ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: モノクロⅡ ( No.59 )
日時: 2010/08/18 21:43
名前: アキラ (ID: STEmBwbT)

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ドレスに着替えたトルバート一向は、モーゼスに案内されて一階の大広間に。
そこには継承式に招待された貴族の人々が集っていた。

「あれは、トルバート陛下ではございませんの?」
「陛下まで招待されているのね。 凄いわ」

白い容姿のシロは目立つようで、貴族の間柄でも女王を辞退した神の生贄として、よく噂がされている。
シロ本人はその事をちっとも、なんとも思ってなかった。

「あれがハーデル王国王女、リリー様だ」
「まだお若いのね」
「“神の生贄” が女王を辞任されたのだ。 噂によれば、囚人との間に出来た子供だとか……」

長年に及ぶ神の儀式を止めたトルバートのやり方に、不満を抱いてる者も多い。
先代国王でもあり、シロの実兄でもあったミリアムが暗殺されてから、王家には魔術師の護衛がついていた。

「……アンソニー、少し離れてくれる?」
「え、ですがお嬢様。 もしなにかあったら……」
「子供じゃないのよ。 心配性なんだから」
「ええ? そ、そうですか?」

アンソニーはあたふたしつつもリリーの傍を離れない。 溜息をつきながらも、リリーはアンソニーをじっと見つめた。

「なんでしょうか」
「……アンソニー、昨日特別な事はあったかしら」
「特別?」

少し考える素振りをみせて、アンソニーは首を横に振る。

「いえ。 なにもありませんが……どうしかしました?」
「なにもないわ」

アンソニーの記憶は消されている。
リリーの中で、何かモヤが大きくなった。 ヒースの事が、頭から離れない。
闇の王の器として選ばれた、美しき人の子。

「みなさま、ようこそおいでくださいました」

大広間に、マイクでモーゼスの声が響く。
今までワインやらを飲んでいた人々はその手をとめ、前にたつモーゼスと、リアナイト家の一向を見つめた。

「今宵は、リアナイト家の当主をおさめる継承式にお集まり下さり、ありがとうございます。 私、リアナイトの執事、モーゼスと申します」

モーゼスの演説を聞きながら、淡い紫のドレスを着たロゼは、必死で魔術のコントロールをしていた。

今宵、長年封じてきた結界を弱め、魔王を解くのだ。
継承式の一瞬であれと、それは至難の業。

「早くすませてよね〜、モーゼスのバカっ」

陰でそう愚痴りながら、ロゼが結界を少しずつ緩める。

「では、継承式を始めます。 我がリアナイト家当主、ヒース・リアナイト」
「ヒース?」

その名前に、リリーが反応する。 
だって。
その名前は、昨日出会った、

「…………」

扉が開かれ、振り返る。
そこには、昨日地下室にいた美少年が立っていた。

「……ヒース」

その闇の王の登場に、人々は深く跪き、頭を垂れる。
今までの当主はただの人間だったが、今回は違う。
闇の王なのだ。

魔物の血を受け継ぐリアナイトにとっての、最大の上級貴族に位置する、気高い当主。

ヒースはリリーとすれ違うさい、チラリと彼女を見、微笑んだ。

「………っ」

あまりの衝撃に、言葉を失う。
美しすぎる容姿に釘つけになってしまう。 

「ヒース・リアナイト。 我がリアナイトの血筋における、魔物の王よ。 家臣と家訓を守り、我がリアナイトを納めるか」

ソーヤが、重々しい口調で儀式の言葉を語る。
その様子を、どこか冷めた様子でシロとクーは見ていた。

「…………………?」

人々が、不審そうに垂れていた頭を上げる。
ソーヤの言葉に、ヒースがなかなか答えなかったからだった。

ヒースは、どこか遠くを見るようにして、ぼんやりしていた。

「……ヒース? どうしたの」

小声でソーヤが問うた。 
そのとき。

「あああああああああああああああああああああっ」

甲高い声がして、辺りがどよめく。
一瞬してそこは、惨劇の場所になった。

「ヒー、ス?」

すぐ近くにいた、ヒースの義姉であるアレイシーが、瞳孔を開眼させた。
ヒースが、ソーヤを八つ裂きにした。

魔術だと思われる、黒い閃光を放ち、ソーヤの体を貫いたのだ。

「リアナイトの当主がっ」 「奥方を抹殺したっ!」

あまりの出来事に、皆が騒ぐ。
リリーは青ざめた表情で口元をおさえ、震えた。

「お嬢様っ」 「っ! 母さま……」

アンソニーの声で我に返り、リリーがシロに駆け寄る。 シロは無表情でヒースを見つめ、血の赤を見て。

「赤は、ミリアムの色だわ」

小さく小さく呟いた。
クーにはその言葉が聞こえており、軽くシロを睨んだ。

「……なんで、なん……で……」

ロゼは、少し離れた所でその光景を見ていた。
信じられないといった顔で。

「嘘だ。 だって、僕はちゃんと……結界をきちんと、張っていたのに」

迂闊だった。
昨日、リリーが入った時点で結界を修復しておかねばならなかったのに。

「闇の王が……解き放たれる……」

ヒースは人々に向かい、気高く声を放つ。

「我は闇の王、ヒース。 リアナイトある者に復讐をしに、魔術の結界を打ち破った! 今ここで、断罪を放つ」

そこまで言い、 「………っ」 リリーと、目があって。

「と言いたい所だが、ここには俺の大切な人もいる。 その復讐劇は今回はここまでとさせてもらおう! モーゼスっ」
「はっ」

モーゼスは背中から黒い翼を生やし、大広間を飛んだ。
人々の頭上を速く通過し、

「え?」

リリーを抱き上げた。

「お嬢様っ!」 「リリーっ」
「この娘は、もらっておく」

モーゼスは一言そう言い、リリーを抱え上げ、黒翼を大きく広げる。

「どけっ!」

クーが前に立ち、魔法円を素早く動いて閃光を放つが、モーゼスには当たらない。

「おいたがすぎるわ……。 リアナイトのぼうやっ!」

シロは薄笑いを浮かべているヒースを睨みつけ、怒りをあらわにさせる。
ヒースは闇のように体を影にして、消えて行った。