ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 白夜のトワイライト イメージソングがリニューアルしましたw ( No.167 )
- 日時: 2011/01/03 17:56
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: zWHuaqmK)
「いやああああっ!!」
叫び声が荒野に響き渡る。
そこには両手で頭を抱え込み、うずくまっている美月の姿があった。
その表情は恐怖から逃げているかのように歪んでおり、体中が震えていた。
「うぅぅぅぅ……!」
呻きながら脳裏に出てくるのは忌々しい過去の記憶。
それは一生閉ざしておきたい心の闇であった。
——君には大切なものがあるかい?
「やめ……て……!」
——そうだね。君の大切なものを守るためには、敵をいっぱい殺さないといけない。
「やめてぇぇぇぇッ!!」
叫び声をあげ、息は乱れている。苦しそうに喉元を押さえながら必死に振り払おうと目を閉じている。
「貴方は、現実から逃げているだけなのです」
そんな美月にゆっくりと確実に一歩ずつ春は近づいていく。
この状態の美月は戦闘をするどころか、状態を保っていられない精神状態であるとみたからであった。
「だまれ……!」
美月はその容姿や声のトーンなどとは裏腹に春に睨みつける。
その目には恨みなどの他に恐れというものも存在しているのだろう。
「貴方が何度逃げとうとも、私がそれを拒みます」
「黙れぇぇっ!!」
その瞬間、美月は手元に転がり落ちてあった大鎌を春に向けて投げた。
だが、そのことが容易に想像できていたかのように春は大鎌をよけた。
大釜は空を舞い、荒野の地面へと飛び退っていった。
後数歩というところで春は立ち止まる。
美月にはもう目の前にいる春が恐ろしく冷たいもののように感じた。
自分の作り出したすべてを破壊する悪魔のように。
「貴方がどれだけ幻想を創り出そうと、私がそれを破壊します」
春はゆっくりとそう言い放った。
その言葉の後に、美月はゆっくりとまるで力の抜け切った死人のように立ち上がった。
苦しそうに喉と頭を抑え、美月は春を睨む。その目はどこか悲しげなようにも見えた。
「私は……っ! もう狂歌じゃないっ! 氷歌だっ!」
美月が訴えるように言ったその時
ドォンッ! ドォンッ! ドォンッ!!
大きな破裂音が荒野に響いた。白い煙が荒野を包む。
地面が大きく揺れ始め、立っていることもままならない。
どうやら白い煙などを見る限りこれは爆発音だと容易に想像はついたが発生源が分からない。
そのひどい地震に抗うことも許されないまま、春と美月は転がり落ちていった。
「な、何っ!? この地震っ!」
政府のアーカイブ上階にあるとみて上へと猛進していた七姫だったが突如の地震により、立ち止まる。
だが、だんだんと地震は激しさを増し、立っていることすらもままならなくなってくる。
何とか手元の手すりを持って耐えているが、それでは七姫のような小柄の体格の少女がこの地震を耐え切れるとは思えなかった。
案の定、手が手すりから離れてしまう。そして、待ち構えるのは——下へと続く階段であった。
「——え」
なす術もなく、体が浮いて階段から転げ落ちそうになったその時だった。
何かが、七姫の首っ根を掴んで後ろへと引き上げたのだった。
その勢いで七姫は何とか助かったが何が起きたのか全く理解が出来ない状況であった。
地震のせいで床は揺れ動く。それに連動するかのようにして頭も揺れ動いているかのようで何が何だか分からない。
ただ分かることは尻餅をついて痛いことと、誰かに助けられたことだった。
その時、地震が一時的に治まりを見せた。すぐさま後ろを振り向いて助かった原因を探ろうとした。
だが、そこには何もいなかった。人影や、人がいた気配すらもない。
「おかしいな……?」
——では一体誰だったのだろうか? そう思いながら手元近くの手すりにもう一度掴まろうとしたその時だった。
「痛っ!」
突如として痛みが手から肩にかけて伝わる。すぐさま手すりから手を離した。
