ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 本好き魔女の不思議な図書館 ( No.115 )
- 日時: 2010/12/04 14:40
- 名前: 白魔女 (ID: BojjKUtd)
十四話・自問自答
古い窓枠から見える空は、こんなときでも翼の目を惹きつけた。青く澄んだ空は、いつかテレビで見た外国の空のようだ。
狭い、ルーフの家に戻った三人は、暗い雰囲気のまま昼食も済ませた。翼は壁に寄りかかり、ただぼーっと、空を見上げ、ミーナは転がっていた本をパラパラと、あまり面白くなさそうに見ていた。ルーフは、小さな机の上でカリカリと何かを書いている。
静かだった。翼がここに来て、野原に大の字に寝たとき以来だ。翼を休めることなく物語りは足早に進んでいくものだから、翼自身もついていくのが大変だった。
なんで俺は、ここにいるんだろう——。もう、何が何だか、翼もわからなくなってきていた。ミーナと一緒に旅をして、ミーナを幸せにすれば、俺は本当に元の世界に戻れるのだろうか。
あぁ、母さんは今頃、どうしているだろう。消えてしまった俺を、警察にでも頼んで探しているのだろうか。二日間も煙のように消えてしまった、俺を。自分の息子がこうして、本の中で時間を過ごしているだなんて、夢にも思わないに違いない。家出か、誘拐されたか、どちらにしろ、悪い事しか浮かばないのだろう。早く帰って、俺は無事だと言いたい。心配かけて、悪かったね、と言いたい。
しかし、今戻ったところで、ミーナはどうなるというのだろうか? 追っ手に追われる女の子一人を残して帰るだなんて、俺は一生後悔するだろう。だが、コレは、本の中の物語だ。ティアの説明は、いまひとつわからない。俺が消えたら、物語がどうなるのかも、教えてくれない。まず、なぜティアは俺を本の中に連れ込んだのだろう。ティアに取って、これが何の利益になるのだろうか。
わからない。考えれば考えるほど謎だった。考えるより行動、の俺だが、今は行動したところで危ない目に遭いかねない。しかし物語というのは行動しなければ始まらないのではないか? 主人公が考えたところで、物語はいい方向には進まない。
だけど、だけど——俺は、どこかの冒険物語の主人公のような勇気も知恵も、ない。第一俺には、こんな物語、荷が重過ぎる。殺人だの、正直勘弁して欲しいのだ。こんな俺に、一体何が出来ると言えよう? こんな臆病な俺に、何が出来ると言えよう?
そうだ、いつでもそうだった。俺はいつでも、自身がなくて、自分から何かをすることにいつだって不安を持っていた。——なんで俺は、こんななのだろう!
今になって、翼は自分の臆病さを呪うのだった。
とにかく、今は、明日にでもこの街から抜け出して、ミーナを目的地まで連れて行くことだ。目的地の人が、ミーナをどうにかしてくれるかもしれない——そうだと——信じよう——……。