ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 激動 ( No.33 )
- 日時: 2010/08/25 21:19
- 名前: 黒猫 ◆tZ.06F0pSY (ID: 8I/v6BBu)
「ぶぇっくしょいっ!」
東の大荒野、と言っても…もうあと数キロでここを抜け、どこか街で他の機械と接触する事に、セツラとリリィは決めていた。仲間の情報収集も必要だし、何より無知のまま動くのは危険だ!というリリィの説得に応じたからだ。
しかし、さっきからリリィはそんなくしゃみを連発していた。もう10度目となるくしゃみを聞くと、流石にセツラも溜息をついて、
「リリィ…すいませんね、やはり強く殴りすぎましたか。」
そう真剣に頭を下げた。そう、逢った時に私はリリィを思いっきり殴ってしまったのだ。大人げなかったですが、しかし元はといえばリリィが先に仕掛けて来た訳で。
すると、私の言葉を聞いてリリィはブウッとふくれ、
「失礼だろ僕に対して!——それに、きっと誰かが噂したんだ!不可抗力だよ、噂されるとくしゃみが出るらしいし」
「流石リリィ、言ってる事が分らない。」
セツラは拍手をしながら、表情を特別変えたりせず、ははは、と棒読みでそう言った。するとリリィは何故か呆れて、
「セツラ…頭固いんだな!」
と、あろうことかそんな事を言ってきた。思わず一瞬黙ってしまった。
「…、ふふ、もう一度言ってごらんなさいリリィ?その瞬間貴女の頭は消し飛んでしまうでしょうけど。」
セツラはあえて微笑みながらそう言うが、全然目が笑っていなかった。そんなセツラを見て、リリィはビクッと体を身震いさせて、
「おぉ…ふ…」
と、一歩後退して「マジすいませんでした!調子乗りましたのは私です。許してください本当ご免なさい、ガチでサーセン、超反省してます」と必死で頭を下げながらそう言った。
『…ある意味そこまで怖がられるとショックですね…。』
セツラは「冗談、冗談。」とリリィをなだめつつ、そう思った。確かに私は、女性人型の機械の設定基準である全長158.5㎝を越して全長180㎝になっていますが…、確かに私は眼つき(?)が悪いですが…、確かに私は常に真顔です(実は気にしている)が…!でも、そこまで怖がらなくとも!
セツラは怖がられる要素を十分に含み過ぎている事を思うと、ふぅと溜息をついた。
「———リリィ、包み隠さず真実を述べてください。私はそんなにも怖いのですか?」
そして、一間置き思い切ってリリィにそう尋ねてみた。するとリリィは見上げるように私の方を真っ直ぐ見て、
「…だからお前は頭が固いんだっ!」
と言って、タタタ、と5・6歩先に行った。
『…、ええとそれはつまり————』
言葉の意味を自分なりに解釈し、それはリリィが私を慰めたのだと悟った。…、リリィも優しい所があるじゃないですか…。そうですね、仮にも今は“仲間”、心強いものですね。
少しリリィに対して温かい何かを感じて、感動しながら私はリリィを見つめていた。
しかし、その瞬間程後悔する事はない。次の言葉を聞いた瞬間、私は己の中に沸々わき上がる怒りをハッキリと感じた。
「———超怖いに決まってるだろ!頭固すぎだっ、そんな事にも気付いていなんて!」
メリッ
との瞬間、セツラの鋭い蹴りが容赦なくリリィの頭に炸裂した。リリィは強烈な痛みと苦闘ながら、蹴られたおでこを押さえて地面を転げまわっていた。
「言葉に気をつけなさいリリィ、私は仮にも殺戮兵器…。」
ゆらり、セツラは目の下までの影を協調させながら、腕を一瞬剣に組み替え、またすぐに元に戻した。…無言の威圧、「次何か言ったら、確実に仕留めますよ」と、一瞬現れた長剣はそうでも言うような冷たい光を帯びていた。
しかし、すぐに置き上がったリリィはまだおでこを押さえながら、
「———僕もだけどなっ!でも、セツラの暴力は兵器よりも怖いよ!あ、ご免なさい調子乗りました!足蹴にでも何でもしていいから、殺さないでください」
と、威勢よく言ったかと思えば、最終的に謝罪という形で終わった。
『私もそこまでとは言ってないのですが———まぁ、でも言葉よりも先に考えてほしいのは確かですかね…。』
セツラはふっと、ホロリ涙を浮かべながら、うなだれる様に溜息をついてショックな気分を紛らわそうとしたが———…
…数分後、リリィの言葉を思い出し本気でへこんだセツラは、地べたに体操座りをして、自分の足に顔をうずめてすねていた。というのはまた別の話。
*
「う—————む」
と、そんな光景を遠くで眺めていたジャックは、何か納得いかないように唸りながら双眼鏡を覗きつつ、片手に持っていたパンをかじった。
「何やってんだろ、あのマシナリーは…呆れたり怒ったりヘコんだり———まるで人間だな」
ジャックはそんな事を口にしていたが、本気でそう言ったのではなく例えの話だった。すると、そこへジャックの相棒・シオンが通信機を片手にこちらへ近づいて来た。
「…ジャック、後30分でMBAの半分が俺たちの所へ来るそうだ。もう半分は———お前が聞いた方が早ぇだろ」
シオンはジャックにそう言うと、無造作にジャックに通信機を放り投げた。ジャックは「おっと」と、いいつつも何とかキャッチし、
「————はいはい“J”に変わりましたよっと」
と、通信機に向かってそう言った。すると、通信機から落ち着いた凛々しい声が聞こえて来た。
「…こちらはリオンだ。今、部隊の半分がそっちへ向かっている。部隊の指揮をとっている男が、君たちの身柄の安全を確保する手筈となっている。その後君たちはそのまま安全区域へ避難してくれ。そして、残りの部隊なのだが————今、君たちが見張っているZENOは何処へ向かって歩いているか分るか?」
「西南西に向かって真っすぐ直進中。ルートを変える気配も無いし、ここからは俺様の推測の域なんだけど、このまま荒野を抜けて“ロウスト”っつー街に向かう筈だ。いや、確実だな。…本当に真っ直ぐ街へ直進してやがるから」