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Re: 本好き魔女の不思議な図書館 『オリキャラ募集終了!!』 ( No.78 )
日時: 2010/09/29 00:00
名前: 白魔女 (ID: CW87oFat)



六話・出発



「来てくれなくてもよかったのに……私としては旅の連れがいるなんて幸運ですが、あなたこれ以上に迷惑はかけられません。さっきだって——」

「いや、いいんだ。こっちもちょっと訳アリでね……」



 苦笑する翼を見て、ミーナは首をかしげた。

「翼って不思議な人ね」よく通る綺麗な声で、ミーナは笑った。




「これからどこへ行くの?」

「南の、ナッサウという地に知り合いがいるから、そこに助けを求めようと……」

 助け、という言葉を口にして、ミーナはばつが悪そうに翼から目を離した。


「ミーナは一体なんで追われているの? あいつらは、一体——」

「ごめんなさい、これは話せないの。後々にわかるはずだから……」


 ミーナも訳アリか。ここからどう物語が転がっていくのか……俺がしっかりしないと。



 
 ミーナは明るい子だった。どこにでもいる少女のようだったが、気遣いや仕草が、翼の学校の女子とは明らかに違った。

 下手な詮索はやめようと思ったが、やはりミーナの身に何があったのかが気になって仕方なかった。



 そして翼は、ハッと気づく。この感じ——本を読んでいる時に似ている。冒頭は謎だらけで、真実を知りたいあまりにページをめくるその手が段々スピードを増す、あの感じに——。

 なるほど、これが魔法の本なのか。ティアが言っていた意味が少し分かった気がして、翼は心のなしか足が軽くなった気がした。




 涼しく流れるような風。生き生きとした緑。太陽に向かって元気よく咲いている花々——。

 風が肌を撫でる感じも、草の綺麗な彩りも、そして花の香りも。すべて本物のように思えた。これが本の中だとは思えない——。翼はめいっぱい息を吸ってみた。翼の住んでいる場所とは違う、味がする——空気に味などあるのかなど昔は思っていたが、今ここでそれは違う、と翼は実感していた。


 そして、剣が肉に刺さるあの感触も、夢の中とは——。違う、これは本の中——夢なのだ、と翼は自分に言い聞かせた。自分が住んでいる場所とは違う、別の世界——。



「翼? どうかしましたか?」

「——え? な、何が?」

「いえ、何もないならいいのです。翼って本当に——不思議な感じのする人だな、と思って」

「不思議、かなあ。俺からしてみたら、ミーナの方がよっぽど不思議だよ」

「えっ、そ、そうですか?」


 わたわたと慌てるミーナ。それを見て翼はここに来てはじめて、「楽しい」と思えたのだった。