ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 白夜のトワイライト 久々に7話更新  ( No.163 )
日時: 2010/12/27 19:30
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: S19LK/VD)

それは——螺旋の中に渦巻いていた、一つの"狂気"。
静かに、それは足を進めていたのだ。

暴れる手元に握られているイルに目掛けて微笑んでいる——"奴"。

「暴れるなよ……ほら

      潰れちゃうじゃないか」

奴が言った瞬間、イルの体は無残にも内側から爆発したかのように四方へ広がる。
その血は、まるで奴だけを退けているかのように避けている気がした。
奴にまで、その血は"届いていない"のだった。

「政府も反政府も、面白いよねぇ……こんなお祭り開くなんて、さ」

奴の周りには血の海しかなかった。
遠くに、無残にも原型をとどめていないほどダメージを受けている兵士の姿もあったが。

「ま……どっちにしろ、暇なことには変わりないんだけどね」

奴はそう言うと、微笑んだ。
全てを影で覆ったような存在。その中に光など一切交えていない。
奴の原型そのものが影ともいえた。



第8話:闇に塗れた天使と地獄




七姫こと、赤頭巾は——迷っていた。
建物内部に侵入は自分の能力を多く多用すれば難なく入り込めるのだが……

「さすがにこれだけ広かったら迷うよッ!!」

どこまで行っても通路、通路と続く建物内部に音を上げてみる。
だがしかし、案内してくれる人なんてましてやおらず、ただただその場で立ち止まるばかり。

「ん〜〜……! もう! こうなったら意地でも見つけてやるんだから!」

赤頭巾は可愛らしく地団駄を踏み、殺風景な天井へと指をさして言って見る。


「政府のアーカイブッ!」


ちなみに七姫の探している政府のアーカイブは上の階ではなく、随分と地下の方にあるとは誰も教えてくれない。




「これは——!」

目の前の現実が優輝たちには信じられなかった。
いや、信じたくなかったのである。

「ひどすぎる……!」

無残にも体がありもしない方向へと折れ曲がっている兵士たちの姿。
それに加えてイルの姿は血の海と化していた。

「一体何があったんだ? そしてここに"何がいた"?」

ワイズマンが言うも、優輝たちは誰も答えられない。
戦場の音がどおりで小さくなっている原因はこの光景そのままだった。

「何か、とんでもない奴がいるようだな……」




「ふふ……やっぱり来たんだね、"奴等も"」

黒獅子は笑みを浮かべてそう言った。
だが、それも想定範囲内。

「ラプソディ?」

傍にいるラプソディへと声をかける。

「分かってるよ。——俺も狩りに出させてくれるんだろ?」

ラプソディの言葉に黒獅子はさらに笑みを浮かべる。

「ふふ……そうだよ、"狂気"。そうだなぁ……"子供達"を連れて行っていいよ」 

「子供達? チルドレンのことか。チルドレンはまだ実戦を試していないんじゃなかったか?」

ラプソディの言葉に黒獅子は俄然とした態度でラプソディに向けて言う。

「これが、初の実戦ということだよ」

ラプソディは黒獅子の言葉にただただ笑みを浮かべ、跪く。

「かしこまりました……仰せの通りに暴れさせてもらいます」




静かに対峙する女性が二人、荒野へ立っていた。
だが、その最中に殺気が幾度となく飛び交う。

大和撫子こと春は勢いをつけて駆け出した。
目指すは、無論目の前にいる大鎌を持つ無表情の少女。

「はぁっ!」

刃と刃が響きあう音が静かなる荒野に激しく交差した。
春はその見た目などから予想だにしない動きで俊敏にナイフを操り、攻撃をする。
対して氷歌こと美月はその俊敏なナイフの舞を冷静に大鎌で叩き落としていく。

「やっぱり、昔と変わらないですね……」

春はそう呟くと二歩、三歩と後ろへ下がる。
それに合わすかのようにして氷歌も二歩、三歩と下がった。

「………」

無表情のまま、美月は春を見つめる。氷のような冷たい目で。
その後、大鎌を突然仕舞い始めたと思うと、息を大きく吸い込んだ。

「これは——!」

そう、美月の能力である幻を見せる歌を歌う最初の仕草であった。
素早く耳を塞ぐ。その後に聞こえてくる狂ったような歌声。
それらは塞ぐものを関係せずに耳を刺激し、脳器官までもを刺激する。

