ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 本好き魔女の不思議な図書館 『オリキャラ募集終了!!』 ( No.74 )
- 日時: 2010/08/18 22:02
- 名前: 白魔女 (ID: LsY9Mst/)
五話・本の物語
「あっ、あの……」少女が翼に声をかけた。騎士たちはもう遠くに行ってしまったらしい。
「さっきは危ないところをありがとうございました……!」
「——あの騎士、死んだのかな」
翼は一番最初に、頭に浮かんだ言葉を言った。少女の顔色がはっと青ざめる。
「し、仕方なかったのよ……あの場でああでもしなければ、私達は殺されていたわ」
そうだ。その通りだ。でも、翼は自分のしたことが信じられなかった。理由が何にせよ、自分は、人を傷つけ——殺してしまったのかもしれないのだから。
いくら剣道で日本一でも、その技術を他のところにいかしたことなどなかった。ましてやこんな戦闘、初めてだ。未だに血が滴っている剣。いつもは竹刀なのに、こんな武器、使ったことない——使うことがあろうとは思ってなかったのだ。
「ごめんなさい、私のせいで、巻き込んでしまって。私は急がなくてはならないので、これで——。あなたも、ここには長居しないほうが良いわ」
翼は返事をしなかった。悲しい顔で微笑む少女は、すくっとたって洞窟を去った。
「——俺、ここで何やってるんだろう——」
『何って、物語を進めるのよ』
翼は体を硬直させた。見ると洞窟の入り口に、他でもないティアが立っていた。しかしその姿はぼんやりとしている。声も、頭に直接響いてくるような声だった。
『あの子をこのまま行かせたら、これ以上物語は進まない』落ち着いた声で、ティアは続けた。『あなたがこの世界に来た目的は一体何なのか、わかる?』
「も——目的?」
『そう、目的。あなたの目的は、この物語を終わらせること』
「この、物語って」ずっと思っていたことを、翼は口にした。「ここは本の中なんだろう。俺が居ようと居まいと、話は進むはずだ」
『それは違うわ。これは魔法の本——物語なのよ』また、図書館で聞いたように、ティアは詠うように言った。『これはあなたの物語。あなたの行動で物語は進展を生む。あなたの行動ですべてが決まる。ハッピーエンドにもなるし、バッドエンドにもなる——どういう意味かわかる?』
翼は何も言わなかった。いや、言えなかった。そうなることをわかり切っていた様に、ティアは言い放った。
『あの少女——ミーナの運命は、あなたが握っているのよ』
「え? そ、それって——」翼が言おうとしたとき、ティアの姿は何十匹もの蝶に変わっていた。
呆然とする翼。そしてしばらく経って、我に返ったようにミーナという少女のの後を追った。