ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: Are you detective? ( No.5 )
日時: 2010/08/11 23:47
名前: 獏 ◆jOx0pAVPUA (ID: mXej9PvR)

#04 真実②

名残は窓際の椅子に腰掛け、静かに話し始めた。

◇◆◇◆

三十五年前。
従業員達の明るい声と共にホテル、グランドラインの扉は開かれた。
多くの客は笑顔でホテルに入り、そしてまた笑顔でここを去る。
グランドラインは大変人気だった。
美味しい料理に綺麗に整った客室、従業員の礼儀。
どれをとっても完璧だった。
そしてこのホテルには大金をしまうための巨大な金庫が地下に置かれていた。
暗証番号を知るのは経営者と従業員代表者の森口(モリグチ)だけだった。
そしてその大金に目が眩み、愚かにも手を出そうと考えたものがいた。
それが一従業員の篠崎(シノザキ)だった。
篠崎は仲間数人にこの話を持ちかけ、そして八月六日に決行した。
銃を片手に森口を地下に連れて行き、脅し暗証番号を聞き出す。
「暗証番号は何だ。早く言え」
篠崎は銃を突きつけそう言う。
「な、何故だ篠崎。お前はあんなに仕事熱心な奴だったじゃないか。なのに、なんで」
信じられないという表情を浮かべ、篠崎に恐怖の視線を送る森口。

「金だよ、金。俺は金が欲しい。そしてこの金庫の中には一生手に入らないような大金が入っている。
手を出したくなるのは当然だろ?」

そして再び森口の頭に銃を突きつけた。
「早く言いな。死にたくないなら」
森口は恐る恐る八桁の暗証番号を口にした。
「1、73、556、29……だ」
解除音と共に発砲音が響き渡った。
倒れる体に床と壁を染める真っ赤な血。
「ありがとなぁ、森口先輩。でも、もうアンタは必要ねぇや」
大金を手に笑みを浮かべる篠崎。
もう、彼は正常じゃなかった。

「待て!! 篠崎」

そんな彼らの始終を見ている者がいた。
篠崎と同じ従業員の石原(イシハラ)達五人、彼らは警察を呼び彼等を止めに来ていた。
背後から近づく多くの足音。
それは警察の到着を意味していた。
「もう、逃げ場はない。大人しく捕まれ、篠崎」
石原の言葉に篠崎は悔しそうに顔を歪めた。
そして、

「助けてくれ!! 殺される!!」

そう、叫んだのだった。
石原の手に渡された拳銃。
そしてそれに怯えるような芝居をする篠崎。
「動くな!! 手を上げろ」
警察は篠崎達ではなく、石原達、五人に銃を向けた。
そしてその誤解を解く暇もなく放たれた銃弾。
それは石原を四人の仲間を打ち抜いた。
飛び散る血、
薄い笑みを浮かべた篠原。
この強盗事件は、石原達の仕業として世間に広まったのだった。

◇◆◇◆

「それが、三十五年前の真実。無実の人間が無知な警官に殺された、惨い事件だ」
名残は全て話し終わると椅子から立ち上がった。
「奴らは、石原達はただ、この真実を知ってもらいたかった。それだけだったんだよ。泰斗、今日の日付、覚えてるか?」
泰斗にそう問う。
「今日は……あっ……」

平成二十二年、八月、六日。
事件が起きた日。

「そう。彼らは自分らが死んで伝えられなかった真実をこの日に、お前らに伝えたかったんだろうな」
名残はそう言って部屋を出る。
泰斗達は何かを考え込むように黙り込んだ。
「俺、ここで知ったこの真実を伝える。多くの人に」
実史は雑誌編集者であることを利用し、真実を伝えると、そう言った。
名残はその場で立ち止まる。

「良かったな、石原さん。アンタの伝えたかった真実はアイツ等が伝えてくれる」

小さく浮かべた笑み。
そして紅い瞳は眼帯の下に戻された。

死者の姿を映し
死者の言葉を聞き取る
そして彼等の伝えたい真実をこの世に導く

紅く揺れるその瞳は真実をまた一つ、導いた。