ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 激動  ( No.19 )
日時: 2010/08/17 21:28
名前: 黒猫 ◆tZ.06F0pSY (ID: 8I/v6BBu)




「…そう言う事は先に言いなさいリリィ。今、私は絶望から一気に絶頂に喜ばしい気分に駆け上がったせいで感情変化が追いつきません。どうしてくれるんですか。」

「あだだだだだだだだっ!痛い痛い!セツラ、頼むから止めてくれぇっ!頭がっ、頭が割れるゥ!」
セツラは、嬉しさのあまり思わず目の前にいる幼女、リリィの頭を両手でグリグリしていた。照れ隠しというのもあり、段々手に力がこもる。リリィはというと、悲鳴を上げながら必死にセツラに止めるよう訴えていた。

数分間そんな繰り返しをしていると、セツラはようやく溜息をつきながら手を離しリリィを解放し、一つある装置に近づいて行った。


「……ここに、貴女は眠ってた訳ですねリリィ。———貴女はどうやってここから出る事が出来たのですか?」
「んー?どうやって出たって?」
リリィは、首を傾げていた。セツラはおそらく、リリィも装置の老朽化で管理システムが壊れ、出る事が出来たとふんていた。

しかし、リリィはここで気になる一言を呟いた。


「何かな、男が出してくれたんだ。ちょうど1週間前に」


「———男?」
セツラは、信じられないという様子でそう言った。

ここに人間が来る事も、機械も入る事が出来ない程頑丈で厳重な造りだ。私みたいに、ドアをぶっ飛ばしてしまうか建物を破壊してしまうかぐらいしないと入ることなど不可能だ。

それに、なぜZENOを解放した?連れ去りもしていないし、なんらかに利用しようとしている様子はない。

「おう、人間のな。そいつは“親”って名乗って、自分の事を“おじさん”っつてたなぁ。でも、言ってる程あんまし年はとってなくて————髪は確かに白かったけど、二十歳くらいだった」

「…詳しく聞きたいですね。」
セツラは真剣な顔で言うが、リリィは「いや…それがな」と言葉をつづけた。

「その“親”って名乗った奴な、僕を解放しただけで何もせず出て行ったんだ。上の機械を少しいじったと思ったら、ドアが開いて——出てった。僕も出ようと思ったけど、その時には既にドアが閉まってて開かなかった。で、一週間後の今、ようやくお前が来たって事だ!」

「…そうだったのですか」
と、言ったものの、セツラは納得できなかった。その男の目的は何だったんだ?それに、システムを解除して外へ出た?…少なくとも、ただ者ではないですね…。


「ま、そんな事はほっといてさ、出会いに感謝しなきゃなっ!——僕も寂しかったんだ。でも、こうして仲間に会う事が出来た!それだけで十分だ!」


と、その時、セツラがただ黙々とそんな事を考えていると、リリィが足元をピョンピョン跳ねながら、嬉しそうにそう言った。

「んな辛気臭い顔せずに、喜べよなっ!お前も、仲間に会いたかったんだろ?」

『——————…』
そこで、ようやくセツラは自分が押し黙ったような、難しい顔をしている事に気が付いた。
『…そうですね、リリィの言うとおりです…ね。』
セツラはその時、自然と頬を和らげ——笑った。

「そうですね、貴女の言うとおりです。何はともあれ、今、こうして仲間に逢える事が出来て…本当に良かった…。」

セツラは、そう言ってリリィをギュッと抱きしめた。———久しぶりに誰かと会話を交わした。久しぶりにこうして笑った。そして、仲間に出会えた。本当に、今日は——良き日だ。
「もう、大袈裟だなぁ…そこまで喜べって言ってないぞっ」
と、言いながらもリリィの声も嬉しそうだった。



「さて、私は今から再び仲間を助けに旅に出ます。ZENOは私たちを合わせて92体存在します。…全員は流石に壊されていたするす者もいるので無理ですが——助けられるだけ、私は仲間を助けます。」

一階、今はもうないドアの前に立ち、荒野を見つめながらセツラは口を開いた。
「———そこでリリィ、貴女に質問があります。」
「ん、何だ?」
リリィは、物珍しげに荒野を見渡しながらそう言う。…リリィは、外に出るのは初めてだった。造られてからも、一度もあの装置から出た事がないらしく、人間を見たのも機械を見たのも、例の男と私が初めてだった。無論、この荒野を見るのも初めてなので、珍しげに見るのも仕方のない事だった。
「貴女は今から、どうするつもりなのですか?」
「ん〜…どうするって言われてもなぁ…」
リリィは、うーんと唸りながら、腕組をした。そして、決心したかのように「よしっ」と呟くと、改めてリリィはセツラの方に向き直った。

「別に行くアテなんて無いし、どうせならセツラに付いて行こっかな。外の事あんまり知らないけど、セツラなら色々知ってそうだしなっ!仲間探しも悪くないし、それに———セツラ、実は僕が来る事期待してるでしょ?」

リリィは、悪戯にそう言うと、セツラの顔を見上げた。

「ふふ…まぁ否定はしませんよ。ついて来なかったら全力で貴女に『ついていく』と、言わせようと思っていたのですがね…。」
セツラは妖艶な笑みを浮かべながら、楽しそうにそう呟いた。
「…おおおお前っ!?“全力”って何だよ!まさか暴力?——マジか!鬼、鬼畜ゥ!!」
「冗談ですよ。(笑)」
「いやいや、“かっこ笑”って言っちゃってるから!マジかと思うじゃんかよっ!」
「ふふ…。あぁ、そう言えばリリィ、あの時何故木の棒なんかで襲ってきたんですか?」
「え?あぁそりゃあアレだ!僕は普通のZENOと少し違うんだよ、性能が」
「?よくわかりませんがまぁ…リリィの言う事ですしね。」
「なんだその言い方は!こんにゃろーめ!!」
————…

いつの間にか目の前の大荒野の先に向かって歩きだしていた二人は、絶えぬ笑い声と共に地平線へと姿を消して行った。