ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 誰も知らない誰かの物語  ( No.80 )
日時: 2010/09/01 00:03
名前: 神無月 (ID: XOYU4uQv)



「組長がお待ちです」そうケンに言われ、俺と疾風は蘭菊の間へと足を進めていた。


「蘭菊の間?そんなのあったっけ?」


んー?っと首を傾げている疾風に苦笑する。


「あったよ。ただ、あそこは・・・あそこは、特別だから。俺と親父しか入れなかったんだ」

「へぇ!・・・え、でもいいの?そんなとこに俺が入っちゃって」

「さあ・・・でも親父が『“風”も一緒に』って言ったんならいいんだろ」

「ふーん・・・そっかー。ま、せっかくだし楽しみにしとこー♪」


どこまでもお気楽な疾風に、つられて俺まで笑ってしまう。噴き出した俺を見て、疾風がニッと笑った。

そうこうしているうちに、俺たちは蘭菊の間の前に着いた。障子を軽く叩けば、中から低い声で「どうぞ」と言うのが聞こえた。

失礼します、と声をかけて部屋の中に入る。
俺に続いて疾風も失礼しまーす、と言いながら入って来る。

部屋の奥の上座には、俺たちに背を向けて座っている男の姿があった。


「親父」


声をかけると、その男—俺の父親である、緋鶯信慈(ひおう しんじ)がゆっくりとこちらを振り向いた。


「良く来たな、稜、それに“風”。・・・とりあえず、そこに座れ」


その言葉に従い、近くに腰を下ろす。
目線で何の用だ、と問うとそれを受けた父親が悲しげに目じりを下げた。


「今日が何の日か・・・分かっているな」

「・・・あぁ」

「墓参りに、行ってはくれんか。急用が入ってしまってな。行けんくなってしまったのだ」


そう言って俯いた親父の顔が、あまりにも深い悲しみに溢れていて。


「・・・分かった」


そういうことしか、出来なかった。






ざぁ、と風が吹いて手に持っていた花を揺らした。その拍子に花弁が何枚か散った。その花を、俺はその墓に置いた。


「・・・・もう、3年になるんだねぇ」

「・・・・・・あぁ、そうだな」

「時が経つのは、ずいぶんと早いものだね・・・」

「・・・あぁ」


そう、もう3年にもなるのだ。あの人が・・・俺の母親が死んで、もう、3年。


今でも鮮明に思いだせるのだ。


叩きつけるような雨。飛び散った赤・・・。




倒れていく、母親の身体。




—だから極道なんてものは嫌いなんだ。

仁義を重んじる割には、この世界での命はあまりにも、軽すぎる。



「綺麗な女(ひと)だったよねぇ。稜のお母さん」

「・・・あぁ、そうだな。どこまでも真っすぐで・・・心も、綺麗な女だった・・・・」


大切だったその人が、あんなにもあっけなく命を落としたのは・・・きっと、俺のせい。

守ろうと誓ったのに、守れなかった。
無力で非力だった自分が不甲斐なくて、憎らしくて堪らなかった。


俺が、俺があの時もっと強ければ・・・



「稜のせいじゃ、ないよ?」

「・・・・・え・・・」



まるで俺の心を見透かしたかのような疾風の言葉に、驚き目を見開いた。


「稜が悪いんじゃない」

「・・・っ、違う、あれは俺が・・・っ」



「自惚れんなよ」



「・・・・・・っ!?」


低くなった疾風の声に、思わず息を呑んだ。



「自分のせい?自分が非力だったから倖(ゆき)さんは死んだ?自惚れんのも大概にしろよ」

「っ、自惚れてんじゃな・・・」

「自惚れてんだろ。何、倖さんは・・・お前の母親は、

自分が死んだのを息子のせいにするような人間だった訳?」

「・・・っ!!」

「息子に頼らなきゃ生きてけないような女だったかよ。違ぇだろ?お前が守ろうと思ったのは、お前がそれほどまでに大切にしていた女は、

真っすぐで、芯のしっかりした強い女だったんじゃねえのかよ」



何も、言い返すことが出来なかった。
その通りだったのだ。あの人は、疾風の言うように真っすぐで、芯のしっかりした、誰よりも、誰よりも強い女だったのだ。


だからこれは、俺の自惚れ。


母さんは、俺よりも遙かに強い女だったのだから。




「・・・そうだな、そうだ。・・・悪い、馬鹿なこと言った」

「いや〜?ただ俺はそう思っただけだよん」


いつものようなおちゃらけた口調で言った疾風に、この時は、少し救われた。


「さーて、帰ろっかねー」

「・・・あぁ」

「ほらほら、倖さんにちゃんとお別れしなきゃ」

「ん?あぁ・・」


母さんの墓に向かって、手を合わせる。
目を閉じて、どこまでも綺麗だった母親の笑顔を思い浮かべた。

しばらくして、目を開けると優しげに微笑む疾風がいて。



頬を熱いものが伝ったのは、きっと気のせい。









      *(あとがき)

えーまたまたすみません。もうなんか最近謝ってばかりですね!!(泣←

えーっと、今回のこれは白兎さんから頂いたお題「笑いありだけど最後にゾクッとする奴」で書かせていただきました。


白兎さんすみません。ゾクッと要素が皆無に・・・orz

「善人(略)」のやつとリンクしてる感じにはしたのですが、ゾクッとしない・・・。

もういろいろごめんなさい。
みなさんも駄文を読ませてしまって申し訳ありませんでした(土下座


さあ、次に犠牲になるのは時代さんですが。
・・・時代さんあまりいらっしゃいませんしねー。すみません、でも来た時「お題使うのやめてー!!」と思ったらすぐに私を止めて下さい。


・・・ハイ。以上!!すみませんでしたああ!!