「ッ——!!」

春は目を瞑り、右手を耳から離す。
一気に流れてくる騒音ともいえる狂気に狂わされるような歌声に必死にもがきながら——
右手を前に差し出した。
その突如、右手からか全身からか幾多の星のような光が溢れだす。
それらは凄まじい勢いで美月へと襲い掛かった。

「……!」

美月は歌をやめ、回避行動に入る——が、追尾されてその輝きは氷歌を包む。

「うああああッ!!」

美月は苦しみ、もがく。
その有様を春は微笑みながら言う。


「忘れましたか? 貴方が幻なら、私は真逆。真実を見せてあげます」


大和撫子の能力、星。
それは全てを包み、数々の思い出をフラッシュバックさせる。まさに真実を見せる幻覚系能力だった。

Re: 白夜のトワイライト ぶはw参照1700突破だと…? ( No.164 )
日時: 2010/12/27 20:54
名前: 狩人 ◆Puie0VNSjk (ID: /od6a26Q)

久々の更新!乙です!!

Re: 白夜のトワイライト ぶはw参照1700突破だと…? ( No.165 )
日時: 2010/12/28 22:33
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: S19LK/VD)

>>狩人さん

何か色々と申し訳ないです;
久しぶりの更新ですね…w本当にw
地底の方に見つけましたよwこれw

1週間ぶりぐらいですか?w本当亀更新で申し訳ない><;
これからもボチボチとなっていくでしょうが宜しくお願いします;

Re: 白夜のトワイライト  ( No.166 )
日時: 2011/01/02 01:36
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: fREd0x4b)

「ふむぅ……」

モニターだらけの薄暗い室内の中、慌ただしく事態は変動を起こしていた。

「ヴァン元帥っ! 戦力が著しく減少しておりますっ!」

モニターに映る映像は無残に血の海と化されている武装警察の姿があった。
手足や頭などが変な方向に"強制的に曲げられた"かのような感じを醸し出している。
その死に方がまずありえなかった。一人だけをやるのならまだしも、数が数である。
それだけの人数を強制的に曲げたりするのは肉体で起こせることではなかった。
さらにはいくら一般兵士といえど、訓練を充分に受けた兵士たちである。
そう簡単にはやられるとも思えないのが現実であった。

「この死に方は……」

ヴァンはモニターを眺めながら顎に生えている髭を撫でる。
この死に方には見覚えがしかとあったのだ。
その記憶は残酷すぎてあまり曝け出したくないものではあったが。

「……お前達。もうここはいいわい。早く逃げる準備をして避難経路を渡れ」

そのヴァンの指令にその場にいる兵士たちは皆納得できるはずがなかった。

「どうしてですかっ!? 敵を目の前にして逃げろというのですか!?」

兵士の内の一人、まだ若くて20代、下手すれば10代かもしれない年端の男が声を荒げて言った。

「もうここは落ちた。これはいわゆる作られたシナリオじゃわい」

「ま、まだ落ちたと決まっていませんっ! こんなシナリオ、ぶち壊していくのが貴方でしょうっ!?」

若い兵士はますます声を荒げる。
確かにその兵士の言うとおり自分のポリシーはそういう打破を主格としていた。
それによってこの地位まで登り詰めたのだからまさに今の自分を創り出した考えといっても過言ではないだろう。
だがしかし、今回は違う。

