ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 白夜のトワイライト 3度の原稿やり直しに耐え、更新 ( No.168 )
- 日時: 2011/01/31 22:59
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: nUPupIAw)
「何だよ……これ……」
秋生はあの後、兵士たちの様子を見に行くために一人で行動していた。
そこで見た光景。それは優輝たちが既にみた兵士の無惨な血の海であった。
「誰が……こんなことを……?」
秋生は血の海の中、一人呆然と呟いてその光景を眺めていた。
少しでも助けられなかったことを悔やみに悔やむ。
普段、秋生はお気楽で楽観的な男であるが、人の死を前にして楽観をするほど残忍な男ではない。
それはエルトールに入った理由にも値するからであった。
「——あ、いたいた」
「!? 誰だっ!」
突如として後方より声が聞こえた。すぐさま振り向いてみるとそこにいたのは仮面を付けた奴と黒に包まれた男。
黒装束の方はどこかで見覚えがあったが、仮面を付けた男とは初対面であった。
秋生が細い目を睨みつけるようにしてその二人に視線を浴びせた。
「おー怖い怖い……。聞きたいことがあるだけだから、聞いてくれるかな?」
仮面をつけた男か女なのか区別のつかない声の奴は肩を竦ませながら秋生に聞く。
秋生はこの時、この状況下で穏やかな心を持っていなかった。それどころかこの有様をこの二人がやったと思い込んでしまう。
「お前らが、これをやったのか……?」
「これ? これって、この血の海のことかなぁ?」
仮面を付けた男が隣の黒に包まれた男に促す。すると小さく、秋生に聞こえないほどの声で返事をする。
「はははっ! 違うよ。これは多分ね、きっと"悪夢"の仕業かな?」
この無惨な光景を目にして驚きもせず、笑いながら仮面をつけた奴は言った。
「悪夢? それは誰のことだっ!」
秋生がいきり立って詰め寄ろうとした時——ふっと、冷たいものが首に触れた。
「——っ!?」
目線の先には仮面の男の姿はない。黒で包まれた男のみ。
仮面の男は——秋生の隣にいた。白く、透き通った手が秋生の首に触れていたのだった。
「君の質問には、一回答えたよね? ——次はこちらの番だよ」
近くで聞くと、余計透き通っている声のように聞こえたがそれと同時に恐ろしく冷たい声のように感じた。
驚き、それもあるが殺気に近い何かおぞましいものが秋生の口をとめていた。
「さぁ。答えてもらうよ?」
何かが、秋生の中に入り込んでくる。
息が少し苦しくなっている気がした。手に力を入れられているのかすらも分からない。
何も、感じない。
「——月影 白夜。白夜光はどこにいる?」
「ッ——!」
奴は、透き通った声で秋生の耳元で語りかけるようにして言った。
震え上がる畏怖。嗚咽を何度もかましたい気分にもなってくる。
だが、それをすることさえも奴は許してくれないだろう。ただ、質問を答えることだけに秋生を利用している気がした。
「——さぁ、答えて」
「——ッ!?」
頭が何かに侵食されていく。それは、暗い暗い何か。
どんどん侵食され、やがて秋生は——意識が途切れた。
仮面の男が去った後、秋生はひどい嗚咽を何度も繰り返した。
そうして吐いたものはほとんど全てが血反吐であった。
「お前も埋め込まれたようだな……」
黒で包まれた男が言っているようだ。頭がボヤけて何が何だか分からない。
——何が、誰が俺に話しかけている?
ひどい頭痛が脳内を駆け巡り、息苦しくなってくる。
そして——何かが弾けた。
「ハハハハハハハハッ!!」
途端に秋生は笑いだした。
その姿を見て黒に包まれた男は黒で覆われた顔をあらわにする。
その正体は秋生が断罪と戦った時に見た"斬将"黒槍 斬斗であった。
斬斗は闇に包まれた剣を二つ抜き放ち、構える。
目の前には笑いながら足をフラつかせ、途端に黙り込んで刀を二つ抜き放つ秋生。
「あれが……アバタコード"狂気"ラプソディ殿の力か……」
斬将は一度戦った男の豹変した姿に真剣に立ち向かい、打ち倒せんとして駆け抜けていった。
(殺サナイト……殺サナイトイケナイ!)
頭の中で鳴り響き、命令を下す狂気に支配された秋生は狂気に包まれ、侵食されていく。
——抵抗も、出来ないがままに。
これは、どういうことだ。
金縛りというものを聞いたことがあるが、それとこれは同じものなのだろうか?
目の前のものを、拒絶したい。だが、その場で動いてはならない気がする。
「遊ぼうよ、お兄ちゃんたち……」
ゆっくりと近づいてくる、"闇"。
それは人ではなく、闇そのもののように感じた。
この拒絶の感じ、優輝は断罪との戦いのことを思い出す。
優輝は生死を彷徨った。そして、再びここに戻ってきた。
自らの使命を果たすために。罰を受け、洗い流すために。
だが、これは違う。
目の前にいるものは、生きていること全てを否定しているかのようで
夢。そう、夢のようだ。
それは悪夢のように目の前に存在していた。
直感で分かる。
この血の海の光景。それはこの目の前の悪夢がやったのだと。
「あそ……ぼう?」
ゆっくりと悪夢は近づいてくる。
——逃げないといけない! そうは分かっていても足が全く動かないのである。
それは優輝のみならず、他の3人も同様のようで誰も動けはしなかった。
(——このままだと、確実に殺される……!)
