ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: スパイは荒事がお好き—スパイ募集— ( No.69 )
日時: 2010/10/03 16:25
名前: agu (ID: NHSXMCvT)

道路を疾走する何台ものトラック。
荷台にギッシリと武器弾薬が積まれているそれらは今、“作戦区域”であるフェール市道に入った所だった。

その輸送車両群に紛れる様に走る、だがそこには明らかに不似合いな高級車が一台。
中にはやはり、同じ様に高級将校と思われる人物が乗っている。
大佐の階級章を付けたその大男は、その口を開いた。


「“作戦”は順調かね?」


その質問に前部の助手席に座っていた男が答える。


「大佐殿、全て順調であります……奴らは思い知る事となるでしょう。自らの迂闊さと我らの力を」


その返答に、他にも乗っていた男達がニヤニヤと笑い出す。
大佐はそれを見て少し困惑した顔をすると、言葉を紡いだ。


「まったくもって悪辣、救い様がない」







変わって、こちらは輸送車両群の後尾に位置する軍用指揮官車。
彼らのかなり前を走っている高級車、ロールスロイスとは違い、その車はとても無骨で実用的なフォルムをしていた。
その上、屋根がない、所謂オープンカー。風は乗員に真っ直ぐと向かい、その猛威を叩き付ける。

集積所司令官、ゴードン=ゴロプ中佐はこの車両が嫌いだった。

(せめて屋根は付けてくれれば……風がうっとおしてしょうがない)

その風が当たるのを好む人々もいるが、ゴードンはどうやらそのカテゴリーに入らない人種の様である。
彼はしきりに手を顔の前に翳し、風の猛威から顔面を守ろうとしていた。


「ゴーグルが常備されるべきだ、この車両には」


愚痴を放ったゴードンに、律儀にも前部の運転手が声を挙げる。


「かの砂漠の狐、エルヴィン=ロンメル将軍は英軍から奪ったゴーグルを着用していると聞きますよ。捕虜が携帯していた物は、重要と判断されなければ集積所に送られます……一つ、掻っ攫ってみては?」


彼の冗談に、隣に座っていた護衛の兵士が可々と笑う。
しかし、ゴードンは冗談という物をあまり理解できる性質ではなかった。


「貴様!私にその汚い口を二度と開くんじゃない!軍の備品に手をつけるなど、言語道断だ!!」


冗談を真に受け取られ、慌てる運転手。それを助手席の兵士が急いでフォローした。


「中佐殿、軍曹の言った事は冗談であります。中佐殿の緊張が少しでも和らげばと……」


ゴードンは彼の言い分に些かその眉を顰める。


「冗談は冗談でも、性質が悪すぎる。もうこれっきりにしておけ」


前部の二人は揃えて了解と口を合わすと、これまた揃えて溜息を付いた。






そのようなやリ取りを各車がしていた時、森に潜む“狼”達はじぃとその車両群を見つめていた。
後、数十秒で彼らの“網”に入るというのに、それを知る由もなく暢気に、車両はだんだんこの林道に近づいてくる。

不意に“狼”達の懐から、長い筒が取り出された。
鈍いミルク色に光るそれは取っ手が二つあり、片方は引き金となっている。

明らかに普通の小銃よりも大きいそれは、何処か、凶悪な雰囲気を醸し出していた。

“狼”達は哂う。

(サア、もうすぐ極上の“羊”の群れがやってくるぞ。サア、もうすぐだ)

すでに輸送車両は彼らが待ち伏せする場所のすぐ側まで来てしまっている。
もはやその牙からは逃れられない。

一匹の“狼”がその肩に筒を乗せた。

その筒の左に取り付けられた鉄の照準に、先頭の一台が写る。

触れた引き金は重く、そして金属特有の冷たい感触があった。