ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 激動 ( No.18 )
- 日時: 2010/08/17 21:17
- 名前: 黒猫 ◆tZ.06F0pSY (ID: 8I/v6BBu)
「う……」
背の幼女が意識を覚醒させたのは、あれから五分も経っていない時だった。幼女は、一瞬自分がどの様な状況なのか理解できず、ボーッとしていたのだが…自分にカウンターを喰らわせた相手におぶられているという事に気が付くと、大げさなほど驚いていた。
「おわわっ!?な、何だ!?何なんだ!!?
…あっ———お前かコノ野郎ォッ!何しやがるっ!離せ!降ろせぇぇっ!!さっきはよくも殴ってくれたな!本当痛かったんだぞ、こんにゃろぉッ!!」
そして、幼女はそう叫びながらセツラの背中で暴れ始めた。…さっきまで気を失っていたのが嘘のようだ。
そもそも何故この幼女は、あれだけの仕打ちを私から受けていながら私を恐れないのでしょうか?恐怖心というものが無いのでしょうか?謎ですね。
…しかし煩いですね、この幼女は…
「…体調は良好なようですね。健康な貴女を背負う理由が無くなりました、降りてください。」
パッ
「ぬぎゃあっ!」
セツラは呆れ口調でそう言うと、何の前触れも無く幼女を支える手を降ろした。すると、幼女は言うまでも無く落下し、尻もちをついた様子で、自分のお尻を「痛ったぁ〜…」と、言いながらさすっていた。
「…なぁーにすんじゃいっ!何、お前見た目に寄らず“S”なのか!?実は鞭でビシバシしたいタイプなのか!!?」
しかし、幼女は素早く立ち上がり、ブーブーとそんな事を言っていた。
…会話の70%以上の要素が理解しかねますね、頭を強くたたきすぎたのでしょうか。
「言っている事が理解不能です。よければ私が再度貴女の頭を強めに叩きますがどうします?」
「うっさい!余計な御世話だ!!…それよりお前、僕の家に何か用?何でここに来たんだ?」
と、そこで幼女が改めてそんな事をきり出してきた。
「ここが貴女の家なのですか?…まぁそれはさておき、私は“仲間”を探している所です。」
なので、セツラは淡々と自分の目的を話し始めた。
「私はこの施設に来るまでに、1年間荒野を歩き続けました。果てしない道のりを、気が遠くなるまで。」
「へーぇ、外って荒野なのかぁ。外に出た事無いから、外の事知らないんだよな」
「…ここから出た事が無いのですか?」
「まぁ無いな。…いや、それよりさっきから同じ所ウロウロしてるけどさ、本当に何したい訳?」
……………、
「地下を探しています。貴女の家なら、貴女は地下の階段の場所が分かるのではないですか?」
セツラは、事実を指摘され、何故かやけに悔しい気持ちと、恥ずかしい気持ちを感じながらも、そう感じさせないように至って普通にそう言った。
「んん〜?」
しかし、幼女はそのセツラの微妙な表情の変化を読み取り、ニヤリと笑った。
「何、教えてほしいのか?この僕に、教えてほしいのか??」
「……くっ…否定は、しません。しかしその笑みに悪意が込められているように見られます。ハッキリ言って不快です、その笑みをすぐさま止めるかまたは私に顔を潰されてください。」
「……」
おや、黙り込んでしまいました。仮にもまだ10歳の子供でしたね、言い過ぎました。
「…冗談ですよ。」
「お、おうぅ…、マジかと思った…。こ、コノ野郎!ビビらすなよっ!お前真顔でそう言う事言うから、嘘かホントか分んねーんだよぉっ!」
「ははは、すいません(棒読み)」
「棒読みだから!すげー棒読みだからっ!!」
と、いつの間にか親しくなっていた二人は、そんな会話を交わしながら地下へと向かっていった。
*
その光景を見た時、プログラムがショートを起こし、停止した。と、言うくらいの強いショックをセツラは受けていた。
そこには何も無かった。
強いて言うなら、私が眠らされていた空の装置があるくらいだ。それは、既に仲間が何らかの形でここにいないという事を示していた。
「…ふっ、ふふふhhhhh…」
セツラは奇声を発しながら、へなへなと力なくへたり込んだ。…今までの苦労は、一年間歩き続けた苦労が…。———ふ、天は私を見離した訳ですか。そうですか、いい度胸じゃないですか。神がいるなら降りて来てください、跡形も無く消し去ってあげましょう。この手で。
「ふーん、お前ここに来たかったのかー。何でまたこんな所に?」
と、そこへ幼女が無邪気にセツラにそう尋ねた。
「……ここには、私の仲間が居た筈なんですよ…。私と同じZENOの、ね…。」
最早抜け殻となったセツラは、疲れ切った表情でそう彼女に言った。
「え…?お前——“ZENO”…だったの、か…!?」
すると、幼女は有り得ないくらい開眼し、セツラの顔をまじましと眺めた。ああ、そう言えば言っていませんでしたね、彼女も人間の最も危険視する機体の名前くらいは知っていましたか…。
「——ええ、私はZENO、“ZN−0003”です。名は『セツラ』…」
「っ…!」
すると、幼女は俯いて肩を震わせていた。正体を知って、恐れを抱いたのだろうか。しかし、そんなセツラの考えも仲間が居ないという絶望的な気分も見事に覆す一言を、幼女は放った。
「お前っ、そう言う『嬉しい事』は先言えよなっ!!水臭いな、この野郎ォ!」
———はい?
「それはどういう意味でしょうか、簡潔に30文字以内で述べてください。」
セツラは、相手の真意がわからず冷めた口調でそう言った。すると、幼女はこれまでにない感動を現しているような、本当に嬉しそうな顔をした。
「僕は、お前の仲間だ!!お前も僕の仲間で、とにかく嬉しい事だ!!」
そして、幼女は未だに喜びで肩をフルフルと震わせている。
…セツラは、その時息を飲んだ。まさか、もう目の前に居るだなんて…この幼女が私が一年間負い求め続けた————
「僕は『ZN−0079』、名前は『リリィ』。————ここに眠っていたZENOは僕だよっ!」
…『仲間』——————…