ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 激動  ( No.34 )
日時: 2010/08/25 21:29
名前: 黒猫 ◆tZ.06F0pSY (ID: 8I/v6BBu)




ジャックは無線機の向こうの相手であるリオンにそう言うと、双眼鏡を手渡し、またパンを一口食べた。
「御苦労。そのまま追跡を頼みたい所だが、もしかすると我々とそのZENOとの抗争が起こるかもしれない。だからそのままその場に待機してほしい」
「…Do you have a minute?」
ジャックはそう言うと、胸ポケットから小さなメモ帳を取り出した。すると、何かの計算式を素早く書き、解くと、怪しく笑い、
「…約束の報酬は?」
そう無線機の相手再びに言った。リオンは少し間を置くと、向こうで誰かと短い言葉を交わして「———ZENOの件がひと段落ついた所で、MBAから直々に報酬されるそうだ。時間通りにMBA本部へ来れば渡そう。それまですまないが待ってほしい」と、淡々とそう述べた。

『———っしゃあ!今は4時間と30分…MBAはここに来るのに30分かかるから5時間で5万$。情報料5万$とプラスして、10万$!!こりゃ、少しの間はかなり贅沢できるな♪』
ジャックは、はわわわ、と肩を嬉しさで震わせ、「了解っ♪毎度ありィ!」と上機嫌で言うと、無線機を切った。そして、隣のシオンの肩をガッと持ち、
「シオン、今回は10万$の儲けだ!当分楽できるぞ♪」
と言い、不意にバイクの方を見た。

「…あれ?」
が、しかしジャックの目線の先には、バイクにもたれかかりながら居眠りしているシオンがいる。
『…、じゃあ今肩組んでるコイツは…誰だ!?』
ジャックはバッと相手の顔を見た。と、同時に相手も自分の顔を見た。
「えっ!??」
「…っ!?」
自分と相手は、互いに驚きの声を上げ、とっさに離れた。
『———いやいやいやいや!誰、コイツ?何で双眼鏡と俺様のパン持ってるんだ!?つーか、いつから隣に!?周りに誰もいなかっただろ!…いや、という訳はMBA!?もう来たのか、早過ぎだろォォォ!10万$じゃなくて9万5千$だとォ…!?』

ジャックは一瞬のうちにたくさんの考えを頭に浮かべていた。相手の手には、シオンに手渡したはずの双眼鏡と、俺がさっきまで持っていたパン。しかも、ちょ、今食った!それ俺様のパンだろ、数少ない食料なんだって!頼むから食うなよ!!————いや待て、双眼鏡を渡した時、手渡した相手をちゃんと見てなかった…という事は、それより前からいたって事か!?マジかよ、ありえねーし!…いや、つーかいい加減パン食うのやめろ!

「————お前、パン食うの止めろ!」
しかし遅かった。相手はそのままモグモグモグモグ、あっという間にパンを食べきってしまった。か…、数少ない食料が…!
「人様のパン勝手に食うなよ!大事な食料が!」
「…テメェがさっき放り投げたんだろ」
パンを食べ終わった相手は、一間置いて言い訳にしか聞こえない事をぼやいていた。そして相手はZENOの方向を向いて、しゃがみながら双眼鏡をのぞいていた。すると、不敵な笑みを浮かべ、「へぇ…久しぶりだな、生で拝見すんのはよォ」とブツブツ呟いていた。おそらくそれは、ZENOの事だろう。——つか、コイツMBAじゃないのか?

「テメェ等、MBA…じゃねぇよなァ?」
と、ジャックがそんな事を思っていると、相手に先越されしそう尋ねられた。
「違うけど、お前は?一体、何しに来たんだ?」
なので、ジャックも相手にそう尋ねた。すると、相手はククク、と、肩で笑いながら「MBAの訳ねぇだろ」と答えた。

「——俺は探し物を探しに、この大荒野へ来た。…で、テメェ等が面白そうな事やってるから寄っただけだよ」

「探し物?」
ジャックは相手の続けた言葉の意味がよく分らず、首をかしげた。すると、相手は一瞬間を空け、恐ろしい程の笑みを浮かべた。その瞬間、ジャックは本能的に相手が危険だと察知し、素早く離れた。
「…オイオイ、そう警戒すんな———っつっても、まぁテメェがそう警戒すんのも無理はねェ」
相手はなお笑い続け、重い腰を上げた。

「“Aチップ”…って知ってるか?俺はそのAチップを探している。けど、普通のAチップじゃねぇ特別な物だ」
相手は、双眼鏡をジャックへ放り投げながらそう言った。ジャックは唾を飲み、相手をただジッと見る。すると、相手は目の端でジャックを見て、


「じゃあな‘人間’、俺はシード。またテメェとは会いそうな気がするが…次、会う事が無いようせいぜい祈るんだな」


シードと名乗った相手はそう言った瞬間、地面を蹴った。そしてそのまま「宙」に立ち、ある方向へ向かって一瞬で飛び去って行った。


「——“反重力装置”!という事は、アイツはマシナリーか!?」
飛び去っていくシードを見て、ジャックは驚きを隠せないでいた。何故なら今までジャックは、シードと“人間”と話していると思っていたからだ。仕草、言動、表情…明らかに、普通の機械ではない。そう言えば、あの二体のZENOも何か普通の機械が絶対にしないような仕草をしていたが—————…

ジャックは小さな違和感を覚えた。何か変だ、まるで機械に感情でも芽生えたかのようだ。じゃないと、機械と話す際の違和感に、気が付かないはずがない。高い人工知能の搭載された機械であれ、シードみたいに笑って見せたり、あいつ等ZENOみたいに呆れたり怒ったりヘコんだりといった仕草をする訳がない。
機械はただ無表情で、人工知能で選び出された言葉を羅列して、人間と話しているようなものだ。
しかし、シードと話した時、そういうふうじゃなかった。本当に自分が思った事を、そのまま言葉に出した様な感じ。まさに人と人との対話のようだった。

『一体何なんだ?機械に何が起ってるんだ?』

ジャックの感じた違和感は、人間の常識をはるかに上回る事であったが、それは決して間違えではなかった。しかし、ジャックはそれは何かの間違いだ、と、自らの考えを否定した。