「バカモンがッ!!」

強烈な一言とビンタが兵士の耳と頬にぶち当たる。
兵士は思い切りよく吹き飛ばされ、床に尻餅をついた。

「そんな考えで捨てていい命がどこにあるんじゃっ! 無謀というんじゃ、そういうのをな」

呆然とした様子の兵士を怒りの目から優しき目へと変える。

「いいか。ワシは任務よりお前らの命の方が大事じゃ。これは命令だ、従え」

ヴァンは引っ叩いた男に手を差し伸ばし、上へと引き上げて立たせてやった。
男は、呆然とした顔から突如歯を食いしばり、唸るようにして言う。

「俺は……! 俺は悔しいのですっ! あの死んでいる者の中には俺の友人もいましたっ! 俺は……!」

友人がモニターで無惨な死に方で死んでいるところを見れば必死にもなるし、何ともいえない感情も込み上げるだろう。
それは長い戦いの内でヴァンも分かっていた。
自分もどれだけこの"ふざけた管理下"で人が死んだことか。

「……仇など、いつでも取れるわい。今は自らの命を大事とせい」

ヴァンはそう言うと、男の髪を撫でるように、しかし豪快に髪を揺らす。
男は、自然と涙が零れ落ちた。

「皆ワシの指示に従えっ! 準備が出来次第、すぐさま脱出口から出るのじゃっ!」

兵士たちは、その指示に敬礼して「了解しましたっ!」と声を出すとすぐさま準備に取り掛かった。

「ワシも……出なければならんのう……」

ヴァンは誰にも聞こえないように呟くようにして言ったが、涙を流していた男だけその声に気付いていたのだった。




「騒がしいな……」

不意に白夜が呟いた。
双剣は既に鞘の中に収められている。
そのすぐ傍で膝をついているのは先ほど戦いを終えたばかりの月夜だった。

「どうやら……シナリオが進行したみたいだね……」

「シナリオ?」

月夜の言葉に白夜は聞き逃さなかった。
白夜の訝しげな表情に少し笑い、言った。

「……黒獅子の作ったシナリオだよ。まさにその通りになってきている。次に出てくるのは確か——」

その刹那、凄まじい爆音と共に傍にある建物が破壊された。
外側の方なので外からの攻撃であることは確かだが、この爆音は凄まじさを物語っていた。

破られた建物の外側、つまりは優輝たちが恐らく戦っているであろう荒野を見た。
その先に映るものは——子供たちだった。

「子供……?」

白夜は子供の姿を見て眉を上げる。
そして、一つこの風景を見て思いついたことがあった。

「……こいつら全員トワイライト適合者か」

その白夜の言葉に月夜はニヤリと不気味に笑って言う。

「その通りだよ」

その瞬間、子供達は虚ろな目をそのままに白夜たちに襲いかかってきた。




「ダメだ。皆息がない……」

ワイズマンの言葉に優輝たちは顔を俯ける。

「あ……待って! あの人っ!」

その時、凛が叫んで指を差した場所に呻いている兵士の姿があった。
急いで一同は駆け寄り、その者を抱きかかえるようにして優輝は声をかける。

「おいっ! おいっ! 大丈夫かっ!?」

「うぅ……ば、が……」

兵士は目が潰されているようで呻きながら何かをボソボソと話している。

「おいっ! しっかりしろっ!」

ワイズマンの言葉にも返事を示さない。まるで悪夢を見ているかのように唸るばかり。
それが少しの間続いたかと思うと、いきなり大きく体が反動した。
あまりの勢いだったので優輝は離れて剣を構える。レイスやワイズマンもその行動に武器を構える。