嫌な汗が多量に頬を伝っていくのが分かった。
それは精神なりの危険信号なのだろう。だが、圧倒的に目の前の存在は——それら全てを否定していた。
一歩、一歩と近づいてくる目の前の悪夢に何も出来ずにただ立ち止まっているばかり。
なす術がないというのはまさにこういうことのことをいうのだろうか?
「——つまらない。それじゃあそこらの"ゴミ共"と一緒じゃないか」
目の前の悪夢が言った。優輝の目の前で。
逃げたい、拒絶したいと思う気持ちが耐え切れない。
「じゃあね、お兄ちゃんたち」
悪夢が微笑んだのかすらも分からない。だが、口調が歓喜に満ち溢れていた。
悪夢がその得体の知れない何かを振り上げたその時だった。
ドォンッ! ドォンッ! ドォンッ!!
とてつもない爆発音がそこらじゅうに巻き起こる。
それら全てはやがて一つとなり、大地に地震を起こさせる。
亀裂が割れて悪夢たるものが飲み込まれる前に大きく後退し、その亀裂からの飲み込みを避けた。
「ぬぉぉぉぉッ!!」
どこか聞いたことのある声が頭上より響く。
槍のように長く、しかし大きくて鋭いその棒状の物は悪夢たるものを貫いた。
その巨大な槍が地面に当たったかと思えばそこにまた大きな亀裂が入る。そしてその次に爆発が連続にして起きた。
白い煙が一斉に立ち込める。そこでやっと優輝たちは体が動け、声を放つことが出来るようになった。
「この能力は……! ヴァン元帥っ!」
凛の叫び声があがる。それとほぼ同時に白い煙がだんだんと晴れていき、そこに見えたのは白髪の頭を生やした巨漢。
「間一髪じゃったのぉ。お前らもうすぐで全員死ぬところだったの!」
そんなことを笑いながらヴァンは言う。その言葉に気を抜いてその場で4人はへたりこんで座りたいところだった——が、しかし。
「へぇ……これがアバタコード"土沌龍"ヴァン・グレイゼルか」
「——!!」
悪夢は平然と元通りの形に戻っており、ヴァンの後方を捉えていた。
得体の知れない黒色をした槍状のものがすぐさま形成され、それは間髪いれずにヴァンを狙ってくる。
ヴァンはそれを自ら持つ大槍を豪快に振り回し、なんとか避けきる。
そこから連続的に悪夢は槍状の闇で突きを繰り返し行ってくる。
それに全く負けず、左右前方からの攻撃を難なく槍で受け止めきる。それどころか、ヴァンは悪夢の槍を弾き返し、
「噂通りにしぶといのぅ」
と、告げた瞬間にとんでもなく重い一撃を悪夢の頭上目掛けて振り落とした。
その瞬間、再び地面に亀裂が生まれ、爆発を生む。それは無論、優輝たちの方にも起こってくる。
「逃げろっ!」
レイスの一言で優輝らは亀裂の影響のない場所へと移動していく。
だが、そこには待ち構えていたものがいた。
「子供……!?」
刃物を持った幼い子供たちであった。
目は虚ろで意識はないように見える。そして突然、刃物を振り上げて優輝たちに襲ってきた。
「なっ……! どういうことだっ!」
剣などで優輝たちも応戦するが、相手が子供のために傷をつけようにつけられない。
「武器を破壊するんだっ! もし出来なかったら気絶させて——! こいつら……体術が普通じゃない!」
ワイズマンが愛用のマグナム、ケルベロスを轟かせるが一向に当たらない。
それは決して腕が悪いわけではない。弾を子供たちが避けるのであった。
「何なんだ……? 一体……!」
一方、白夜と月夜はサイレンの鳴り響く建物内に潜伏し、移動を続けていた。
——行くべき場所はひとつしかない。
一見変わった暗い通路を通り、所々と罠などもあったが二人の体術に乗り切れないものはなかった。
そして、行き行く先に着いたのは小さな古ぼけた扉であった。
その扉のドアノブをゆっくりと回し、扉を開けた。
「……これが政府のアーカイブか」
白夜と月夜の見たもの。
それは本や書類が山積みに山積みを重ね、巨大な本棚が所狭しと置かれ、上の方の書類を取るための脚立までもがあった。
見ると年代物もあれば、真新しい物もある。
「働らかざるして獲物はないとはよく言ったものだな」
この言葉の意味。それは獲物という言葉がヒントになった。
獲物=それは存在するもの。つまりは書類か何かに値するものである。
白夜の知りたかったことはつまりそこに存在する。そして地上でのあの地震の数々。
地震の揺れはこの地下奥深くまで響いてくる。
これはここを守ろうというものではない。潰す気であることは明確であった。
元からここを潰す気でいたということである。働くが意味するものは探す。
つまりこの多量の書類の中から自らの獲物を探せということなのだと読解した。
しかし、タイムリミットはもちろんある。ここを壊される前に、だ。
「このどこかにあるはずだ。闇に塗られたトワイライトの真実が」
そこに次なる一手の鍵があると白夜は確信していたのであった。
この中に、必ず。