ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 白夜のトワイライト ( No.166 )
- 日時: 2011/01/02 01:36
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: fREd0x4b)
「ふむぅ……」
モニターだらけの薄暗い室内の中、慌ただしく事態は変動を起こしていた。
「ヴァン元帥っ! 戦力が著しく減少しておりますっ!」
モニターに映る映像は無残に血の海と化されている武装警察の姿があった。
手足や頭などが変な方向に"強制的に曲げられた"かのような感じを醸し出している。
その死に方がまずありえなかった。一人だけをやるのならまだしも、数が数である。
それだけの人数を強制的に曲げたりするのは肉体で起こせることではなかった。
さらにはいくら一般兵士といえど、訓練を充分に受けた兵士たちである。
そう簡単にはやられるとも思えないのが現実であった。
「この死に方は……」
ヴァンはモニターを眺めながら顎に生えている髭を撫でる。
この死に方には見覚えがしかとあったのだ。
その記憶は残酷すぎてあまり曝け出したくないものではあったが。
「……お前達。もうここはいいわい。早く逃げる準備をして避難経路を渡れ」
そのヴァンの指令にその場にいる兵士たちは皆納得できるはずがなかった。
「どうしてですかっ!? 敵を目の前にして逃げろというのですか!?」
兵士の内の一人、まだ若くて20代、下手すれば10代かもしれない年端の男が声を荒げて言った。
「もうここは落ちた。これはいわゆる作られたシナリオじゃわい」
「ま、まだ落ちたと決まっていませんっ! こんなシナリオ、ぶち壊していくのが貴方でしょうっ!?」
若い兵士はますます声を荒げる。
確かにその兵士の言うとおり自分のポリシーはそういう打破を主格としていた。
それによってこの地位まで登り詰めたのだからまさに今の自分を創り出した考えといっても過言ではないだろう。
だがしかし、今回は違う。
「バカモンがッ!!」
強烈な一言とビンタが兵士の耳と頬にぶち当たる。
兵士は思い切りよく吹き飛ばされ、床に尻餅をついた。
「そんな考えで捨てていい命がどこにあるんじゃっ! 無謀というんじゃ、そういうのをな」
呆然とした様子の兵士を怒りの目から優しき目へと変える。
「いいか。ワシは任務よりお前らの命の方が大事じゃ。これは命令だ、従え」
ヴァンは引っ叩いた男に手を差し伸ばし、上へと引き上げて立たせてやった。
男は、呆然とした顔から突如歯を食いしばり、唸るようにして言う。
「俺は……! 俺は悔しいのですっ! あの死んでいる者の中には俺の友人もいましたっ! 俺は……!」
友人がモニターで無惨な死に方で死んでいるところを見れば必死にもなるし、何ともいえない感情も込み上げるだろう。
それは長い戦いの内でヴァンも分かっていた。
自分もどれだけこの"ふざけた管理下"で人が死んだことか。
「……仇など、いつでも取れるわい。今は自らの命を大事とせい」
ヴァンはそう言うと、男の髪を撫でるように、しかし豪快に髪を揺らす。
男は、自然と涙が零れ落ちた。
「皆ワシの指示に従えっ! 準備が出来次第、すぐさま脱出口から出るのじゃっ!」
兵士たちは、その指示に敬礼して「了解しましたっ!」と声を出すとすぐさま準備に取り掛かった。
「ワシも……出なければならんのう……」
ヴァンは誰にも聞こえないように呟くようにして言ったが、涙を流していた男だけその声に気付いていたのだった。
「騒がしいな……」
不意に白夜が呟いた。
双剣は既に鞘の中に収められている。
そのすぐ傍で膝をついているのは先ほど戦いを終えたばかりの月夜だった。
