ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 激動  ( No.22 )
日時: 2010/08/20 21:06
名前: 黒猫 ◆tZ.06F0pSY (ID: 8I/v6BBu)





「誠に不謹慎、否、迷惑そのもの。場をわきまえ、行動しろ」

その後、三人は言うまでも無く、望月という人物に叱られていた。三人は正座を組まされ、さらに太ももの上には大きな岩が積まれている。ナギサに至っては、最早足が痺れて感覚がなくなっているのか、数分前まであんなに苦しそうな顔をしていたのに、今や余裕な表情を浮かべていた。

「ジェイク伍長…何故君が居ながらこうなる?否、君がいるからこうなった。何故だ?」
「も、申し訳ありません、ついカッとなってしまい…」
ジェイクは小さくなりながら、下を向いてモゴモゴ何か言っていた。彼の顔からは血の気が引き、最早げんなりとしているくらいだ。

さっきので、幸いにも負傷者はいなかったが——結構な騒ぎになった。最終的に目の前にいる望月兵長が騒ぎを止め、騒ぎの主犯である三人に尋問を行っているのだ。


ジェイクは、キレると手の着けようがない厄介な人物である。力で強制的に抑えつけないと、暴走が止められないような———ある意味特攻隊に向いている性格だ。しかし、意外と真面目な所があるので、こうして直々に叱られると、本気でヘコんでしまう。

「…———成程、原因は二人か」
望月は、少し間をおくと、今度は上等兵二人の方を見た。西嶋も、本気で反省している様子で、「申し訳ないであります…」と、俯き加減でそう言っていた。
ナギサも、俯いて何も言わなかったが、淀んだオーラを放っていた。おそらく、本気で反省しているのだろう。


「……まぁいい、下がれ。後、ジェイク伍長は残るように」
望月は面倒くさそうに息を吐き出すと、三人にそう言い放った。上等兵の二人はそそくさと出ていき、ジェイクは暗い面持ちで残っていた。しかし、望月はさっきの事を詳しく聞こうとしているのではなく、また別用で彼を残したのだ。

望月は、一本の通信機をジェイクに差し出した。


「本部から連絡、否、命令だ」


「?」
ジェイクは疑問を抱きながらも通信機を受けとると、それを耳にあてた。しかし、次の瞬間聞こえて来た声に、ジェイクは思わず表情を歪めた。


「おっす、久しぶり!愛しのジャックですよーっと、元気だったか?」


カシャン
という勢いで、ジェイクは猛烈に切りたくなった。しかし、本部からの連絡と聞いていたので、どうしてもそれを切る事は出来なかった。

「…ジャック、俺は生憎本部の連絡と聞いてだな———————」
「おっと、待て!今日はあくまでジャックではなく“J”として、お前に用がある。俺様も仕事人なんでね」
電話の相手であるジャックは、余裕な口ぶりでそうジェイクに言う。それを聞き、ジェイクは余計に眉を潜め、「何言っているんだコイツは」という顔をしていた。

「実は今、俺様たちの1.5キロ先に———お前らが追っているZENOって機械がいる」

その時、ジェイクは思わず通信機を落としそうになった。
「———売人じゃなかったか?いつから情報屋になった」
しかし、ハッと我に返り、ジェイクは軽く咳払いをすると、そうジャックに言った。すると、ジャックは「ちっちっちっ、」と、
「俺様の商売人魂をなめんなって、売れるもんなら何でも提供!無論例外なく情報も商品の一つ!つーこったな」
と、堂々と言っていた。
「……危険だ…!何でまたそんな事—————」

「Stop!俺様の話はまだ終わってねーんだよ!
 …俺たちは、このままそのZENOの後を追う。そしてお前らMBAの第Ⅲ部隊と第Ⅱ部隊に、そのZENOの移動経過を常に報告。自給二万$の商売さ」

「……商売って…まさかMBAにか!?しかも何で第Ⅱ部隊にまで…」
「あー、だからその————」

「変われ、さっきから話が進んでねぇじゃねぇか」

と、その時向こうでそんな声が聞こえた。ジャックが「ちょ、待てお前…」と、言ったのを最後に、今度は違う人物が話しかけて来た。
「俺だ。シオンっつったら分かるか」
「——シオン!?」
すると、その懐かしい友の名に、思わずジェイクは感嘆の声を上げた。
「三年ぶり…元気そうだな!」
「もうそんなになるのか。でも、今は悠長に世間話してる暇も無い。

 てっとり早く説明するとだな、俺たちが目撃したZENOは一体じゃねぇ、…二体だ」

「なっ…!?」
ジェイクは、その報告に驚愕した。昨日の地点で、目撃されているZENOは東の大荒野に一体いると聞いただけであったからだ。ZENO一体でも、手のつけようのない兵器であるというのに…まさか二体になっているとは思わなかった。
「でも…証拠がな無ぇじゃねぇか!何を根拠にZENOだと…」

「ZENOは首筋に、ZN-と、その語尾に自分の造られた番号が記されている」

「!」
「その二体に、それが記されてあった。背の高い方は『ZN-0003』、もう一体は『ZN-0079』…断定する他は無いはずだ、証拠が十分すぎる」

全て、シオンの言うと通りであった。確かに、ZENOの首筋にはZN-とその後に造られた番号が記されている。

何故彼らがそれを知っているかはさておき、ジェイクは慌てて、
「じゃあ本部と…第Ⅲ部隊はその事を知っているのか!?第Ⅲ部隊はそのZENOの存在を確かめにそっちへ向かってる筈だ!」
と、シオンに尋ねた。するとシオンはフッと笑い、
「無論、先に俺たちが報告済みだ。それで、一部隊だけで二体は無謀すぎると、手前等第Ⅱ部隊に救援を要請した訳だ」
と、言った。
「……と、言う事はこの本部からの連絡は出兵命令という事か…」
「そう言う事だ。『戦争での召集と同じく、半分の兵をこっちに寄こせ』と、本部のお偉いさんが言っていた」
「…上からの指示なんだな?なら第Ⅱ部隊のトップには既に連絡がいってるって事か。———了解、おそらくすぐ向かう事になりそうだ」
「そうか。という事で、それまで俺たちも必死で尾行し—————っと、危ねぇ!」

ドシャアアアアアッ
その時、無線の向こうから爆音と何らかの破裂音が響き渡った。

「!?——おい、大丈夫か!?」
ジェイクは突然の爆音に、動揺しながらも無線の向こうにそう呼びかけた。すると、雑音を交えながら、今度はまたジャックが無線に出た。

「悪ぃな、ちょいと俺様たちにも別用ができた。20秒だけ時間空けるぞ」

ブツッ

と、ジャックが言ったその時———無線が一瞬切られた。