「あの……! 悪夢が……ッ!!」

「……悪夢、だと?」

その言葉にレイスが反応する。
そして次の瞬間、兵士はもう一度大きく反動したかと思うと目を閉じて動かなくなってしまった。

「……ダメだ、死んでる」

ワイズマンが男の脈に手を当てて首を横に振りながら言った。

「クソッ! 一体誰が……!」

「……悪夢、聞いたことがあるぞ」

レイスが呟くようにして言った。
その言葉に一同も耳を傾ける。

「かつて、戦争のトワイライトが行われた時に謎の無差別大量殺人という不可解な出来事が起きたのだ」

「無差別……? 敵味方関係なく、ていうことですか?」

優輝の言葉に「左様だ」と返事をするとルイスは後を続けた。

「その死に方はあまりに残酷で卑劣な死に方だったらしい。現にここにある死体のようにな」

そこらに倒れているもはや人間の形をしていないモノを目で差してみせる。
凛が気分が悪そうに口を押さえる。

「大丈夫か? 凛」

「う、うん……」

無理をして笑顔を作っているのが分かった。冷や汗も数多く見える。

「……少し離れよう」

場所を移動しようとしたその時だった。


「——どこにいくの? お兄ちゃんたち」


その言葉は、とても寒気のするものだった。
寒気、恐怖、戦慄、不気味なものを体中全てに教えてくれるほどにまでその言葉は——奇妙だった。
透き通った綺麗な声とも取れるのかもしれないが、違う。
これは一番全身が震えあがるもの——殺気であった。

優輝たちは返事を返すことも出来ない。その者がいるであろう後ろに振り返ることすらも。

「せっかく会えたんだからさ……遊ぼうよ?」

その言葉の次に、優輝たちは振り返る。
——が、そこに人はいなかった。

「——どうしたの?」

「「ッ!?」」

次の瞬間、そのまた後ろの方で声が聞こえたかと思うと優輝たちは吹き飛ばされていた。
吹き飛ばされる刹那、優輝が見たのは仮面を被っている——人間の姿。
だが、姿はそうでも纏っているものが全く違うように見えた。
地面に叩き落され、痛みを感じながらも立ち上がる。
そこに、いたのは

「さぁて……楽しもう?」

——人ではない"何か"だと思った

Re: 白夜のトワイライト イメージソングがリニューアルしましたw ( No.167 )
日時: 2011/01/03 17:56
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: zWHuaqmK)

「いやああああっ!!」

叫び声が荒野に響き渡る。
そこには両手で頭を抱え込み、うずくまっている美月の姿があった。
その表情は恐怖から逃げているかのように歪んでおり、体中が震えていた。

「うぅぅぅぅ……!」

呻きながら脳裏に出てくるのは忌々しい過去の記憶。
それは一生閉ざしておきたい心の闇であった。

——君には大切なものがあるかい?

「やめ……て……!」

——そうだね。君の大切なものを守るためには、敵をいっぱい殺さないといけない。

「やめてぇぇぇぇッ!!」

叫び声をあげ、息は乱れている。苦しそうに喉元を押さえながら必死に振り払おうと目を閉じている。

「貴方は、現実から逃げているだけなのです」

そんな美月にゆっくりと確実に一歩ずつ春は近づいていく。
この状態の美月は戦闘をするどころか、状態を保っていられない精神状態であるとみたからであった。

「だまれ……!」

美月はその容姿や声のトーンなどとは裏腹に春に睨みつける。
その目には恨みなどの他に恐れというものも存在しているのだろう。

「貴方が何度逃げとうとも、私がそれを拒みます」

「黙れぇぇっ!!」

その瞬間、美月は手元に転がり落ちてあった大鎌を春に向けて投げた。
だが、そのことが容易に想像できていたかのように春は大鎌をよけた。
大釜は空を舞い、荒野の地面へと飛び退っていった。
後数歩というところで春は立ち止まる。
美月にはもう目の前にいる春が恐ろしく冷たいもののように感じた。
自分の作り出したすべてを破壊する悪魔のように。


「貴方がどれだけ幻想を創り出そうと、私がそれを破壊します」


春はゆっくりとそう言い放った。
その言葉の後に、美月はゆっくりとまるで力の抜け切った死人のように立ち上がった。
苦しそうに喉と頭を抑え、美月は春を睨む。その目はどこか悲しげなようにも見えた。

「私は……っ! もう狂歌じゃないっ! 氷歌だっ!」

美月が訴えるように言ったその時

ドォンッ! ドォンッ! ドォンッ!!