「どうやら……シナリオが進行したみたいだね……」
「シナリオ?」
月夜の言葉に白夜は聞き逃さなかった。
白夜の訝しげな表情に少し笑い、言った。
「……黒獅子の作ったシナリオだよ。まさにその通りになってきている。次に出てくるのは確か——」
その刹那、凄まじい爆音と共に傍にある建物が破壊された。
外側の方なので外からの攻撃であることは確かだが、この爆音は凄まじさを物語っていた。
破られた建物の外側、つまりは優輝たちが恐らく戦っているであろう荒野を見た。
その先に映るものは——子供たちだった。
「子供……?」
白夜は子供の姿を見て眉を上げる。
そして、一つこの風景を見て思いついたことがあった。
「……こいつら全員トワイライト適合者か」
その白夜の言葉に月夜はニヤリと不気味に笑って言う。
「その通りだよ」
その瞬間、子供達は虚ろな目をそのままに白夜たちに襲いかかってきた。
「ダメだ。皆息がない……」
ワイズマンの言葉に優輝たちは顔を俯ける。
「あ……待って! あの人っ!」
その時、凛が叫んで指を差した場所に呻いている兵士の姿があった。
急いで一同は駆け寄り、その者を抱きかかえるようにして優輝は声をかける。
「おいっ! おいっ! 大丈夫かっ!?」
「うぅ……ば、が……」
兵士は目が潰されているようで呻きながら何かをボソボソと話している。
「おいっ! しっかりしろっ!」
ワイズマンの言葉にも返事を示さない。まるで悪夢を見ているかのように唸るばかり。
それが少しの間続いたかと思うと、いきなり大きく体が反動した。
あまりの勢いだったので優輝は離れて剣を構える。レイスやワイズマンもその行動に武器を構える。
「あの……! 悪夢が……ッ!!」
「……悪夢、だと?」
その言葉にレイスが反応する。
そして次の瞬間、兵士はもう一度大きく反動したかと思うと目を閉じて動かなくなってしまった。
「……ダメだ、死んでる」
ワイズマンが男の脈に手を当てて首を横に振りながら言った。
「クソッ! 一体誰が……!」
「……悪夢、聞いたことがあるぞ」
レイスが呟くようにして言った。
その言葉に一同も耳を傾ける。
「かつて、戦争のトワイライトが行われた時に謎の無差別大量殺人という不可解な出来事が起きたのだ」
「無差別……? 敵味方関係なく、ていうことですか?」
優輝の言葉に「左様だ」と返事をするとルイスは後を続けた。
「その死に方はあまりに残酷で卑劣な死に方だったらしい。現にここにある死体のようにな」
そこらに倒れているもはや人間の形をしていないモノを目で差してみせる。
凛が気分が悪そうに口を押さえる。
「大丈夫か? 凛」
「う、うん……」
無理をして笑顔を作っているのが分かった。冷や汗も数多く見える。
「……少し離れよう」
場所を移動しようとしたその時だった。
「——どこにいくの? お兄ちゃんたち」
その言葉は、とても寒気のするものだった。
寒気、恐怖、戦慄、不気味なものを体中全てに教えてくれるほどにまでその言葉は——奇妙だった。
透き通った綺麗な声とも取れるのかもしれないが、違う。
これは一番全身が震えあがるもの——殺気であった。
優輝たちは返事を返すことも出来ない。その者がいるであろう後ろに振り返ることすらも。
「せっかく会えたんだからさ……遊ぼうよ?」
その言葉の次に、優輝たちは振り返る。
——が、そこに人はいなかった。
「——どうしたの?」
「「ッ!?」」
次の瞬間、そのまた後ろの方で声が聞こえたかと思うと優輝たちは吹き飛ばされていた。
吹き飛ばされる刹那、優輝が見たのは仮面を被っている——人間の姿。
だが、姿はそうでも纏っているものが全く違うように見えた。
地面に叩き落され、痛みを感じながらも立ち上がる。
そこに、いたのは
「さぁて……楽しもう?」
——人ではない"何か"だと思った