ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 激動  ( No.23 )
日時: 2010/08/21 17:59
名前: 黒猫 ◆tZ.06F0pSY (ID: 8I/v6BBu)





「ジャック、五体だ!さっさと銃を構えろ!」

「——分ってるっての!俺様を誰だと思ってんだ!?」
シオンに投げ出された通信機を、ジャックは瞬時に受け止めスイッチを切った。不意打ちをかけて来た敵は、計五体。言うまでもなくマシナリーだが、あまりドンパチしたくないのも事実だ。この騒ぎで、先にいるZENOに気付かれてしまう可能性も無くはない。ここは一秒でも早く終わらせる必要があった。
「悪い、10秒程時間をくれ。後は一瞬で終わる」
「Ok、じゃあその間俺様が直々に奴等を相手しといてやんよ」
そう言うと、二人はほぼ同時に動いた。

ガシャンッ
シオンは、すぐさまコートからバラバラになった何かの部品を地面にぶちまけた。すると、慣れた手つきで素早く組み立てにはっていたが———パーツは見た所、軽く20を越していた。これを10秒で組み立てるのは至難の業だ。
しかし、至難の業と言えばジャックもそうだ。10秒だけであれ、五体のマシナリーを一人で相手しなければならないのだ。しかも、死のリスクが高いにも関わらず、ジャックは片手銃を一本しか所持していない。あまりにも無謀だ。

「——はっ…‘たったの’五体かよ。1万$にもならねーな、こりゃあ」

しかし、それはあくまで他人から見ればの話で、本人等にとっては日常茶飯事な、ごくごく普通の事だった。



ジャックは、“J”と名乗る商売人だった。通称“Jの売人”で、世界では有名な商人だ。彼は世界各地をめぐり、世界のあらゆる物を提供できる数少ない商人で、彼の場合は日によって商品が変わるという———なんとも気まぐれな商売だった。

しかし、ジャックは色んな組織や人間から信頼を寄せられている人物でもあった。ジャックは金さえ払えば、言われた商品を取りそろえ、提供するという変わった商売をしていた。
たとえそれが、軍人しか手に入れられないような銃でも、機密情報であっても、必ず頼まれた商品を取りそろえ提供する。ある意味それはジャックのポリシーでもあり、守り続けて来た絶対的な約束だ。

…とにかく、ジャックは商人としてはかなり大物ではあるが———自由気ままな商売という不安定な収入では、生活に何らかの支障が出てくるのは必然だった。なので、ジャックはもう一つ仕事をしていた。シオンがその仕事のかなりできる人物で、ジャックは彼を雇って共に二人でその仕事をしている。

———“掃除屋”という仕事だ。

掃除屋というのは、人間に害をなすマシナリーを破壊して報酬をもらうという単純な仕事だ。報酬を出すのは自分を雇ってもらった組織で、この戦争時代ではかなりポピュラーで儲かる仕事だ。
…まぁ、雇って貰えるほどの腕があればの話なのだが。


そして、機械をマシナリーした際に出る部品は、ジャックは商品として売っている。無論、マシナリーのコア等に少し使われる“金”やその他の貴重な金属、部品等を売るわけで、一体につきの儲けは少ない。マシナリー三体で、やっと5千$稼げるかどうかという驚きの安さだ。



商人と掃除屋を掛け持ちしているせいか、一日に何十体ものマシナリーを相手にする事がある。なので、五体相手はまだ慣れている方だ。
むしろジャックが怖いと思うのは、単独で行動しているマシナリーだった。1体で行動している奴ほど凶暴で、関わりたくも無い。動きが読みにくいし、とにかく近づく気にすらならなかった。


目の前にいるのは、脚が四本の箱型のマシナリーだ。人型でないマシナリーは人工知能が低めで、それは工場や工事現場でただ黙々と重い木材、金属を運んだりするような単純な作業しかしないからだ。しかし、その分頑丈な造りになっており、銃で破壊するには相当の威力のある弾か、あるいはレーザー銃か、さらにあるいは…。レーザー銃はジャックが持っている片手銃だが、あくまで護身用なので威力は低い。なおで、こういう時こそ相棒の出番な訳だ。

「——ほっ、よっ、せやっ!」
ジャックは、見事な身のこなしで相手の攻撃を回避した。素人ではない素早いその身のこなしは、並大抵の努力ではマネなど到底できぬ程の動きだ。しかし、ジャックにとっては他愛のない事で、それよりもシオンにマシナリーが近づかぬようにする方が困難であった。
「軽い軽い♪」
ジャックはヒョイヒョイマシナリーの攻撃を避け、余裕に口笛までも口ずさんでいた。しかし、そんな事をしていると、1体のマシナリーに後ろをとられた。
「あ」
ヤベ————、と言おうとした瞬間、マシナリーはジャックに固いボディで頭突きを喰らわせた。思わずよろけて地面に倒れると、ジャックが動けぬよう、そのマシナリーは前脚二本でジャックの脚を抑えつけた。
「っ…!!」
言うまでもなく、箱型のマシナリーは重い。ジャックの足はミシミシと悲鳴を上げた。が、本人も相当痛いはずなのだが、ここに至っても余裕の表情を浮かべた。

「残念…ッ!少し遅かったな」

バチィッ
と、
ジャックが呟いた瞬間、目の前に閃光が走った。それは、一瞬でマシナリーのボディと溶かし、ジャックは足が離れた瞬間素早く引き下がった。その一瞬の間に、それぞれ残ったマシナリーにも穴があいてゆく。穴のあけられたマシナリーは少し火花を上げ———ついには動かなくなった。

「——っ、遅せぇし!俺様の足が折れてたらどうしてくれるんだよ!(泣)」
「ジャスト10秒。俺は約束を守ったんだから、しゃーねぇだろ」
マシナリーが全て機能を停止させると、ジャックはシオンに当てつける様にそう言った。油断したお前が悪いんだろ、というふうにシオンは言い返すが、そのシオンの側に置いてある大きな銃は、未だに少し『バチバチッ』と音を立てていた。

「そう言えば、お前の“ソレ”、久しぶりに見たなぁ」
「あぁ、おかけで一瞬で終わった」
シオンは、その音が止むと、その銃を解体しはじめ、それぞれ丁寧にパーツをなおしてゆく。
「ま、さっきので生じた光で——あいつ等(ZENO)に気付かなかったらいいんだけどな」
「大丈夫、一瞬ならマシナリーでも人間でも光ったか区別ができないはずだからな」
ジャックが心配そうに言っても、シオンはそう断固してみせた。それは、この銃がそれほどの性能か分る発言でもある。

「流石と言うべきか…お前の『超電磁砲レールガン』は」

「褒めるなら俺の腕でも褒めろよ…」
シオンは疲れ切った溜息をつくと、停止したマシナリーの側に寄った。
「流石に一体目のボディは溶けたか。久しぶりだったから、まぁ仕方ないな」
シオンは穴のあいた部分を見つめると、「マメにメンテナンスしなきゃな」と、溜息をついた。

「じゃあ他の四体からは商品になりそうな部品を拝借しますかねぇ、シオンはまた連絡かけといてくれ」
ジャックはシオンにそう言いながら、ルンルン気分で他のマシナリーのもとへ近づいて行った。そして、ジャックが感嘆の声を上げながらマシナリーの解体を行っているのを見守りながら、シオンは再び通信機へと手を伸ばした。