ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: スパイは荒事がお好き—スパイ募集— ( No.13 )
- 日時: 2010/08/07 17:02
- 名前: agu (ID: zr1kEil0)
- 参照: http://blogs.yahoo.co.jp/saku5811/17090280.html
【1章、スパイ・コネクション】
0SSの諜報員である、ハンニバル・アンダーソンは、眼前に聳え立つ「塔」を見上げた。
ここは文化の中心地パリ。
今はナチス・ドイツに占領されたこの街に、占領前の活気や華美さは無い。
しかし、街の象徴とも云えるこの「塔」は悠然と空に向かって伸びている。
市民達は何が起こっても変わらないその「塔」の姿を見て、祖国を蹂躙された悔しさを晴らすのだった。
不意に、ハンニバルの耳にゴムが擦れる、あの自動車特有のブレーキの摩擦音が飛び込んでくる。
彼は緩慢に、ゆっくりと後ろに振り返った。
道路の脇に自動車が止まっている。
そして、自動車のドアに寄り掛かっているトウヘッドの男が、ハンニバルに手を振っていた。
ハンニバルはもう一度だけ「塔」を見上げると、その男の所まで歩き始めた。
彼はドアに寄り掛かっている男に声を掛ける。
「ニック、五分遅刻だぞ」
男、ニコラス・ブロウニングは肩を竦める。
「悪い、悪い。途中で軍の検問に引っかかっちゃってさ。いや〜、連中しつこいのなんのって」
ニコラスはハンニバルが助手席に乗ったのを確認すると、自分も運転席に乗った。
ハンニバルが質問する。
「クラウザーはアジトにいるのか?」
ニコラスはエンジンを掛けながら、その質問に答える。
「クラウなら、また女を引っ掛けに行ってるよ」
それを聞くと、ハンニバルは溜息をついた。
***************
場所は変わって、パリ市内の喫茶店。
そこでは1組の男女が甘い雰囲気を漂わせていた。
男の方、ブロンドの髪をしたハンサムな優男は女に声を掛ける。
「マリアンナ、君はいつ見ても美しいな。溜息しか出てこないよ」
女の方はそれを聞くと、恥ずかしそうな、それでいてまんざらでもない様な、そんな表情を浮かべた。
「もう、エドワードったら。お世辞がうまいんだから……」
エドワードと呼ばれた男はそれを聞くと、口元に笑みを浮かべる。
「世辞なんかじゃないさ、君はまるで女神の様だよ」
エドワードは女に気づかれない様に、店内の時計を見た。
午前十二時四十七分。
彼は女に向かって言った。
「どうやら、仕事の時間が来てしまったらしい。本当に残念だな」
女はそれを聞くと少し不満げに言った。
「しょうがないわね。それじゃあ、次はいつ会えるのかしら?」
男、エドワードはそれを聞くと見惚れる様な笑みを浮かべ、言った。
「Une semaine plus tard」
喫茶店から出たエドワードに、声が掛けられた。
「クラウザー!」
先ほどエドワードと女に呼ばれ、今はクラウザーと呼ばれた男は、声の方向へ顔を向けた。
向けた先には、熊とみまごうほど程の大男
これにはクラウザーも驚いたのか、少しの間、硬直してしまった。
「クラウザー。僕だよ、イヴァンだよ。何固まってるの?」
大男、イヴァンは不思議そうにクラウザーの肩を叩く。
クラウザーはハッと我に返ると、咳払いした。
「申し訳ありませんね、イヴァン。まだ慣れなくて……」
クラウザーはそう言うと、イヴァンを見上げる。
2mほどの身長に、無骨で大柄な身体。
(スパイよりも、陸軍にでも志願した方が良かったのではないでしょうか?)
クラウザーはそんな事を思っていた。
イヴァンは首を傾げながらその様子を怪訝そうに見ていたが、不意に声を掛ける。
「あ、そんな事どうでもいいんだよっ。ハンニバルが本部へ召集を掛けたんだ、行かないと怒られるよ」
早く早くとイヴァンが道に停めてある自動車を指差す。
クラウザーはふうと息を吐くと、自動車に向かって歩き始めた。