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Re: スパイは荒事がお好き—スパイ募集— ( No.59 )
日時: 2010/09/07 22:09
名前: agu (ID: zr1kEil0)

ゴードンは内心穏やかではなかったが、差し当たり話は
聞かねばならぬと、面前にいる大佐に言葉を放つ。

「……了承しました。自分で宜しければですが……その、如何なる協力も惜しみません」

大佐はそれを聞くと、先程からの如何にも失望したという様なしかめ面を一変させ、
何処か穏やかさを感じさせる微笑を浮かべた。
彼はそのまま、和やかな口調でゴードンに発言する。

「良かった。君ならそう言ってくれると思っていたよ……それでは、さっそく本題に移ろうじゃないか。なぁ、中佐?」

大佐はゴードンの返事を待たず、矢継ぎ早に次の言葉を紡ぐ。

「このパリにて、最近、レジスタンスの活動が活発化している事は知っているだろう?」

ゴードンは大佐の有無を言わさない、突発的な言動に困惑しながらも返答した。

「え、ええ……最近、良く輸送部隊が襲撃されますので……そういう事実は認識しておりました」

大佐はゴードンの話を黙って聞きながら自分の顎に手を置いた。
彼が話し終えると、大佐は真剣な、それでいて何処か憂いを含んだ表情で、口を開く。

「……我々が掴んだ情報によると、レジスタンスの連中はどうやら、とある政府要人の“暗殺”を企てているらしい」

“暗殺”その単語を理解したゴードンは、自分の背中から冷や汗が流れ、肩に力が入るのを感じる。

「……暗殺ですか……」

大佐は腕を組みながら、首を左右に振る。ゴキリという小気味良い音が周りに響いた。

「ああ、正しくは“襲撃”と言うべきだろうがな……だが、今はそんな事は重要ではない。問題なのはその政府要人の命が狙われているという事実だ」

ゴードンは真摯に、しかし少し腑に落ちない表情で返えを返す。

「……しかし、自分は大佐殿に何の協力が出来るでしょうか?……確かに兵站には多少の自信がありますが……」

その言葉にニヤリと、ふてぶてしいとも言える笑みを浮かべる大佐。
彼はゴードンの方へ、その大柄な身体を乗り出し、言った。

「……中佐、君は“祖国”に忠実だな?」

ゴードンは黙って勢い良く立ち上がり、敬礼した。

「Sieg Heil!! Heil Deutschland!!」

大佐は愉快そうに膝を思い切り叩き、返答する。

「Heil Deutschland!!……宜しい、やはり君を選んで正解だったようだ」

彼は懐から何かを探る。
出てきたのは軍内でよく使われる種類の文書。
大佐は黙したままそれをゴードンの方向に差し出した。