ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 誰も知らない誰かの物語 《お題募集中》 ( No.53 )
- 日時: 2010/08/23 16:42
- 名前: 神無月 (ID: XOYU4uQv)
- 参照: http://www.youtube.com/watch?v=_8lDyxCXImI&feature=related
第五幕 「繋がれた愛情」
—だんだんと、意識が浮上する。目を開ければ、そこにはいつも通りの光景が広がっていた。
捻じれ、千切れた無数のマリオネットが床に散乱し、天上からはそれらの腕や足が紐で吊り下げられている。四方を囲む分厚い石の壁は真っ赤に塗りつぶされていて、まるで血の色のようだった。
ゆっくりと自分の四肢を見れば、手枷と足枷をされており、それは太く頑丈な鎖に繋がれていた。鎖は柱にきつく巻きつけられていてびくともしない。
「変化なし、か・・・」
夥しいまでの数の壊されたマリオネットも、血で塗られたかのような壁も、自分の四肢に巻きつく鎖も・・・。いつもと何一つ変わらない、狂った光景。
「ここは、“牢獄”なんだ・・・」
壁に取り付けられた鉄格子の扉や、光を取り込むためだけに作られた小さな窓を見る。
ここは、彼女の部屋。狂気と、愛憎にまみれた、彼女の創り上げた世界。
ガチャガチャと鉄格子につけられた南京錠を外す音が聞こえ、俺は緩慢な動作でそちらへ顔を向ける。
「おはよう。よく眠れた?」
ふわりと微笑む彼女。昔は好きだったその笑顔は、今となっては恐怖を抱くものでしかなかった。
「・・・・あぁ」
絞り出すように返事を返す。その声は掠れ、わずかに震えていた。
「そう。なら、朝食をとりましょうか」
朝食。その言葉に体が強張るのを感じた。毎朝行われる“それ”は、わずかに残った正気を全て壊してしまいそうだった。でも、耐えなければならない。
「ほら、口を開けて」
“それ”を見ないようにして目を閉じながら口を開ける。その少しだけ開いた隙間に彼女が朝食を運ぶ。
「ぐっ・・・・・!!」
ごほっ、げほっっ、と思わずむせてしまった俺に彼女が心配そうに声をかけた。
「大丈夫?・・・そんなに嫌だった?」
ぞくりと、背筋が強張った。嫌だなんて言ってはいけない。生きて、いたいのならば。・・・例え“それ”が、人の_______だったとしても。
「・・・いや、すこしむせただけだ」
そう言うと、彼女は嬉しそうに微笑んだ。
「そうよね。だって貴方が私の作ったものを嫌だなんていう筈がないもの」
やわらかい口調の中に、抑えきれないほどの狂気を感じた。
「ねぇ、貴方は私を愛しているものね・・・?」
その問いに、思わず言葉に詰まってしまった。
愛している。彼女の言うその言葉は、鎖となってまた俺を縛るのだ。返事を返せば、その鎖は余計に重くなるような気がして。少しだけ、返事を返すのが遅くなってしまった。
それは、彼女の狂気を溢れさせるには十分だった。
「・・・・あ「どうして?」
肯定の言葉は、しかし低い彼女の声に遮られた。彼女を見て、思わず言葉を失う。
その瞳に宿った、狂気と、狂喜と、憎悪と、愛情に。
「どうしてすぐに返事をしないの?あなたは私を愛しているのに。愛していない筈がないのに。ならどうして私を見ないの私に愛していると言わないのどうしてどうしてどうしてどうして」
初めのほうはかろうじて言葉として成り立っていたそれも、だんだんと彼女の狂気に犯されていく。
「ねぇなんで貴方は笑わないの貴方が私の傍にいられないと可哀相だと思ったからこうしてここにいさせてあげてるのにどうして分からないの」
狂ったように言葉を吐き出す彼女は、そこでぴたりと言葉を止めると、眼球が飛び出してしまいそうなほど大きく目を見開いてぐんっと俺に顔を近づけた。
そして、低く、問いかけた。
「まさか、他に好きな人でもいるの・・・?」
自分でそう言った後、彼女は怒りに顔を強張らせると叫んだ。
「許さない、そんなの許さないわ!!貴方は私のものなのに!!私だけを見ていればいいのに!!貴方を愛すのは私だけなのに!!」
と、そこまで言うと彼女は急にふわりと微笑んだ。まるで天使のように、どこまでも、清らかに。
「そうよ、そうすればいいんだわ。ちょっと待っててね。すぐに、そんな女のこと忘れさせてあげるわ・・・・・」
ぞっとするような声音で囁いた彼女は、すぐに牢獄を後にした。
彼女の姿が見えなくなると、俺は深く息を吐き出した。そして、きつく目を瞑る。今から訪れるであろう何かから、身を守るように。出来れば、何も訪れないことを願って。
でも、そんな俺の願いも虚しく彼女は戻って来た。
—大きな、包丁をその手に持って。
「・・・ねぇ、初めから、こうすれば良かったと思うの。そうしたら、貴方は私以外の人なんて見ないし、ずっとずっと私の傍に居てくれるわ・・・・」
その包丁を、ゆっくりと俺の首元にもってくると彼女は愛おしそうに微笑んだ。
「愛しているわ・・・・誰よりも、何よりも。貴方だけを、ただ一人、貴方だけを・・・・」
もう、終わりか。そう思って俺は目を閉じた。抵抗する気など、起きはしなかった。
だって、本当は・・・本当は、誰よりも、
「愛してるよ、________________ 」
誰よりも大切だったその人が終わらせるなら、どんな結末でも良かったのかもしれない。
もう、二度と覚めることのない眠りへと誘われながら、俺は一つだけ願った。
—出来ることなら、彼女が幸せであれますように。
そこで、俺の意識は途絶えた。
*(あとがき)
アキラさんごめんなさい。私には、ヤンデレは無理だったみたいです・・・・。
はい、ということで今回はアキラさんから頂いたお題「ヤンデレ」で書かせていただきました。
もうなんか読んで下さった皆さんもごめんなさい。
私の中のヤンデレってこんなのしかなかったんだもの!!
・・・いやー、皆さんから頂いたお題をことごとく期待外れで終わらせている私ですが。
お題を下さった方々。止めてほしいなら言って下さいね。もう、こんな駄文に仕上げられるなら嫌!!という方は早めに私を止めて下さい。
・・・次は、白兎さんから頂いたので書かせていただくので。白兎さん、早めに止めて下さいね・・・。