ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 誰も知らない誰かの物語 ( No.19 )
- 日時: 2010/08/23 16:26
- 名前: 神無月 (ID: XOYU4uQv)
- 参照: http://www.youtube.com/watch?v=g753DzVrm2Y&feature=related
第三幕 「善人ぶる悪人と悪人ぶる善人」
・・・笑えない。
「アハハ、冗談だって、冗談!」
目の前で笑うコイツを殺してやりたいと思うのは、間違ってないはずだ。
「お前の冗談は冗談に聞こえないんだよ!!」
「えぇ!?ヒドイ!!ただ・・・ちょっと調子にのってるみたいだから、飲み物にちょーっと白い粉を入れてあげようかなって言っただけなのに!!」
っコイツは、ハァーと重いため息が出た。
「それが冗談に聞こえないって言ってんだよ!!」
何でだよう、とふてくされたような顔をする様子は、普通の人に見える。何の害もない、普通の。
—だからこそ、やっかいなんだ。
「お前な、自分が“何なのか”よく考えろ」
そう言えば、ふと顔を俯かせた。はたから見れば悲しんでいるように見えるであろうそれは、俯く瞬間を見てしまったからそうは思えなかった。
俯く瞬間、コイツの顔から・・・表情が消えたのを。
ゾクリとするような表情(かお)だった。無表情ではない、完全なる—無。
だが次に顔を上げたとき、コイツの顔に表情は戻っていた。ただ、その瞳を除いて。
「酷いなぁ、俺は、ごくごく普通の一般人だよ?」
一般人、ね。
お前は、そうやってまた自分を誤魔化すんだな。
その時、目の前で幼い女の子が転んだ。痛みに泣きだしてしまったその子に、コイツ—疾風(はやて)は手を伸ばした。
「・・・・・っ!!」
「大丈夫ー?」
思わず身構えた俺を気にも留めず、疾風は女の子をひょいと持ち上げて顔を覗きこんだ。その様子に、肩から力を抜いた。
・・・びっくりした。一瞬コイツが・・・女の子を________すのかと思った。
女の子をあやす疾風のもとに、女の子の母親らしき人が駆け寄って来た。女の子を抱き寄せ、頭を下げた母親に笑いかけ、泣きやんだその子に手を振ると、疾風はこっちに戻って来た。
「いやー、一日一善だよね!」
ニコニコと笑う姿に、自然と眉根が寄った。
「善・・・ね」
俺の呟きに、疾風は首を傾げた。
そんな疾風に、俺は問いかけた。
「お前は、“何”だ?」
疾風は、ゆるく笑って答えた。
「善良な、一般人だよ」