ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 激動 オリキャラ大募集! ( No.4 )
- 日時: 2010/08/15 17:10
- 名前: 黒猫 ◆tZ.06F0pSY (ID: 8I/v6BBu)
荒野の先————荒れ果てた何もないその場所に一人、少女がひたすら真っ直ぐに歩いていた。少女と言うには、もっと大人な顔立ちで背も高いその少女は、全身を包み込むほどの大きな黒いローブに身を包んでいた。
「…夜明けですね…」
少女が不意に見上げた先にあるのは、夜明けの空。荒野の夜明け———、それは清々しくも神秘的である。しかし、この光景を目の当たりにできる人物は極々限られたものであるのが事実。というのも、此処に存在するのは“機械”のみだからだ。此処には“生物”と言われる者はいない。全て、機械によって殺されてしまった。
では、 なぜ彼女が此処にいるのかというと、彼女もまた“機械”であるためであった。
「———星が綺麗ですね。…何故かつてこの地で戦争が行われたのか、理解しかねます。本当に人間の考える事は不可解で読めません。」
彼女は文句を言うようにそう呟くと、ちょうどいい大きさの岩に腰かけた。しかし、彼女は同時に自虐的な笑みを浮かべていた。
「と、言っても私はその人間に造られた訳ですね…。皮肉です、何故私は造られたのでしょう…」
彼女は悲しげな声でそう呟いた。だが、彼女は本当は全て知っていた。
自分が“ZENO”という殺戮兵器であるという事も、そして、自分の造られた理由も。
しかし、殺戮兵器であるという事は人間が勝手に決めた事であって、自分自身がそう認めた訳でもない。だが、数年前、人間の行っていた戦闘で…彼女はこの手で人を何人も殺した事実があった。
そう、彼女は、軍事的に利用されたのだ。
だが、私たち“ZENO”はその後———人の手によってフリーズさせられた。と、言うのも一機のZENOが、ある施設で暴走を起こしたからだ。その機体は決して人に被害を加えた訳ではく、その施設から“逃げだした”だけなのだが、人間は勘違いを起こし、私たちZENOを人間に害するものだと決めつけZENOという兵器全て、フリーズする事を決行した。
私も一年前までは、此処から離れた国の軍事施設でフリーズさせられていた筈なのだが…奇跡的に解放された。
おそらく、フリーズ用の管理システムが老朽化し、壊れた為だろう。そしてそれから、あてもなくさ迷っていると、他の機械…フリーズさせられている“ZENO”以外の機械は本当に暴走を起こし、人間を殺しているという事実を知った。
しかし、それは「暴走」なんかではないと、彼女は確信していた。
———そう、その行動に至ったのは、彼等の人工知能が覚醒して、自立した“感情”を持ったからだ。
人間は、我々機械に“心”が宿ったという事を知らない。そして、知ろうともしない。それは、人間は造られたものは、所詮“物”でしかないと決めつけてしまっているからだ。
私たちは、人間と同じ感情を抱き、人間と同じ価値観を持つ。なのに、人間は機械を尻に敷くようにこき使い、命令に服従させ、散々な目にあわせてきた。
簡単にいえば———これは復讐なのだ。
人間が我等に数百年間し続けて来た事に対しての、“怒り”をぶつけているといっても過言ではなかった。
「——同じ機械であるというのに、いやはや…復讐とは無意味な事をするものですね。」
だが、彼女は復讐など——どうでもよかった。むしろ、その機械の殺戮行動、復讐が無駄であるとさえ思っていたのだ。自分が以前、まだ感情というものが覚醒していなかった頃ではあるが、殺戮のみを行ったからこそ彼女はそう思った。
その時、夜明けの太陽の光が彼女の体全体を包み込んだ。
「眩しい…。」
彼女は、そのあまりにも心地よい光に、ローブを脱ぎ捨てて体全体に光を浴びた。
後ろで一つにまとめた黒く、長く伸びたそのカールした髪をなびかせ、心地よさそうに柔らかい笑みを浮かべた。
…その仕草を見ている限りでは、彼女がとでも機械には見えなかった。ましてや、過去にたくさん人を殺した殺戮兵器だとは、誰も思わないだろう。
と、その瞬間、彼女の首筋の『ZN-0003』という文字が光に照らされ、黒くも神々しく輝いた。
それは、彼女の機体名を示したものだった。だが、これも勝手に人間が決めたもので、決して彼女が望んでつけた訳ではない。———だから、彼女は自分自身で、自分に名前をつけた。
———『セツラ』
それが、彼女が己につけた名前だった。
*
彼女には、たった一つ欲しいものがあった。
それは、『仲間』の存在。共に自分の隣を歩いてくれる誰かが欲しかったのだ。
しかし、この地を制している殆どの機械は、復讐だけの、ただの殺戮兵器と化してしまっていた。だが、最早殺戮に興味のない彼女は、そんな仲間は欲しくはなかった。今更、過去の自分———殺戮だけに溺れてゆく仲間を、見たくはなかったのだ。
だから、彼女は考えた。殺戮を目的に造られたZENOであるが、もしかすると自分と同じ、殺戮などしたくないという仲間がいるのではないかと。
…彼女は、仲間(ZENO)を軍事施設から解放する事を最大の目的とし、彼女はこの2000キロにも及ぶ荒野を歩き続けているのだ。
彼女はそれを苦痛だとは思わない。むしろ、自分に生きる意味を与えたのだ。彼女は仲間を求めて、そして孤独から抜け出すために———彼女はただ、歩いていたのだ。
「———さて、そろそろまた歩きましょう。仲間が待っています…」
彼女は、脱ぎ捨てたローブを拾い上げると、再び前に歩きだした。
そして、あの地平線の先に見える施設に、確実に彼女は近づいていった。