ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 白夜のトワイライト 第7話スタート ( No.151 )
- 日時: 2010/11/21 00:26
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: pD1ETejM)
(あの人はもしかして……)
春は優輝たちと、戦闘員が狂っている原因を見つけるために共に荒野の中を走っていく。
その間で気になったこと。それは白夜が引き受けるといった敵の女性のことだった。
(あのものすごい威圧を感じるオーラ……。畏怖すら感じるあの感覚……もしかして……)
春は感づく。いや、だがそんなはずはない。
思いついた人物は死んでいるはずである。だが聞いたことがあった。
薄いピンクの髪にダークブルーの瞳。さらには黒コートを着た女性。
その女性ユーザーは多大な威圧感のあるオーラを放つ。
その女性の名は、天道 残月。アバターコードは月夜。
元SSSランクのクレイバーであった。
「どうした? 春?」
秋生が春に声をかける。
鈍感な秋生でも自分の考えていることが分かったのだろうか、心配そうな顔をしている。
「いえ……何でもないです」
ただ、それだけを告げる。
秋生はその言葉に「そっか?」と、言ってまた走り出す。
問題はその月夜自体ではない。春が気にしているのはそのもう"片方"。
(もしかしてこの超音波……幻を見せているのは……!)
思い当たる一人の人物。
その人物であろうに違いないと確信し、春は走り出した。
月夜は薄いピンク色の髪を優雅に揺らしながら、黒いコートの中から何かを出す。
どうやら武器はコートの中に隠されているようだった。
取り出したのはナイフ。それを素早く、白夜に投げてくる。
白夜は予備能力でもある、実体感覚距離能力というものがあり、
目に入る物の距離感がコンマ単位で分かるというものである。
そしてその距離感を、体に見につけることが出来る。
その能力のせいもあり、白夜は特に驚きもせず、自らが持つ双銃を放ち、ナイフを空中で叩き落とした。
と、その次の瞬間。
一気に月夜は白夜の傍まで来ていた。
右手には大きめのナイフ、もう片方の左手にはショットガンのような銃を持っていた。
白夜はすぐさま双剣を振り上げた。
ナイフと双剣がぶつかる音がする。そしてもう片方のショットガンで——攻撃してこない。
その次の瞬間、白夜は腹に痛みを覚え、後ろへと吹き飛ぶ。
月夜に足で腹を蹴られたのだった。
「……ペッ」
口の中に残る血ヘドを白夜は吐く。
体術にはかなりの自信がある白夜は少々の屈辱を覚える。
見えたはずだった。だが、相手は自分が予測していたものよりか速かった。
それは実体感覚距離能力を凌駕したということにもなった。
白夜はこの能力を越すほどの体術をみたことがなかった。
(間違いない、こいつは……)
ゆらりと体を揺らし、こちらに不気味に笑い顔を見せながら月夜は言う。
「どうしたの? もっと楽しもうよ。ふふ……!」
(SSSランク……それも俺と同じ、クレイバーか……)
ならばさっきの体術にも納得がいく。そして何かしらの能力があるはずだった。
「ならそれを引き出してやろう……力ずくでな」
白夜の右手が輝かしい太陽の光に包まれた。
「面白いね……。きなよ」
月夜は、楽しそうに微笑んだ。
それは、畏怖すら感じられるほどの殺気と共に、言ったのだった。
優輝たちは何もない荒野へと場所を移した。そこには相変わらず何もなかった。
モニターではここらへんに敵軍勢がいたはずなのである。だが、いまや姿形も見えない。
「二手に分かれよう。俺と凛のチーム、秋生さんと春さんのチームで」
優輝は二手に分かれて原因や何が起きているのかを確かめよう、ということであった。
戦闘員たちは既に怯えすぎたのか震えるばかりで使い物にならなかった。
「分かった。それじゃあ俺たちは——」
その時だった。
何かが、空中に見えたのだ。
そしてその瞬間、秋生が吹き飛ばされる。
「秋生さん!」
空中にいきなり現れたのは、怪物のような手。
そしてぼんやりとした蜃気楼が漂う。
「まさか……」
その手はだんだん鮮明になってゆき、体、足、手、頭と、姿をあらわにしていく。
そしてあらわれたのは
「hsふぁfgじjrじぇfkjそ!!」
言葉になっていない叫び声をあげる異質の存在。
それはまぎれもなく、イルだった。
「散開しろっ!」
優輝の一言で春は散開、凛は優輝が引き連れてなんとか散開する。
そして優輝は周りの方を良く見る。すると、蜃気楼のようなものがあたりを覆っていた。
さらに、それは姿を現す。
「俺たちも……既に幻想にはまっていたのか……?」
周り一面、イルに囲まれていた。全く気付かなかったことに対して優輝は悔いる。
そんな中、春は一人の少女の姿を見つける。
それはずっと探していた少女の姿だった。
「狂歌……!」
春の視線の先にあった人物。
白い長袖のワンピースを着こなし、深い藍色の瞳を虚ろげに持つ少女。
「狂歌! 貴女、なんでここに……?」
春が狂歌と呼ぶ少女に近づいていく。
だが、行く先をイルに阻まれる。
「私は氷歌……。狂歌? 何のこと?」
そして少女は歌い出そうとする。
超音波ならぬ歌声。それは幻を見せる歌声であった。
「アイツがこの状況の確信犯かっ!」
イルによって吹き飛ばされた秋生はいつの間にか立ち上がり、氷歌を睨む。
だが、今のこの状況は圧倒的に優輝たちにとって不利であった。
イルの大群、つまりは敵の軍勢が自分達に向けられているのと同時に本部へと進行し始める軍勢。
本部の方には正常な戦闘員はいることはいるが、皆この状況に把握できずに困惑している。
そして、また、この軍勢を倒さなければ氷歌には追いつけない。
さらに氷歌の歌うのを完全に静止させなければならない。
自分たちは幻を見ているのかどうかは氷歌が春の言葉に対して返事をとったことから本物らしい。
つまりはこの能力、どういうことなのか。
「……分かったかもしれない……」
この能力の謎を解いたのは、凛だった。
「本当か?」
優輝が驚きながらもそう言った。
しっかりと凛は頷く。だが、一つ条件があった。
「あの人に近づくことです」
幻の原因、歌っている少女の傍まで行くというのが条件だった。
ということは、この囲んでいるイルの軍勢を倒す、というのも目的となる。
「皆! ……活路を開くぞっ!」
優輝は剣を構えて他三人に声をかける、と同時にイルたちも優輝たちに襲いかかってきた。
戦いの螺旋は、激しく回り始める。