ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: スパイは荒事がお好き—スパイ募集— ( No.64 )
- 日時: 2010/09/24 16:24
- 名前: agu (ID: zr1kEil0)
標準と比べると些か大きい、灰色の封筒。
ゴードンはそれをしげしげと見つめると、慎重な仕草で封筒を受け取った。
大佐は手振りで彼に読むように伝える。
ゴードンは怪訝そうな顔で大佐を一瞬見たが、すぐに封筒から文書を取り出し、その“白い紙”に目を通す。
時がだんだんと過ぎるにつれ、彼の顔はそれと比例するかの様に不安げになっていった。
「輸送部隊を陽動作戦に使う、そう仰られるのですか」
「如何にも。そこに書かれている通りだよ」
書類には、レジスタンスに襲撃される可能性が高い市道がリストアップされており、それと同時に作戦についての簡単な概要が明記されている。
それに拠れば、これは輸送部隊を使用する陽動計画であり、また最小限の犠牲しか被る事が無い“理想的”な作戦であるとの事だった。
護衛ががら空きの、武器を満載した輸送トラック部隊を、レジスタンスが潜伏していると思われている近辺を通過させる。
それを何回も何回も何回もと繰り返す、そうすると一部の血気に逸ったレジスタンス達は焦れて、襲撃を仕掛けてくるだろう。
そこを事前に用意をしていた“専門の部隊”が捕らえる、という計画であった。
ゴードンは正直な感想を舌に乗せる。
「中々に、その……えげつないですな」
大佐は皮肉そうに一笑すると、人差し指を意味ありげに左右に振った。
「我々がしている仕事は、本来そういう物なのだ。中佐」
ゴードンは一瞬戸惑いの表情を浮かべたが、直ぐに軍人らしい毅然とした顔付きになる。
彼は確かな決意を乗せて、その言葉を放った。
「……了解しました、大佐殿。“準備”はお任せください」
大佐はその顔に満面の笑みを浮かべると、感謝の念を述べた。
「ありがとう、ゴロプ中佐。作戦が成功した暁には、君は鉄十字勲章を授与、とまではいかないが、この閉職からまた出世街道に戻れるだろう」
刹那、彼はまるで蟻を観察をする子供のような、そんな
何とも云えぬ不気味な目付きになって、ゴードンを凝視する。
先程の、嬉しさを隠しきれない喜びに溢れた声とはまったく対照的で無機質な、
何の感情も含まない冷徹な声で彼は言った。
「ああ、それと……今回の接触は最高機密となる。無論、この事は“君と私以外には誰も知らない”分かったね?」
こういう人は苦手だ———そうゴードンは思いながらも敬礼する。
「自分は“何も見ておりませんし、聞いてもおりません”」
大佐は静かに了承の意を示した。彼は足早にオフィスから去っていく。
ゴードンは彼らが階段を降りる時になってようやく溜息を付いた。