ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: スパイは荒事がお好き—スパイ募集— ( No.19 )
- 日時: 2010/08/08 19:35
- 名前: agu (ID: zr1kEil0)
パリ、ベルシー地区。
ここには、パリにおける連合国スパイ達の諜報本部が設置されている。
アジトや支部と呼ばれる場所はパリ市内には何箇所もあるが、スパイ達が本部と決めているのはここだけだった。
スパイ達が集めた情報を整理し、まとめ、そして各国の司令部に送るのだ。
しかし、ソビエト連邦だけはこういった情報システムを使用しなかった。
理由はいくつかある。
まず、彼らはアメリカやイギリスなどの主な連合参加国を信用していなかった。
ソビエト連邦は連合国の中でも特別な位置におり、アメリカやイギリスなどを単なる挟撃仲間としてしか見ていなかった。
元々が資本主義と仲が悪い共産主義の国だ。
資本主義国家を、信用することなどできるはずがなかった。
主な理由の二つ目としては、ソビエトが閉鎖的な国家であるからだ。
上で述べた通り、共産国家であり自由というものが制限されているソビエト連邦は、結果として秘密主義になる。
他国と協力して、情報を分け合うよりも自分らの国で独占したいと考えるのも当然だろう。
スパイが誰かを信用するなどというのは、それ自体が相当珍しい。
連合国のどの国も、スパイの本質は変わらない。
アメリカもイギリスもソビエトも、どの国の諜報機関も考えるのは同じだ。
——他国に気取られず、そして他国よりも良い情報を——
結局はこの『連合国諜報本部』などというこのシステムも、そういう思惑の結果、生まれた物でしかない。
その諜報本部のとある一室に、4人の男がいた。
彼らは部屋のソファや椅子、ベッドと各々、自由気侭に陣取り、言葉を交わしている。
「それで、レジスタンスの連中はなんて言ってるんです?」
「もっと銃や爆薬が欲しいそうだ、軍の車輌駐屯地に攻撃をしかけると言っていたな」
「あまり動かれてもなぁ、軍の検問所がこれ以上パリ市内に張り巡らされたら……うう、怖い怖い」
「ニックは自動車の運転と逃走計画だっけ。逃走ルートが狭くなっちゃうのはやり辛いよね」
上から、クラウザー、ハンニバル、ニコラス、イヴァン。
彼らは今後の見通しや計画について、話し合っている。
スパイは他人を信用しない。
何故なら、それは死に直結するからだ。
しかし、それはスパイが人間である限りは絶対ではない。
そう、絶対ではないから、彼らはある契約を交わしている。
『互いが互いを助け合う』
一見するとどこかの友愛団体の標語に見えるが、決して言葉通りの意味ではない。
互いの任務全般のサポートと協力。
そして互いの生命を保障し、その為に必要なあらゆる情報を共有する。
言葉の裏には如何にもスパイらしい意味が隠されているのである。
「それで、今度のは?」
ニコラスがテーブルに足を掛けながら問う。
「私の任務だ、ニック」
窓際に陣取っていたハンニバルが答える。
彼は吸っていた煙草を外の道路に落とすと、椅子の下にあったトランクケースを開いた。
そこから幾つか地図や写真を取り出し、部屋の中心にあるテーブルにそれを広げる。
4人がそれを覗き込んだ。
「目標はパリ郊外の物資集積所。武器や弾薬などが大量に蓄えられている」
それを聞いてクラウザーが言う。
「レジスタンスへの武器供給の話がありましたが、もしや……」
ハンニバルは薄く笑った。
「お察しの通りだ、弾をすぐ使いきってしまう連中の為に、ドイツ製をプレゼントするのさ」