ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 誰も知らない誰かの物語 ( No.79 )
- 日時: 2010/08/31 23:05
- 名前: 神無月 (ID: XOYU4uQv)
第六幕 「一般人ぶるあいつと常識人ぶる俺」
いつもへらへら笑っているあいつは一般人ぶる暗殺者。そんなあいつを止める俺は常識人ぶる×××。
「おい疾風!!」
「うわっ、バレた!!ごめんなさい〜!!」
目の前で怯えたように頭を抱える疾風の口元が緩んでいるのを俺は見逃さなかった。
わざとらしく震えてみせる疾風の頬を掴むと、俺はそれをぎゅーっとおもいっきり横に引っ張った。
「いだいいだいいだい!!」
「反省の色が見えない」
痛い、と訴える疾風を無視して引っ張り続けてやれば、さすがに堪えたのか泣きながら謝ってきた。
それを見て、俺は頬を引っ張っていた手を放した。
「うぅ〜・・・酷い・・・稜ってば酷い・・・」
「自業自得、という言葉を知らないのか?」
涙目で俺を恨めしそうに見てくる疾風。そんなこいつに思わず呆れたような声を出してしまう。
それから酷いだの鬼だの言ってくる疾風を流し、俺は自分の席についた。
・・・と、そうだった。自己紹介をしろ、と作者に言われていたんだった。・・・面倒だが、一応することにしよう。
俺の名前は、樹神稜(こだま りょう)。
樹神、というのは実は本名ではない。本名はある理由から隠しているのだが、・・・説明するのはまた後で、だそうだ。そのことは、疾風しか知らない。
あぁ、さっきから騒いでいるアホは篠崎疾風(しのざき はやて)。暗殺者のくせに一般人の善人ぶっている奴。
暗殺者だなんて、なんとも非現実的だよな、と思う。正直言って、俺がもし普通の人間だったら信じていなかったと思う。それか、ふざけたことを言う奴だと疾風を嘲笑していたかもしれない。
そう考えると、あまり好きにはなれない家の“家業”も、なんとなくだが好きになれるような気がする。・・・まぁ、あくまでも気がするだけだが。
そんなことをぼーっと考えていた俺に、疾風が声をかけてきた。
「ねーねー、早く帰ろうよー」
「・・・・は?帰る?」
疾風の言葉に思わず間の抜けた声を出してしまった。
そんな俺を楽しそうに見ながら、疾風が頷く。
「うん、帰る」
「・・・まだ3限目なんだけど?」
「えー、だって今日は稜の“大切な日”でしょ?」
「・・・・っ!!」
疾風のその言葉に思わず肩を揺らしてしまった。・・・“大切な日”。そうだ、そうだった。今日は、“あの日”なのだ。
「ねー?だからさ、早く帰んないと♪」
「・・・・あぁ、そうだな」
なんとか絞り出した声は、微かに震えてしまっていた。そんな俺を見て、疾風の顔から一瞬、表情が抜け落ちていただなんて俺は気付きもしなかった。
一軒の、古い日本家屋の前で俺たちは立ち止まった。どこまでも端の見えない塀や、大きすぎる門を見れば、この家がただの一般人の住む家ではないことを容易に窺い知ることが出来た。
まぁ、俺にとっては今更なのだが。隣に立つ疾風も、最初は驚いたらしいが何度も来るうちに慣れたらしく、今ではもう何の反応も示さない。
「さーて、突撃お宅訪問と行きますか!」
「アホ。ここは俺の家だ」
「知ってるよー。もー、ノリが悪いなー」
こいつは俺にどんなノリを求めているんだ、と呆れながら大きすぎる門を開けた。
と、
「「「「「「「「「「お疲れ様です」」」」」」」」」」
俺たちを出迎えたのは、見るからにあっち系の外見をした、いかついおっさんたちだった。
「どーもー。いやぁ、いつもながら凄いねー」
楽しげに言う疾風。そんな疾風に一人の男が声をかけた。
「“風”もいらしてたんですか。お久しぶりですね。元気そうでなによりです」
いかつい外見に似合わず、やわらかな笑みを浮かべたそいつに疾風が嬉しそうな声をあげた。
「おぉ!ケンさん!!お久しぶりでっす!ケンさんも元気そうですねー」
笑いながら言う疾風に再び微笑む男は、ケン。
俺が小さいときから世話になっている、かなりの古株だ。
「若も、お疲れ様です。何事もありませんでしたか?」
若。俺はここでは、そう呼ばれる。
—そう、ここ、つまり俺の家は
極道、なのだ。
緋鶯(ひおう)組。それが俺の家の名。
つまり俺の本名は、緋鶯稜。
緋鶯組17代目若頭、それが、本当の・・・俺。