ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 白夜のトワイライト 久々に7話更新 ( No.163 )
- 日時: 2010/12/27 19:30
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: S19LK/VD)
それは——螺旋の中に渦巻いていた、一つの"狂気"。
静かに、それは足を進めていたのだ。
暴れる手元に握られているイルに目掛けて微笑んでいる——"奴"。
「暴れるなよ……ほら
潰れちゃうじゃないか」
奴が言った瞬間、イルの体は無残にも内側から爆発したかのように四方へ広がる。
その血は、まるで奴だけを退けているかのように避けている気がした。
奴にまで、その血は"届いていない"のだった。
「政府も反政府も、面白いよねぇ……こんなお祭り開くなんて、さ」
奴の周りには血の海しかなかった。
遠くに、無残にも原型をとどめていないほどダメージを受けている兵士の姿もあったが。
「ま……どっちにしろ、暇なことには変わりないんだけどね」
奴はそう言うと、微笑んだ。
全てを影で覆ったような存在。その中に光など一切交えていない。
奴の原型そのものが影ともいえた。
第8話:闇に塗れた天使と地獄
七姫こと、赤頭巾は——迷っていた。
建物内部に侵入は自分の能力を多く多用すれば難なく入り込めるのだが……
「さすがにこれだけ広かったら迷うよッ!!」
どこまで行っても通路、通路と続く建物内部に音を上げてみる。
だがしかし、案内してくれる人なんてましてやおらず、ただただその場で立ち止まるばかり。
「ん〜〜……! もう! こうなったら意地でも見つけてやるんだから!」
赤頭巾は可愛らしく地団駄を踏み、殺風景な天井へと指をさして言って見る。
「政府のアーカイブッ!」
ちなみに七姫の探している政府のアーカイブは上の階ではなく、随分と地下の方にあるとは誰も教えてくれない。
「これは——!」
目の前の現実が優輝たちには信じられなかった。
いや、信じたくなかったのである。
「ひどすぎる……!」
無残にも体がありもしない方向へと折れ曲がっている兵士たちの姿。
それに加えてイルの姿は血の海と化していた。
「一体何があったんだ? そしてここに"何がいた"?」
ワイズマンが言うも、優輝たちは誰も答えられない。
戦場の音がどおりで小さくなっている原因はこの光景そのままだった。
「何か、とんでもない奴がいるようだな……」
「ふふ……やっぱり来たんだね、"奴等も"」
黒獅子は笑みを浮かべてそう言った。
だが、それも想定範囲内。
「ラプソディ?」
傍にいるラプソディへと声をかける。
「分かってるよ。——俺も狩りに出させてくれるんだろ?」
ラプソディの言葉に黒獅子はさらに笑みを浮かべる。
「ふふ……そうだよ、"狂気"。そうだなぁ……"子供達"を連れて行っていいよ」
「子供達? チルドレンのことか。チルドレンはまだ実戦を試していないんじゃなかったか?」
ラプソディの言葉に黒獅子は俄然とした態度でラプソディに向けて言う。
「これが、初の実戦ということだよ」
ラプソディは黒獅子の言葉にただただ笑みを浮かべ、跪く。
「かしこまりました……仰せの通りに暴れさせてもらいます」
静かに対峙する女性が二人、荒野へ立っていた。
だが、その最中に殺気が幾度となく飛び交う。
大和撫子こと春は勢いをつけて駆け出した。
目指すは、無論目の前にいる大鎌を持つ無表情の少女。
「はぁっ!」
刃と刃が響きあう音が静かなる荒野に激しく交差した。
春はその見た目などから予想だにしない動きで俊敏にナイフを操り、攻撃をする。
対して氷歌こと美月はその俊敏なナイフの舞を冷静に大鎌で叩き落としていく。
「やっぱり、昔と変わらないですね……」
春はそう呟くと二歩、三歩と後ろへ下がる。
それに合わすかのようにして氷歌も二歩、三歩と下がった。
「………」
無表情のまま、美月は春を見つめる。氷のような冷たい目で。
その後、大鎌を突然仕舞い始めたと思うと、息を大きく吸い込んだ。
「これは——!」
そう、美月の能力である幻を見せる歌を歌う最初の仕草であった。
素早く耳を塞ぐ。その後に聞こえてくる狂ったような歌声。
それらは塞ぐものを関係せずに耳を刺激し、脳器官までもを刺激する。
「ッ——!!」
春は目を瞑り、右手を耳から離す。
一気に流れてくる騒音ともいえる狂気に狂わされるような歌声に必死にもがきながら——
右手を前に差し出した。
その突如、右手からか全身からか幾多の星のような光が溢れだす。
それらは凄まじい勢いで美月へと襲い掛かった。
「……!」
美月は歌をやめ、回避行動に入る——が、追尾されてその輝きは氷歌を包む。
「うああああッ!!」
美月は苦しみ、もがく。
その有様を春は微笑みながら言う。
「忘れましたか? 貴方が幻なら、私は真逆。真実を見せてあげます」
大和撫子の能力、星。
それは全てを包み、数々の思い出をフラッシュバックさせる。まさに真実を見せる幻覚系能力だった。