ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 白夜のトワイライト いない間に参照が… ( No.170 )
日時: 2011/03/17 13:06
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: Q2XZsHfr)

槍と槍が重なる。
一方は強靭な刃を持つ勇敢な槍。
一方は闇に塗られたおぞましき槍。
それらが交差するたびに、周りの地面は亀裂と共に割れ動く。
それは双方の力の凄まじさを物語っているに過ぎなかった。


第9話:光と闇の咆哮


ヴァンは影を射止めようと巨大で強靭な槍を振り回し、闇の中へと食い込ませていく。
だが、闇はそれを避け、まるで遊んでいるかのようにして闇に塗れた槍で連続的に突きを繰り返す。
そのたびに足を踏み、亀裂内爆発をヴァンは起こす。闇こと悪夢はそれにぶち当たるのだが——傷は皆無であった。
強靭な矛は、斬ってもまるで効果のないように見える闇に目掛けて幾度となく襲い掛かるが、闇たるアバタコード"悪夢"は微動だにしない。
それどころか——楽しんでいるようにも見えた。

「むぅ……厄介じゃのぉ」

ヴァンは顎にあるヒゲを撫でながら槍を片手で振り回し、地面へと突き刺す。
まるで何事もなかったかのようにして悪夢は首元らしき部分を左右に動かす。
槍を幾度となくヴァンは当ててはきたが、どれも傷という傷は与えられなかった。かすり傷でさえも、だ。
いや、これは判断できないともいえるだろう。何せ相手はまるで闇の如く黒のコンテラストしか当てられていない。
つまり、人型はしていても闇そのものなのである。

「へぇ……さすがは元帥だね? ヴァン・グレイセル」

悪夢の声は脳の中に直接送り込まれたような感覚がして倦怠感を感じざるを得ない。
これもまた、能力の一つなのだ。といっても悪夢というこのユーザーが本当に"人間なのか"どうかは不明である。
もし、人間なのだとすると必ず肉体部分があるはずだった。しかし、今のところ全く手ごたえというものを感じない。

「相変わらず、気味が悪い奴じゃのぉ。どこかでこの感じ、覚えがあると思ったわい」
「ふふふ……気付いてくれた? ヴァン・グレイセル」

闇の塊は次々に増幅を重ね、次第に——巨大なランス状のものを生み出す。先ほどの槍の2倍〜3倍はあるだろう。
実体そのものが闇の悪夢だが、脳内で知らされるのだ。——笑っている、と。楽しんでいる、と。

「面白いのぉ……。久々に、老兵が本気を出さねばならんのかのぉ」

ミシミシと、ヴァンの周りの地面に亀裂が入り、それぞれが——次第に爆発していく。
凄まじい爆音の中、悪夢の様子はただただヴァンの姿を見ている風にしか見えない。

「始めようかのぉ……! "ナイトメア"よ」

大きく悪夢は揺れ動き、その巨大な闇のランスを——ヴァンに振り落とした。
ヴァンは槍を引き抜き、構えて悪夢と対峙する。
——地面や周りの風景が崩れ去る中で。




「赤頭巾っ!」

崩れ去りそうな階段の踊り場付近にて、力が抜けたようにして座り込んでいる一人の少女に目掛けて、不知火は呼びかける。
不知火の声に七姫は、思わず安堵のため息を吐く。

「何してたんですかっ!」
「何してたって……まあいいや。そんなことより、さっさとここから出るぞっ!」

揺れ動く地面、亀裂の入っていく床や壁などを見ながら不知火は七姫に言う。

「ま、まだアーカイブを見つけてないですっ!」
「んなことはもうどうでもいいんだよっ! とりあえずここから出るぞっ!」

不知火は七姫の言葉を押しのけて、七姫をお姫様抱っこする。
持ち上げた途端、七姫の能力である七国靴セブンリーグブーツが効果を消す。
七姫はもがくようにして不知火の頭を小さな手で何度も叩く。

「あ、ちょっとっ! 不知火っ!? 離してくださいっ!」
「いい感触なんだが、そんなことに浸っている場合じゃないな」

不知火はその言葉と共に瞬時に階段を駆け下りながら思う。何とかここから脱出しなくてはならない。
——ここは既に、悪魔の居つく魔窟なのだから。




優輝はその頃、子供を相手に剣を振るっていた。
傷は与えずに、武器などを落として気絶させるというのは困難を窮めた。
それは、この子供達の戦闘レベルが——通常ではないためだった。
レベルが高すぎる。たまに隙をつかれて危ない時さえある。
これまでいくつもの任務をこなしてきたメンバー一同にとっては屈辱に一言だった。

「数も多い。こいつらが大人だったらと思うと……恐ろしいな」

ワイズマンはケロベロスを構えながら、この状況を見て舌打ちをする。
圧倒的に不利な状況でもあった。能力者でもない、ただの子供がこれだけの数でといえど、これほどまでにてこずることはなかっただろう。

「ただの子供達じゃないのは分かったが、何なんだ? 一体……」

冷静に剣を構えながら、向かってくる子供達を受け止めては跳ね返し、武器を破壊しようとするが避けられる。
それの繰り返しがそもそも多く、時間の無駄ともいえた。

「もしかすると、なんだが……」

不意にレイスが言葉を漏らした。
その間にも子供達が襲ってくる。応戦しながらも、ルイスはそのまま続ける。

「足止め、していると考えたならば……この先に、何かがあるというのも捨てきれない判断じゃないか?」

言われてみればそうであった。
この子供達は、大体が攻撃というより、避けることに専念しているような感じだったのだ。
つまり、目的は優輝たちを倒すことではなく、足止めすることにあるとしたら——それは一体、何を指し示すのか。

