ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 誰も知らない誰かの物語 ( No.20 )
- 日時: 2010/08/16 16:56
- 名前: 神無月 (ID: XOYU4uQv)
ソイツは、突然現れた。
何の前触れもなく投げられたナイフを、疾風はなんとはなしに止めた。
「・・・誰だ」
発せられた声は、今までの疾風からは想像もできないほど冷たく、低いものだった。
「俺は“赤鬼”」
アカキ?分からない俺とは違い、疾風は知っていたのかあぁ、とでもいうように頷き、そして皮肉げに口元を歪めた。
「臆病者の赤鬼・・・ね」
その言葉が許せなかったのか、赤鬼は疾風に斬りかかった。それを余裕で避けながら、疾風はなおも挑発する。
「ハハ、怒るってことは自分でも自覚してんだろ?なぁ、弱虫で臆病者の赤鬼さん!!」
「てめぇ・・・・っ!!!!」
激昂して、ナイフを疾風の顔面めがけて振り下ろした赤鬼は、しかし次の瞬間目を見開き動きを止めた。
「疾風っっ!?」
疾風は、振り下ろされたナイフを避けることはしなかった。止めたのだ。ナイフの—刃を掴んで。
疾風の手から、赤い液体がぽたぽたと滴り落ちた。
「っっっ!!!」
それを見て、赤鬼は勢いよくナイフから手を放した。疾風はそんな赤鬼を見て、やれやれろいうように首を振り、ナイフを放した。ナイフは、カラン、という音をたててアスファルトの上を転がった。
手のひらから流れ落ちる血はそのままに、疾風は震える赤鬼を見据えた。
「だから、臆病者だって言ってんの」
そう言って赤鬼に一歩近づく。
ビクリと肩を揺らした赤鬼に、疾風は冷酷に言い放った。
「あんたは、“こっち”に来るべきじゃない」
「・・・何故」
やっと発された声は、震え、とてもか細いものだった。そんな赤鬼に、疾風は二コリと笑みを浮かべ、言った。
「だってさ、あんたからは血の臭いがしないもん」
その言葉に、赤鬼は目を見開いた。
「あんたさ、人殺したことないでしょ?」
さらっと言った疾風は、赤鬼に違う?と首を傾げてみせた。
答えない赤鬼に、フム、と言って言葉を続ける。
「図星か、やっぱねー」
するとキッと疾風を睨みつけ、叫ぶようにして赤鬼が言った。
「俺は・・・っ!!!」
「俺は、何?」
「っっ!!」
「正直言ってさ、迷惑なんだよねー。あんたみたいなの。舐めてんじゃねぇよ、って感じ?」
「てめっっ!!」
「黙れよ」
突然の、低く、威圧感のある声に赤鬼は息を呑み、押し黙った。
「こっちは、汚れてない奴が来る所じゃない。闇を知らない人間が、興味本位で覗いちゃいけねぇんだよ。
ましてや、自分からその闇に飛び込んでいくだなんて言語同断だ。
俺たちは、汚れたくて汚れた奴ばかりじゃない。むしろ、そうするしかなかった。そうしなくちゃ生きていられなかった。そんな奴らばかりだ。
—お前は、そのどちらでもないだろう?
分かるか?お前が今していることは、俺の・・・俺たちへの冒涜だ。
命の重さも知らねぇような奴が、ちょっと悪いことしてみてぇからくらいの気持ちでやってんじゃねぇよ。
俺は、お前みてぇのが一番許せねぇ。
・・・殺されたくなかったら、とっとと俺の前から消えろ。そして、二度と、こちらに現れるな。お前は、普通に生きていればいいんだ」
赤鬼は、何も言わなかった。
・・・否、何も言えなかった。
苦しそうに、それでも抑えきれない怒りを抱えた疾風の言葉に、何も、言うことが出来なかったのだ。
全てを吐き出すかのように長く息をついた疾風は、またいつも通りの笑みを浮かべ、軽い口調で言った。
「はい、シリアスな雰囲気はここまでー。もう俺疲れちゃったよー」
はぁ、とあからさまなため息をついた疾風に赤鬼は無言で目を向けた。その表情は、今までとは違って。
そんな赤鬼に、今まで成り行きを見守っていた俺はそっと声をかけた。
「・・・もう、いいだろ?」
何の為に彼がここに来たのかは分からないけれど、後悔したような、そんな表情の意味なら分かるから。
俺を縋るような目で見つめた赤鬼に、頷いてみせた。
赤鬼は、無言でそこから立ち去っていった。
「・・・疾風」
「ん?」
こっちを見た疾風の瞳は、揺れていた。
「・・・帰るか」
「・・・ん」
風が吹く。その風は並んで歩く俺たちの間を、静かに、冷たく通り過ぎていった。
*(あとがき)
・・・・またまた長くなっちまったぜorz
はい。作者の後悔はどうでもいいとして。
今回の物語は、従姉から出されていたお題に基づいて書きました。
お題は、題名のまんま「善人ぶる悪人と悪人ぶる善人」
私の文才のなさのせいで伝わらなかった方が大半だと思いますが、とりあえずはそういうテーマで書いていた、ということは知っていて下さい。
次回は短く書きたいな、でもやっぱり長くなるんだろうな・・・、とか思いつつ。
ではまた次回、お会いしましょう。