ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: スパイは荒事がお好き—— ( No.72 )
日時: 2010/10/07 16:29
名前: agu (ID: NHSXMCvT)

林道に差し掛かった輸送部隊。ここを抜ければ、レジスタンスが潜伏している場所まではもう近い。
作戦指示書には、その手前の廃病院に例の“専門部隊”が待機していると書かれており、レジスタンスの攻撃が始まった際にすぐ駆けつけるという話。

しかし、ゴードンの心にはある種の不安が付き纏っている。それは彼自身にもがなんであるかは分からない。
ただ言えるのは、それは漠然とした物で、まるで霧の様に曖昧、はっきりとした形を持っていないという事。

例えるのならば、それは第六感。あえての俗に言う“直感”と呼ばれる物であろう。

ゴードンはそんな不明瞭な感情を持て余しながら、丁度、前方に見える輸送トラックを凝視した。


「もうすぐ林道に差し掛かります」


何処かふっきらぼうな声で運転席の軍曹が言う。
隣に座っている護衛役の先任曹長は、肩に掛けていたMP40短機関銃を静かに膝に置いた。

心配無い、大丈夫だと自分に言い聞かせながら、ゴードンは目を瞑る。
昔から落ち着こうとする時はいつも瞼を閉じて、深呼吸。一種の癖として染み付いてしまったそれは、彼にとっては信頼できる、最も効果的な方法だった。

それから数十秒。ゴードンは閉じられている目をゆっくりと、緩慢に開く。

すでに辺りの景色は緑一色。針葉樹が道の周囲に鬱蒼と繁っており、先程の道とは明らかに違う。
たったの数十秒で、ここまで違ってしまう事に不思議な感慨を抱きながらも、彼は気を引き締める。
そうして、腰に携帯するルガー拳銃を点検しようとした、その直後の————轟音。

凄まじい爆発が前方で発生する。
完全に不意を取られた形になった輸送部隊は前方の車両の急ブレーキに混乱し、横転や、後部に激突。

隊列はバラバラとなり、最後部にいたゴードンの指揮車でさえも、何とか車体を横に滑らせて回避できた次第だった。

突然の非常事態。

どうしたのだ?作戦予定地はまだ先のはず……
大佐が読み違えたのか?それとも連中に情報が……

ゴードンは半ば呆けている自分に喝を入れながら、前部座席で何事かと慌てている二人に指示を出す。


「軍曹、それに先任曹長!爆発だ、レジスタンスの襲撃に違いない!!急いで前方に進み、大佐殿の救出を!」


それに間髪入れず運転席の軍曹が異論を挟む。


「中佐、それはあまりにも無謀すぎます!この状況じゃ、歩いて行くしかありませんよ!!この場からすぐに脱出を———」


「Schweig!!(黙れ)そのお喋りな口を閉じろ!さぁ、降りるんだ!」


「……了解しました、Scheisse!(クソ忌々しい)」


軍曹は苦々しげな顔をしながら、シフトレバーを倒すと、ホルスターに携行していたワルサーP38拳銃を引き抜く。
助手席の先任曹長もMP40を構え、二人は姿勢を低くしながら指揮車から降りた。

当のゴードンもルガー拳銃のグリップにゆっくりと手を滑らせる。

ここは危険だ。大佐殿を迅速に救助し、そして脱出しなければ……

彼は後部座席の扉を開くと、足早に“混乱の極み”にある前方へとその歩を進めた。