ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- ——第一章・魔女の不思議な図書館—— ( No.2 )
- 日時: 2010/08/02 16:06
- 名前: 白魔女 (ID: o14VJDmT)
——第一章・魔女の不思議な図書館——
一話・図書——館?
翼は、暗くなった夜道を早足で歩き進めていた。まだ空の端っこはほんのりと明るくなっているが、翼が家に着く前にその光も消えてしまうだろう。入れ替わりで光る街灯も、もうチカチカと光っている。
本当はもっと早く帰るはずだったんだ。友達が学校に忘れ物をして、それを帰りに届けに行っただけだったのに、お礼にと家に上がらせてもらって、プリンまでもらって食べてしまった。決して、その誘いを断れなかった自分が悪いんじゃない……はずだ。
とにかく今は早く家に帰ることが大切だ。そうしなくては、また家で母さんに叱られてしまう。この前も——。
そこまで考えて、翼は足を止めた。ある物が目に入ってのだ。歩き慣れた通学路に、見たこともない建物があったのだ。こんな建物があったら、いくらいつもぼんやりしている翼だって気づいたはずだ。何せその建物は——とても細長かったのだ。
翼のよく知っている建物の間に、無理やり入ったかのようにそれはとても細長かった。エレベーターくらいの幅しかない。ドアの幅しかないのだ。そのくせ高さは3階、4階くらいあるものだから、余計細長く見えた。
つい最近、無理やりこの隙間に作ったとか——?
あり得ない話でもない気がしたが、それもやはりおかしい。誰が? 何故? こんなところに?
それに、この建物は作られてから何年も経っている様に古ぼかしかった。レンガ造りで、西洋風の佇まいに、ツタが絡み付いてしまっている。これが最近作られたものだとして、こんなに早くツタが建物全体を覆ってしまうものなのだろうか?
しばらく翼は、家に帰ることも忘れてこの建物を眺めていた。上を眺め——視線を落とし——くすんでしまっている窓に目をやり——そして木の扉に目をやる。
「……ん?」
翼はその扉にぐっと顔を寄せた。何か書いてある。砂埃を払い、ようやく読めた。
「図書——館?」
そう、扉に掛かっていた板には、確かに“図書館”と彫られている。
こんな縦長図書館、あり得るか? まずどうやって本を置く——? そうか、本棚がとても高くて、はしごか何かで本を取るんだ。——何故そんな面倒なことをしなければならない?
ますます謎だ。考えれば考えるほど、また疑問が渦巻く。これはもう——最後の手段しかなさそうだ。
翼は金色の取っ手に手をかけた。
ふと、翼の頭に、怒った母の顔がよぎった。——大丈夫だ、母さんはわかってくれる。子供の好奇心を何よりわかってくれているはずだ。