だが、この痛みはどこかで受けたことのある痛みだった。それは——静電気。
何かと思って驚いたが静電気だと知って安堵する。だが、少し気になることがあった。
「あれ……?」
その静電気は、いつの間にか手すり全体に帯びており、そして——色を持っていた。
「紫色……?」
紫色の電気は、手すりに触るものを拒むかのようにして迸っていた。
左右から襲いかかる刃物の乱撃を双剣で受け止めては返し、左手に闇を起こしてはそれによって子供たちを引き寄せる。
だがそれに子供たちは対抗し、自ら持っている刃物を引き寄せられる勢いに任せて斬りつけようとする。
白夜はそれを右手の光によって視界を閉ざし、子供たちが怯んだ瞬間に体術を叩き込んだ。
それは異常なほど速く、次々と子供たちは倒れていく。
「……こいつら、トワイライトの適合者か」
白夜が呟くように言った。
それに対して横の方で同様に子供たちの相手をしている月夜が笑って反応する。
「その通りだよ。そしてこれが初の実戦みたいだね……」
四方八方から襲い掛かってくる刃物の乱舞に瞬間的速さで体術を叩き込んでいく。
白夜に負けておらず、その速さはとてつもないものであった。
「どうしてお前まで戦っている」
白夜は虚ろな目をし、集団で襲い掛かってくる子供たちの間に小さな威力の少ない爆風を飛ばす。
それによって子供たちは四散へ吹き飛んでいく。
「契約上の付き合いだからね。それともこいつらに理性がないだけなのか……」
月夜は銃を幾度も放ち、それらを的確に的へと当てていく。出来る限り武器を砕くようにしてあてている。
「白夜光にしては優しいものだね」
月夜の言葉に双剣で相手の刃物を砕き、そして即座に気雑させていく白夜は睨みを利かせる。
「関係のない奴を殺しても意味がない」
「ふふ……意外と義賊なんだね、白夜光」
月夜は笑う。そして白夜も笑った。
——殺されるかどうかのスリルを楽しんでいるかのように。
「勘違いするな。俺は罪を懺悔する者。罪あるものには……容赦などせず、食い潰す」
畏怖すらも感じられるその笑みと言葉に月夜はますます笑ってしまう。
そしてそのほかに別のものも組み込まれているということにも月夜は容易に想像が出来たのだ。
「なるほどね……」
月夜はクスッと笑い、目の前で立ち上がってくる子供たちを見張る。
その時だった。突如として破裂音が聞こえ、地面が揺れ動きだした。
地面に所々亀裂が入り、子供たちを吸い込むかのように引きずりこんでいく。
「これは……何らかの能力か?」
膝をつき、地震にに対して対抗するかのようにしている白夜が呟いた。
その呟きを白夜と同様にしている月夜が捉え、口を開いた。
「どこかで聞いたことがあるよ。確か……アバタコード、土沌龍。武装警察、ヴァン元帥の能力だったはず」
「あのじいさんの……」
白夜は何故かここでひっかかることが出てきた。
そしてそれは一つの可能性を見出す。
——働かざるして、獲物はないだろうが
突如として思い出されるヴァンの言葉。
それらはやがて、一つの可能性の信憑性を高く上げた。
白夜はそのことにより、地震が少し緩まった時に行こうと立ち上がったときだった。
「……何の真似だ」
立ち去ろうとしていた白夜の腕を月夜が掴んでいたのだった。
「私は月夜としてではなく、天道 残月(てんどう ざんげつ)としてここに用があって来た。同行させてほしい」
白夜はあくまで無表情でそのことを聞き、無感情で返す。
「さっきまで敵として殺し合っていた俺について来る道理も、義理もない」
白夜はそう言って掴まれた手を振り払おうとしたが月夜は力を込めてそれを拒み、言った。
「君が求めるものの近くに私の求めるものもある。だから利用させてもらうだけ」
月夜の目は何の迷いもなく、決心の込めた目であった。
白夜はその目を見て鼻で笑う。
「勝手にしろ。ただし俺はお前のことを一切干渉しない。敵は敵だ」
「そっちのほうがありがたいよ。助けられるなんてガラじゃないからね」
白夜と月夜はそのまま建物の中へと入り込んでいった。
揺れ動く地面の中、螺旋が今——急速に展開を変えて回り始める。