大きな破裂音が荒野に響いた。白い煙が荒野を包む。
地面が大きく揺れ始め、立っていることもままならない。
どうやら白い煙などを見る限りこれは爆発音だと容易に想像はついたが発生源が分からない。
そのひどい地震に抗うことも許されないまま、春と美月は転がり落ちていった。




「な、何っ!? この地震っ!」

政府のアーカイブ上階にあるとみて上へと猛進していた七姫だったが突如の地震により、立ち止まる。
だが、だんだんと地震は激しさを増し、立っていることすらもままならなくなってくる。
何とか手元の手すりを持って耐えているが、それでは七姫のような小柄の体格の少女がこの地震を耐え切れるとは思えなかった。
案の定、手が手すりから離れてしまう。そして、待ち構えるのは——下へと続く階段であった。

「——え」

なす術もなく、体が浮いて階段から転げ落ちそうになったその時だった。
何かが、七姫の首っ根を掴んで後ろへと引き上げたのだった。
その勢いで七姫は何とか助かったが何が起きたのか全く理解が出来ない状況であった。
地震のせいで床は揺れ動く。それに連動するかのようにして頭も揺れ動いているかのようで何が何だか分からない。
ただ分かることは尻餅をついて痛いことと、誰かに助けられたことだった。
その時、地震が一時的に治まりを見せた。すぐさま後ろを振り向いて助かった原因を探ろうとした。
だが、そこには何もいなかった。人影や、人がいた気配すらもない。

「おかしいな……?」

——では一体誰だったのだろうか? そう思いながら手元近くの手すりにもう一度掴まろうとしたその時だった。

「痛っ!」

突如として痛みが手から肩にかけて伝わる。すぐさま手すりから手を離した。
だが、この痛みはどこかで受けたことのある痛みだった。それは——静電気。
何かと思って驚いたが静電気だと知って安堵する。だが、少し気になることがあった。

「あれ……?」

その静電気は、いつの間にか手すり全体に帯びており、そして——色を持っていた。

「紫色……?」

紫色の電気は、手すりに触るものを拒むかのようにして迸っていた。




左右から襲いかかる刃物の乱撃を双剣で受け止めては返し、左手に闇を起こしてはそれによって子供たちを引き寄せる。
だがそれに子供たちは対抗し、自ら持っている刃物を引き寄せられる勢いに任せて斬りつけようとする。
白夜はそれを右手の光によって視界を閉ざし、子供たちが怯んだ瞬間に体術を叩き込んだ。
それは異常なほど速く、次々と子供たちは倒れていく。

「……こいつら、トワイライトの適合者か」

白夜が呟くように言った。
それに対して横の方で同様に子供たちの相手をしている月夜が笑って反応する。

「その通りだよ。そしてこれが初の実戦みたいだね……」

四方八方から襲い掛かってくる刃物の乱舞に瞬間的速さで体術を叩き込んでいく。
白夜に負けておらず、その速さはとてつもないものであった。

「どうしてお前まで戦っている」

白夜は虚ろな目をし、集団で襲い掛かってくる子供たちの間に小さな威力の少ない爆風を飛ばす。
それによって子供たちは四散へ吹き飛んでいく。

「契約上の付き合いだからね。それともこいつらに理性がないだけなのか……」

月夜は銃を幾度も放ち、それらを的確に的へと当てていく。出来る限り武器を砕くようにしてあてている。

「白夜光にしては優しいものだね」

月夜の言葉に双剣で相手の刃物を砕き、そして即座に気雑させていく白夜は睨みを利かせる。

「関係のない奴を殺しても意味がない」

「ふふ……意外と義賊なんだね、白夜光」

月夜は笑う。そして白夜も笑った。
——殺されるかどうかのスリルを楽しんでいるかのように。

「勘違いするな。俺は罪を懺悔する者。罪あるものには……容赦などせず、食い潰す」

畏怖すらも感じられるその笑みと言葉に月夜はますます笑ってしまう。
そしてそのほかに別のものも組み込まれているということにも月夜は容易に想像が出来たのだ。

「なるほどね……」

月夜はクスッと笑い、目の前で立ち上がってくる子供たちを見張る。
その時だった。突如として破裂音が聞こえ、地面が揺れ動きだした。
地面に所々亀裂が入り、子供たちを吸い込むかのように引きずりこんでいく。

