ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 白夜のトワイライト 更新再開 ( No.150 )
- 日時: 2011/01/03 03:53
- 名前: 遮犬 (ID: zWHuaqmK)
「さて……と。私達も行こうか」
月夜は爆撃と味方の軍勢が一斉に動き始めた後、呟いた。
軍勢、といってもそれは一般ユーザーではない。
元々ユーザーであって、ユーザーでないもの。つまりはバグを称するイルの軍勢であった。
イルはユーザーの死んだ残骸の塊となって出来るもの。それはまさに異形の形といえる存在。
それが何百、何千といる。それが反乱軍の軍勢の正体であった。
(まさか本当にイルを操れるとはな……)
月夜は自分の腰あたりに装備してある煌びやかに光る蒼い宝石のようなものを見つめた。
その宝石は黒獅子から渡されたもので、これを持つことで大抵のイルを軍勢に引き連れることが出来る。
現にこうして軍勢が出来てしまっているのだから信じざる終えなかった。
「あの男はどこまでが本当で、どこまでが化けの皮なのか……」
月夜は鋭く吐き捨てるようにそういうと、横に呆然と戦況を見つめたままの氷歌を促した。
「そろそろ、暴れようか? 氷歌」
氷歌こと涼代 美月は月夜の顔を見ず、目の前を見つめたまま
「うん。楽しみだよ……すごく」
。
月夜は、氷歌と最近よく行動を共にしていた。
それは、また自分のとある探しているもののためなのだが。
氷歌も氷歌で何か目的があるように見えるが、プライバシーにも関わると放っておく。
そして、二人はイルの軍勢に交えてたった一つの目の前の目的に向かって走り出した。
——政府に宣戦布告するための大きな一歩となるであろうこの戦いのために。
第7話:戦いの螺旋
「え、えっと……既に、武装警察の戦闘要員は配置についているようです。
敵がある一定のところまで近づくと罠が発生し、そこを一気に畳み掛けるそうです」
凛は少々緊張した面持ちで白夜たちに告げる。
それもそのはずだ。初めての戦闘。それもいわば殺し合いなのである。
下手をすれば死んでしまうかもしれないゲームでないゲーム。
非現実であって現実化してしまうエデンに時折、畏怖を感じることすらある。
ゆえに、凛の肩は小刻みに震えていた。
そんな肩を、優輝が優しく手で覆う。
「大丈夫。何かあったら……俺が守るから」
少し照れ臭そうに言う優輝。
凛はそんな優輝を見て、ほどよく安堵する。
「ありがとう、優輝君」
凛はそっと優輝に微笑む。
どうやら覚悟を決めたようである。
少々走り、戦闘要員用のベースへと辿り着く。
そこには既に戦闘準備をしている武装警察が何人もいた。
皆、真剣な面持ちで目の前の敵が罠にかかってくれることを期待する。
白夜たちもモニターを睨みつけるようにして見つめる。
赤の敵軍勢が目的の場所までもうすぐでぶつかるというところ。
後少し、あと少し。
そして、モニターに浮かぶ【陥没】の文字。
いわゆる、成功を意味する文字だった。
「いくぞおおおおっ!!」
戦いの雄たけびをあげ、いざ戦いにゆかんとする武装警察戦闘員。
だが、何かがおかしかった。
「俺たちも続かないと……」
優輝も続こうとしたがその腕を白夜は掴む。
「待て。……何かがおかしい」
それはモニターだった。
陥没、と記されているが敵の姿はそこにある。
罠は捕縛か何かのものだったようだ、と気付く。
だが、しかし。
目の前の光景を見張る。
「何だ……? 誰も、いない?」
敵軍勢が何もなかったかのように、そこにいないのである。
何の音も聞こえない。大声援のおかげで敵の声を聞き分けることが出来ない。
「これは……罠だ」
白夜がそう告げた瞬間。
前へ名乗り出ていった武装警察戦闘員が次々と倒れ始める。
「ぐぁあっ……! なんだ……この音はっ……!!」
「いやぁああ!! こないでっ! こないでぇええ!」
戦闘員たちは突然狂いだしたように叫びだす。そして、どこか怯えていた。
「ど、どうなってんだ……?」
秋生が思わず目の前の風景を疑う。
しかし、原因はすぐに分かった。
「避けろっ!」
白夜の咄嗟の一言に体を反転させてものすごい速度で飛んでくる何かを避けた。
そして、大きな音。これは銃声であった。
銃が放たれたであろう方向を見ると、黒いコートを着こなす女性が一人、そこにいた。
「へぇ……よく避けれたね?」
ショットガンらしきものを抱えたその女性は不気味に笑う。
(こいつは……)
何かが違う。
そう感じ取るのはたやすいことだった。まるで普通のユーザーではない。
オーラか何かを感じるほどの存在感がその女性にはあった。
「お前、名は?」
白夜が名前を聞き出そうとする。
すると女性は不敵に笑みを浮かべながら答えた。
「私…天道 残月(てんどう ざんげつ)。アバターコードは、月夜」
狂った戦闘員の嘆きの声が聞こえる中、月夜は静かに笑う。
普通の敵ではない。白夜はそう思った瞬間、全員に告げる。
「俺がこいつを担当する。お前らはこの事態の原因である者を確かめろ」
命令口調で言ったが、皆これは正しい判断だと頷きで応じる。
そして何より、白夜の強さを信じているということもあった。
白夜と月夜だけが対峙する。
周りは狂った声の音響。そんな他から見れば地獄ともいえる境遇。
「……俺は月影 白夜。アバターコードは白夜光だ」
白夜は名乗ったのとほぼ同時に後ろ腰に装備していた大きな翼のような銃を携えた双剣を構えた。
「ふふ……。そうか、君が白夜光か……」
殺気が一気に溢れ出る。
月夜の殺気は、半端なものではなく、まさに憎しみそのものといっていいほど強大なものだった。
「死ほど美しいものはない……。私は、そう思うよ」
不敵に、月夜は笑った。