよ」

 次の日から始まったのは、まだ小学一年生だというのに“いじめ”だった。
 といってもその時の私はいじめだなんて思っていなく、自分とは合わないんだと思っていただけ。
 三年生になってから、その時までもずっと続いていたソレをやっといじめだと私は認識した。

 うっとおしかった。だから、家から包丁を持ってきた。


 その包丁で、私は一年生のころからずっと一緒のクラスだった花園真希を刺しました。

序章 壊れた思考 2/2 ( No.2 )
日時: 2010/07/20 20:15
名前: 礼夜 ◆ylmP.BhXlQ (ID: WPWjN3c4)

            * * *

「りゅーくん、こんにちは」
「……どうも」

 相変わらずのふんわりとした気が抜ける綺麗な笑顔で、田邊夏樹は軽く会釈して挨拶した。
 りゅーくんもとい伊沢流夜は、夏樹にこちらも相変わらずの愛想の無い無表情を向けてぶっきらぼうに小さく返す。
 二十歳前後であろう夏樹と小学生五年生辺りに見える流夜が並ぶと、まるで親子のように見える。
 顔立ちが似ていたり髪の色が全く一緒、ということが余計にそう見えさせた。

 乾いた落ち着く木の匂いがする夏樹が経営している喫茶店内を、流夜はきょろきょろと見回す。

「あら、……まだあの子は来てないわよ。えっと……美玖ちゃん、だっけ?」
「あ、そうなんだ……。黒咲美玖、だよ」

 夏樹の言葉を聞いて、一瞬流夜が不安そうに瞳を揺らがせたが、すぐに夏樹の問いに返した。
 黒く冷たい不安がぐるぐるととぐろを巻き始めたのを自覚して、流夜はため息をついた。

 ——なにかが起こる、てことはわかってるのに何もできないなんて。

 そんな事実に歯痒さを感じ、少々いらだって流夜は傍にあった——カウンターの前の——椅子を蹴り飛ばした。
 がん、という派手な音を立てて椅子が綺麗に磨かれたフローリングの上へ倒れる。
 カップルや家族連れや女性一人など数人の客がいたが、日常茶飯事なのか誰もそちらへは目を向けなかった。
 カウンター席に座っている客もいなかったので、特に夏樹には注意されることもなく、静かに窘められただけだ。
 
「……もー、心配なのはわかるけどね、りゅーくん」
「うるさいよ夏樹さん。仕方ないじゃん。……“死者”なんだろ」

 “死者”。その言葉が流夜の口から放たれたと同時に、一瞬夏樹と流夜の間に重くねっとりとした沈黙が生まれる。
 しかし二人とも表情には特に変化がなく、夏樹がほがらかな笑顔のままで沈黙を破った。

「——そうね。じゃあ、イヴに頼もうか」
「ああ。なんだか、ちょっと危ない気がする」

 ただの勘。それは本当になんの確証も無いただの勘だったが、勘だとしても無視してはいけなかった。
 少しでも発見が遅れれば、大惨事になりかねないことが起こるのだから。

            * * *

 花園真希を、殺すことはできませんでした。強制的に、転校させられました。
 そしてそこでも問題を起こしてしまい、また転校するかもしれなくなりました。
 でも、もうそんなことどうでもよくなりました。だって私は、死んでしまったのだから。

 けれど。

 それから二年経った今、私はひっそりと生き返ったのです。

 ねえ、真希。


 ——今から、殺しに行くからね。




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