「これは……何らかの能力か?」

膝をつき、地震にに対して対抗するかのようにしている白夜が呟いた。
その呟きを白夜と同様にしている月夜が捉え、口を開いた。

「どこかで聞いたことがあるよ。確か……アバタコード、土沌龍。武装警察、ヴァン元帥の能力だったはず」

「あのじいさんの……」

白夜は何故かここでひっかかることが出てきた。
そしてそれは一つの可能性を見出す。
——働かざるして、獲物はないだろうが
突如として思い出されるヴァンの言葉。
それらはやがて、一つの可能性の信憑性を高く上げた。
白夜はそのことにより、地震が少し緩まった時に行こうと立ち上がったときだった。

「……何の真似だ」

立ち去ろうとしていた白夜の腕を月夜が掴んでいたのだった。

「私は月夜としてではなく、天道 残月(てんどう ざんげつ)としてここに用があって来た。同行させてほしい」

白夜はあくまで無表情でそのことを聞き、無感情で返す。

「さっきまで敵として殺し合っていた俺について来る道理も、義理もない」

白夜はそう言って掴まれた手を振り払おうとしたが月夜は力を込めてそれを拒み、言った。

「君が求めるものの近くに私の求めるものもある。だから利用させてもらうだけ」

月夜の目は何の迷いもなく、決心の込めた目であった。
白夜はその目を見て鼻で笑う。

「勝手にしろ。ただし俺はお前のことを一切干渉しない。敵は敵だ」

「そっちのほうがありがたいよ。助けられるなんてガラじゃないからね」

白夜と月夜はそのまま建物の中へと入り込んでいった。
揺れ動く地面の中、螺旋が今——急速に展開を変えて回り始める。

Re: 白夜のトワイライト 3度の原稿やり直しに耐え、更新 ( No.168 )
日時: 2011/01/31 22:59
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: nUPupIAw)

「何だよ……これ……」

秋生はあの後、兵士たちの様子を見に行くために一人で行動していた。
そこで見た光景。それは優輝たちが既にみた兵士の無惨な血の海であった。

「誰が……こんなことを……?」

秋生は血の海の中、一人呆然と呟いてその光景を眺めていた。
少しでも助けられなかったことを悔やみに悔やむ。
普段、秋生はお気楽で楽観的な男であるが、人の死を前にして楽観をするほど残忍な男ではない。
それはエルトールに入った理由にも値するからであった。


「——あ、いたいた」


「!? 誰だっ!」

突如として後方より声が聞こえた。すぐさま振り向いてみるとそこにいたのは仮面を付けた奴と黒に包まれた男。
黒装束の方はどこかで見覚えがあったが、仮面を付けた男とは初対面であった。
秋生が細い目を睨みつけるようにしてその二人に視線を浴びせた。

「おー怖い怖い……。聞きたいことがあるだけだから、聞いてくれるかな?」

仮面をつけた男か女なのか区別のつかない声の奴は肩を竦ませながら秋生に聞く。
秋生はこの時、この状況下で穏やかな心を持っていなかった。それどころかこの有様をこの二人がやったと思い込んでしまう。

「お前らが、これをやったのか……?」

「これ? これって、この血の海のことかなぁ?」

仮面を付けた男が隣の黒に包まれた男に促す。すると小さく、秋生に聞こえないほどの声で返事をする。

「はははっ! 違うよ。これは多分ね、きっと"悪夢"の仕業かな?」

この無惨な光景を目にして驚きもせず、笑いながら仮面をつけた奴は言った。

「悪夢? それは誰のことだっ!」

秋生がいきり立って詰め寄ろうとした時——ふっと、冷たいものが首に触れた。

「——っ!?」

目線の先には仮面の男の姿はない。黒で包まれた男のみ。
仮面の男は——秋生の隣にいた。白く、透き通った手が秋生の首に触れていたのだった。

「君の質問には、一回答えたよね? ——次はこちらの番だよ」

近くで聞くと、余計透き通っている声のように聞こえたがそれと同時に恐ろしく冷たい声のように感じた。
驚き、それもあるが殺気に近い何かおぞましいものが秋生の口をとめていた。

