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Re: 本好き魔女の不思議な図書館 ( No.124 )
日時: 2011/01/06 19:06
名前: 白魔女 (ID: BJQqA4RR)

十六話・一人じゃない


 ルーフが医療室に運ばれ、二人は外で待っていなさいと言われた。この街には病院というものはなく、医療の魔法を使う魔法使いの家へ、二人の悲鳴を聞きつけた人達がルーフを運んだ。

 脇を鋭い、ナイフか何かで裂かれたようだった。二人が駆けつけた時には、まだルーフは息をしていた。が、どうなるかわからない、と先生は二人に言い放ったのだった。


 絶望的だった。自分が一体何を間違えたのか、どうしてこうなったのか、もう何が何だかわからなくなってしまっていた。ただ、自分のせいでルーフが傷ついたという、修正できないこの事実だけが、翼の胸を深くえぐった。

 俺がこの世界にいるから、こうなったのか? 俺は一体、どうすればいいんだ……。



「ごめん、なさい……」



 地面にしゃがみこんで、うずくまっていたミーナが、言葉を発した。それはとてもかすれた声だった。


「私のせいです……私が、あの時……でも……あの時は他にどうすることも出来なかった……」ミーナはもう、しゃっくりをあげていた。


「ミーナ……」


「私が……! 翼と出会わなければ……! 私が、翼が着いて来てくれるという誘いを断ってさえいれば……! 二人を!こんな悲しい目にあわせることは、なかった……のに……!」


 翼はそんなミーナの様子を見て、どう声をかければいいのかわからなかった。ただ、翼には一つ、わかったことがあったのだった。

 自分ばかりが、自分のせいだと思っていたんじゃなかった、ということ。ミーナもまた、同じように、自分を責めに責め続けていたのだ。

 翼は、本の外から来た主人公。ミーナは、本の中の重要なヒロイン。来た場所は違えど、立場はほぼ一緒なのだ。物語の運命を左右する主人公と物語には欠かせない、大切な何かを持っているヒロイン——。二人の肩にかかっているこの重荷は、二人とも同じなのだ。

 彼女もまた、翼と同じように今までずっと、悩みに悩んでいたのかもしれない。自分がここにいていいのか、自分のせいで人に迷惑が掛かってしまうんじゃないかという不安と、戦いながら。

 あぁ、俺は、一人なんかじゃなかったのだ。ミーナも、ずっと、苦しんでいたのだ。

 気がついた時にはもう、翼の頬を温かいものが伝っていた。なんともいえない気持ちがあふれ出した。悲しいのか、嬉しいのか、わからずに、翼は声も上げずに泣いていた。


「翼……」


 ミーナが、泣き腫らした目で顔を上げた。


「ごめんよ、ミーナ……もう大丈夫だから……」


 無意識のうちに、言葉を発していた。


「絶対に、この物語……ハッピーエンドにしてやる……から……。
 だから、もう、平気だから……な……」



 ミーナは、ただ、コクリと頭を動かしたのだった。