ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: スパイは荒事がお好き—スパイ募集— ( No.24 )
- 日時: 2010/08/29 17:11
- 名前: agu (ID: zr1kEil0)
先程、走り去った自動車。その内部では四人の男が言葉を交わしていた。
「皆、聞いたか?“アプヴェーアのリッターセン中尉だ。他に3人乗せている。詳しくは書類を見てくれ”だと」
「ごめんね、ニコラス。僕もう無理・・くくく、ははははは」
「ハ〜ンス・オ〜スター長官直々のサイ〜ンが書かれてい〜る。ぷぷっ」
「Shit!Shit!Shit!お前ら後で覚えてやがれ。ケツにショットガンをお見舞いしてやるからな……」
賑やかな車内。
先刻、ニコラスがドイツ兵士に言い放った一連の言動が、他の三人によってからかわれているらしかった。
普段は紳士的、冷静沈着などという言葉とは無縁のニコラス。
真面目な、堅苦しいとも言える先刻の台詞は、普段とのギャップがとても際立っていた。
普段の彼を知っている者から見れば爆笑物だろう。
実際に彼を笑っている者も三人程、すでに存在している。
ニコラスはそれを苦々しく聞いているのだった。
不意に、からかわれていた彼、ニコラスが真剣な面持ちで言う。
「もうすぐ第27物資集積所だ。準備は良いか?」
その言葉と同時に彼らの雰囲気がガラッと一変した。
先程、冗談を言っていた口は真一文字に堅く締まり、にやけていた顔は、いかにも“軍人”と云った厳格な顔立ちになっている。
その双眸に、狩人の光を宿すハンニバルが告げた。
「AM6:34分、サプライズ・アタック作戦を開始。各員の奮闘に期待する」
様々な種類の物資が置かれ、“軍の物置”とも呼ばれる物資集積所。
武器や弾薬、食料、そして兵士への手紙から機械の交換部品など、集積されている物は多岐に渡っている。
その中でも、第27物資集積所は物資を保管している比重として武器と弾薬が8割を占めている。
集積所司令官はゴードン・ゴロプ中佐。優秀な補給士官だが、少々気が弱い所が難点であった。
スパイ達を乗せた自動車は、集積所に到達した。
作業をしている兵士達は、その黒塗りのロールスロイスを怪訝そうに見るが、すぐに目を逸らす。
彼らには理解できているのだ。ロールスロイス、しかも黒塗りとなれば、中にいる人間はSDかアプヴェーアしかいないという事を。
ロールスロイスはやがて、集積所の中心にある野外管理所の前に止まった。
運転席と助手席から、アプヴェーアの制服を着た男が一人ずつ出て来る。
助手席から出てきた男は、すぐに周囲を警戒し始めた。
まるで何処かの国家元首を護衛するSPと云った様子である。
そして、運転席から出てきた男も、後部座席のドアを恭しく開いた。
開かれた後部座席から姿を表したのは————
正に、巨人、熊、そう言い表すしかないその体躯。
2mはあろうかというその身長に、鍛え上げられたな大柄な身体。
ドイツ国防軍の将校用軍服を着たその男は、まさしく歴戦の勇士と云った風体であった。