「さぁ。答えてもらうよ?」

何かが、秋生の中に入り込んでくる。
息が少し苦しくなっている気がした。手に力を入れられているのかすらも分からない。
何も、感じない。

「——月影 白夜。白夜光はどこにいる?」

「ッ——!」

奴は、透き通った声で秋生の耳元で語りかけるようにして言った。
震え上がる畏怖。嗚咽を何度もかましたい気分にもなってくる。
だが、それをすることさえも奴は許してくれないだろう。ただ、質問を答えることだけに秋生を利用している気がした。

「——さぁ、答えて」

「——ッ!?」

頭が何かに侵食されていく。それは、暗い暗い何か。
どんどん侵食され、やがて秋生は——意識が途切れた。

仮面の男が去った後、秋生はひどい嗚咽を何度も繰り返した。
そうして吐いたものはほとんど全てが血反吐であった。

「お前も埋め込まれたようだな……」

黒で包まれた男が言っているようだ。頭がボヤけて何が何だか分からない。
——何が、誰が俺に話しかけている?
ひどい頭痛が脳内を駆け巡り、息苦しくなってくる。
そして——何かが弾けた。

「ハハハハハハハハッ!!」

途端に秋生は笑いだした。
その姿を見て黒に包まれた男は黒で覆われた顔をあらわにする。
その正体は秋生が断罪と戦った時に見た"斬将"黒槍 斬斗であった。

斬斗は闇に包まれた剣を二つ抜き放ち、構える。
目の前には笑いながら足をフラつかせ、途端に黙り込んで刀を二つ抜き放つ秋生。

「あれが……アバタコード"狂気"ラプソディ殿の力か……」

斬将は一度戦った男の豹変した姿に真剣に立ち向かい、打ち倒せんとして駆け抜けていった。

(殺サナイト……殺サナイトイケナイ!)

頭の中で鳴り響き、命令を下す狂気に支配された秋生は狂気に包まれ、侵食されていく。
——抵抗も、出来ないがままに。




これは、どういうことだ。

金縛りというものを聞いたことがあるが、それとこれは同じものなのだろうか?
目の前のものを、拒絶したい。だが、その場で動いてはならない気がする。

「遊ぼうよ、お兄ちゃんたち……」

ゆっくりと近づいてくる、"闇"。
それは人ではなく、闇そのもののように感じた。

この拒絶の感じ、優輝は断罪との戦いのことを思い出す。
優輝は生死を彷徨った。そして、再びここに戻ってきた。
自らの使命を果たすために。罰を受け、洗い流すために。

だが、これは違う。

目の前にいるものは、生きていること全てを否定しているかのようで
夢。そう、夢のようだ。
それは悪夢のように目の前に存在していた。

直感で分かる。
この血の海の光景。それはこの目の前の悪夢がやったのだと。

「あそ……ぼう?」

ゆっくりと悪夢は近づいてくる。
——逃げないといけない! そうは分かっていても足が全く動かないのである。
それは優輝のみならず、他の3人も同様のようで誰も動けはしなかった。

(——このままだと、確実に殺される……!)

嫌な汗が多量に頬を伝っていくのが分かった。
それは精神なりの危険信号なのだろう。だが、圧倒的に目の前の存在は——それら全てを否定していた。

一歩、一歩と近づいてくる目の前の悪夢に何も出来ずにただ立ち止まっているばかり。
なす術がないというのはまさにこういうことのことをいうのだろうか?

「——つまらない。それじゃあそこらの"ゴミ共"と一緒じゃないか」

目の前の悪夢が言った。優輝の目の前で。
逃げたい、拒絶したいと思う気持ちが耐え切れない。

「じゃあね、お兄ちゃんたち」

悪夢が微笑んだのかすらも分からない。だが、口調が歓喜に満ち溢れていた。
悪夢がその得体の知れない何かを振り上げたその時だった。

ドォンッ! ドォンッ! ドォンッ!!

