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Re: 激動 オリキャラ大募集! ( No.14 )
日時: 2010/08/16 06:12
名前: 黒猫 ◆tZ.06F0pSY (ID: 8I/v6BBu)


その後、Aチップが体を完全に蝕んだが————結果的に、死傷は確かに“直った”。しかも、外傷一つつかぬ体となってしまった。いや、外傷を負ってもAチップが完全に修復してしまうと言った方が適切だろう。

当の本人はその時の記憶がなく、あまり自覚は無いのだが…自分は“人間”ではなくAチップに蝕まれた“機械”となり果てたという事に深く傷ついていた。


傷を瞬時に癒してしまう体質となった事と、元軍人という経歴で———リオンは“MBA”に抜擢された。

MBAは、機械の破壊を目的として結成された軍的組織の事で、元軍人の中でも様々な功績の残した者や、才を認められたものだけが集められている。

そしてリオンは、絶対的な信頼とAチップの情報を知る数少ない者と扱われ、MBAで“大佐”という地位に席を置いた。








「…ン大佐、すいません」

と、そこでリオンの意識は覚醒した。
……、
「———…どうした」
そこには、一人の兵が佇んでいた。彼は、見上げるようにリオンを見ている。…どうやらあの後、テントで寝てしまっていたらしい。
「お疲れ様です、お休みになられている所申し訳ございません」
「ああ———大丈夫だ。それより、私に用があってき来たんだろう?」
リオンは、目覚めたばかりとは思えない淡々とした口調でそう彼等に言った。
「はっ、“あのお方”がお見えになっております」
「…そうか、態々すまない。下がっていい」
リオンは彼にそう言うと、椅子から立ち上がり溜息をつくと、入ってきた人物に深々と頭を下げた。すると、中に入ってきた人物は、

「調子が優れないようだな、リオン大佐。——しかし、先ほどの指揮は中々なものであった。苦労をかけたな」

そう、不敵な笑みを浮かべ…リオンに言った。しかし、リオンはというと表情を崩さぬまま、彼女に向かって淡々とこう口にした。

「いえ、むしろ私みたいな者が貴女のお役に立てて光栄です————シュリー准将」

すると、彼女——シュリーと呼ばれた人物は、探りを入れるような眼差しでリオンを見た。そして、一点を見つめたまま、シェリーはまた口を開く。
「誠に大儀であるが———私にとって、お前の“体調”の方が心配なのだがな」
「……」
リオンは、そこで初めて少し困惑した表情を浮かべた。…彼女、シェリーはリオンのチップの事を知る数少ない人物だ。つまり、彼女が知りたいのはリオンの体調ではなく…Aチップの具合なのだ。
しかし、当の本人には自覚がない為、Aチップの具合がいいのか悪いのか知る筈も無かった。


「…分っているとは思うが、いつ何時Aチップの暴走が起こるか分らん。それに、『不適合』の可能性もまだ捨てられん。異変が起きたらすぐ我々に連絡するか、自分で自分の腹を斬れ」

彼女は、何も答えないリオンに向かって、冷たく突き放すようにそう言った。


———Aチップの『不適合』とは、Aチップに適合せず自我をチップに飲まれ、機械と同様暴走を起こしてしまう事を言う。生物に使用すると、そういった拒否反応を起こす場合があるのだ。
彼の場合、MBAに信頼を寄せられている身である為、Aチップによる暴走を起こしたら…MBAの信用に関わってくるし、士気も下がってしまう事だろう。なので、彼女は暴走を起こし、Aチップが世にされされる前に死ね、と言いたいのだ。


「…肝に銘じておきます」

一度無くなりかけた命と言えど、リオンはその事に皮肉さを感じていた。




「—————と、話題を度々変えてしまってすまないが」

リオンがそう感じていた時、またしてもシェリーが口を開いた。リオンは、我に返り改めて気を引き締め直した。シェリーも、今までとは違う、少し焦りを感じた声で言葉を続ける。


「———実は、“あの時”暴走した機体とはまた別のZENOが、半日前に東の大荒野で確認された」


それは—————できれば聞きたくない報告であった。
「おそらく、ZENOを管理していたシステムが老朽化して壊れてしまいZENOが脱走したのだろうと思われるが…それが約一年前になる」
「何故、そんなにも報告が…」
リオンは、難しそうな表情で、低く唸っていた。
つまり…Aチップを使用している機械を壊さなければならないという事を、その報告は意味する。しかし、それは決して容易な事ではない。

あの時暴走した機械の暴走の主犯ともいえるZENOとはまた違うZENOが…外界に放たれた訳だ。
ZENOは合計92体造られていたが、殆どが破壊され、フリーズされているのはごくわずか他と聞いていたが———また殺戮兵器を放ってしまうとは…。しかし、何故その報告が遅れた?おかしな話だ。

「———報告が遅れた理由については、まだ詳しくは分っていない。後…また悪い報告だ」
聞きたくなかった。もうさっきの報告でもうんざりしている所なのにな、と、リオンは考えるが決して口には出さなかった。

「『OS-00001』が隣国で目撃された」

「……、冗談はよしてくれ…」
リオンはこれまでにな程の溜息をついた。何故、こんなにも間が悪いんだ?ZENOの改良型であるOS機が隣国で目撃された…?どう言う事なんだ…?何故、OS機までもが外界にいる?


隣国とは、人間が奪還し、人間が住んでいる国々に接した、まだ機械に支配された国の事を指す。防壁を張り巡らせているので、機械が人間の住む土地に入ってくる事は無いと思うが…万が一の事があれば———…

「…あまり好ましくないですね」
「大いにな。そこで、緊急に上から指令が下った」

シェリーは、真剣な目つきでリオンにそう言った。

「私はⅠの部隊を、お前はⅢの部隊を連れ東に向かってくれ。我々は隣国に向かう。そして残りの部隊は国と市民の完全防衛を指示。防衛部隊の全体の指揮は————ヴァルター中佐にあててくれとの事だ」

「了解」


MBAには、Ⅰ〜Ⅹまで隊が分れており、国を覆うようにしてそれぞれ配置されている。略奪戦に入ると、それぞれの部隊の半分が招集される仕組みとなっている。
ちなみに、1部隊につき何千何万もの兵がいる。無論、それ以下の所もあるが、機械の侵入とあらば隣の部隊と手を組み破壊に向かう…という仕組みになっている。

しかし今回、2つもの部隊が抜けるとなれば、我々に大きな隙が出来てしまう。しかし、それだけの事態だという事を…その指示は示していた。


『“夢なら覚めろ”、とはこの事か…』

リオンは、テントの隙間から見える戦場跡を見つめて、心の中でそう呟いた。
そこには、ついさっきまで戦争が繰り広げられているというのにも関わらず、花が一輪咲き誇っていた。
『————よく機械の残骸の下敷きにならなかったな…』
しかし、リオンはその重大で最大のヒントに気が付く事は無かった。

あの花は、たまたま残骸の下敷きになった訳では無いという事にも、
機械が何らかの変化を起こしているという事にも——————