とてつもない爆発音がそこらじゅうに巻き起こる。
それら全てはやがて一つとなり、大地に地震を起こさせる。
亀裂が割れて悪夢たるものが飲み込まれる前に大きく後退し、その亀裂からの飲み込みを避けた。

「ぬぉぉぉぉッ!!」

どこか聞いたことのある声が頭上より響く。
槍のように長く、しかし大きくて鋭いその棒状の物は悪夢たるものを貫いた。
その巨大な槍が地面に当たったかと思えばそこにまた大きな亀裂が入る。そしてその次に爆発が連続にして起きた。
白い煙が一斉に立ち込める。そこでやっと優輝たちは体が動け、声を放つことが出来るようになった。

「この能力は……! ヴァン元帥っ!」

凛の叫び声があがる。それとほぼ同時に白い煙がだんだんと晴れていき、そこに見えたのは白髪の頭を生やした巨漢。

「間一髪じゃったのぉ。お前らもうすぐで全員死ぬところだったの!」

そんなことを笑いながらヴァンは言う。その言葉に気を抜いてその場で4人はへたりこんで座りたいところだった——が、しかし。

「へぇ……これがアバタコード"土沌龍"ヴァン・グレイゼルか」

「——!!」

悪夢は平然と元通りの形に戻っており、ヴァンの後方を捉えていた。
得体の知れない黒色をした槍状のものがすぐさま形成され、それは間髪いれずにヴァンを狙ってくる。
ヴァンはそれを自ら持つ大槍を豪快に振り回し、なんとか避けきる。
そこから連続的に悪夢は槍状の闇で突きを繰り返し行ってくる。
それに全く負けず、左右前方からの攻撃を難なく槍で受け止めきる。それどころか、ヴァンは悪夢の槍を弾き返し、

「噂通りにしぶといのぅ」

と、告げた瞬間にとんでもなく重い一撃を悪夢の頭上目掛けて振り落とした。
その瞬間、再び地面に亀裂が生まれ、爆発を生む。それは無論、優輝たちの方にも起こってくる。

「逃げろっ!」

レイスの一言で優輝らは亀裂の影響のない場所へと移動していく。
だが、そこには待ち構えていたものがいた。

「子供……!?」

刃物を持った幼い子供たちであった。
目は虚ろで意識はないように見える。そして突然、刃物を振り上げて優輝たちに襲ってきた。

「なっ……! どういうことだっ!」

剣などで優輝たちも応戦するが、相手が子供のために傷をつけようにつけられない。

「武器を破壊するんだっ! もし出来なかったら気絶させて——! こいつら……体術が普通じゃない!」

ワイズマンが愛用のマグナム、ケルベロスを轟かせるが一向に当たらない。
それは決して腕が悪いわけではない。弾を子供たちが避けるのであった。

「何なんだ……? 一体……!」




一方、白夜と月夜はサイレンの鳴り響く建物内に潜伏し、移動を続けていた。
——行くべき場所はひとつしかない。
一見変わった暗い通路を通り、所々と罠などもあったが二人の体術に乗り切れないものはなかった。
そして、行き行く先に着いたのは小さな古ぼけた扉であった。
その扉のドアノブをゆっくりと回し、扉を開けた。

「……これが政府のアーカイブか」

白夜と月夜の見たもの。
それは本や書類が山積みに山積みを重ね、巨大な本棚が所狭しと置かれ、上の方の書類を取るための脚立までもがあった。
見ると年代物もあれば、真新しい物もある。

「働らかざるして獲物はないとはよく言ったものだな」

この言葉の意味。それは獲物という言葉がヒントになった。
獲物=それは存在するもの。つまりは書類か何かに値するものである。
白夜の知りたかったことはつまりそこに存在する。そして地上でのあの地震の数々。

地震の揺れはこの地下奥深くまで響いてくる。
これはここを守ろうというものではない。潰す気であることは明確であった。
元からここを潰す気でいたということである。働くが意味するものは探す。
つまりこの多量の書類の中から自らの獲物を探せということなのだと読解した。
しかし、タイムリミットはもちろんある。ここを壊される前に、だ。

「このどこかにあるはずだ。闇に塗られたトワイライトの真実が」

そこに次なる一手の鍵があると白夜は確信していたのであった。
この中に、必ず。