「個人的に気になるのだが……この奥は確か、政府の隠されたアーカイブに繋がっているはずだ。以前、話を聞いたことがある」
「何か裏がありそう、ということですか?」
「可能性は……あるということだ」

優輝たちは子供達の後ろにある暗い入り口を見る。
その奥には、何があるというのか。真実はその向こうにあるはずだった。

「行こう。行くしかない」

優輝は、そう判断して——子供達の元へと駆け抜けた。
その後に一同もついていく。不気味な笑顔を灯す、一人立ち尽くす凛を置いて。




「うわぁぁぁぁっ!!」

幾度となく響く、剣と剣のぶつかり合う音。
秋生はまるで狂ったかのように叫び、剣を振るっていた。いつしか目の色が赤色に染まっていることも、斬斗は確認する。

「ここまで変わらせるものなのか……! 人の狂気というものはっ!」

斬斗は、暗黒の能力によって禍々しいオーラを身に纏う。それらはやがて斬斗を見えない鎧と化する。

「はははっ!!」

笑いながら攻めてくる秋生に、闇を纏った剣で受け止める。

「ふんっ!!」

横へ薙ぎ払い、秋生の剣を弾き返した後、続いて連続的に斬撃を送り出す。
が、秋生は身をよじらせてはその斬撃を受け止め、身を回転させてその螺旋の力によって逆に剣を弾き返す。

「うわぁぁぁぁっ!!」

そして陽炎を生み出し——秋生の体は"紫色"に染まる。
能力の色さえも、狂気というものは変えてしまうのだった。

「なんという……っ!」

生み出された紫色の陽炎は、とてつもなく強大で危険なものだった。
陽炎を球形に変え、斬斗に向かって投げつける。そして——直前で弾けるかのようにして無数の陽炎を作り出して、斬斗へと襲い掛かった。

「くっ……!」

あまりに生み出された陽炎の数が多く、とても避けきれるものではなかった。
数十個は何とか剣と暗黒でしのいだが……その他のものは体中のあちこちへと爆撃していく。
その様子を見て、秋生は嬉しそうに雄たけびをあげる。その姿はまさしく、狂気といえるものであった。

「う、ぐ……!」

無数の傷を負い、膝を地面につけている斬斗を尻目に、さらに追い討ちをかけようと秋生は走り出す。

「闇に……堕ちろっ!」
「ッ!?」

斬斗の掛け声と共に、秋生の辺りは暗闇で包まれる。
それらは秋生の目をくらまし、まるでずっと奥があるかのような錯覚を植えつける。

「暗黒の真髄……見せてやろうっ!」

斬斗は言い放った瞬間、闇に包まれて斬斗の姿が確認出来ない秋生に目掛けて連続的に攻撃をしかける。

「がっ! がぁぁぁぁっ!!」

何度も斬斗の剣が秋生の体を切り裂き、血が流れ落ちる。
闇の中にいる秋生は何も出来ずに、どこから来るか分からない斬撃を喰らい続ける。

「とどめだっ!!」

満身創痍と化した秋生に、とどめの一撃を喰らわせようと大きく振りかぶった瞬間——

「そこまでです」

女性の声が聞こえ、闇が一気に光へと満ち溢れていく。
その光は、星のように煌きを放ち、とどめの一撃を与えようとしていた斬斗を取り押さえる。

「くっ! 何だこれはっ!!」

その星屑に取り押さえられた斬斗は、そのまま記憶をフラッシュバックさせられ、目の前が過去の映像へと映る。

「幻想系の能力者かっ!」

斬斗はフラッシュバックしていく記憶を見ながら、そう叫ぶ。頭の中に一気に流れ込んでくる過去の情報に、身がよろけて、膝をつく。

「この能力は……っ! 大和撫子かっ!」

斬斗が叫んだ後、颯爽に現れたのは何故か傷だらけの大和撫子こと風月 春だった。
その大和撫子の後方には、ぐったりと倒れている少女の姿があった。斬斗はその少女にも見覚えがあったのだった。

「氷歌……っ!?」

同じ仲間が敵にやられ、あそこに倒れている。
残酷な任務などは心無く果たせる残忍な斬斗だったが、仲間を無為に倒されたまま敵を生かしておくことなどは決してしない。

「貴様……! この斬将が相手をしてやろうっ!」

剣を再び構え、大和撫子に向けて襲い掛かろうとしたその時——

「うわぁぁぁぁっ!!」
「ッ!?」

ものすごいスピードで秋生が斬斗に襲い掛かってきた。
凄まじい速度で振り落とされる紫色の陽炎がついた剣を振るわれるのを斬斗は何とか剣で受け止めることに成功する。
衝撃が手から体全体へと回り、後方へと大きく仰け反ることになる。
秋生の勢いはまだ止まらず、振り落とした剣をもう一度袈裟斬りで斬斗に与えようとした時だった。

「うがっ! うがぁぁぁぁっ!」

秋生はいきなり頭を抱えてもがき出す。
傷だらけの秋生はもがくたびに、血が溢れ出ては流れ落ちていく。
よく見ると、周りに星屑が多く散らばっていることに気付く。

「大和撫子……!? 何故俺を助けた?」
「助けた? 勘違いしないでください。今の秋生は、秋生ではありません。貴方ではなく、秋生を助けたのです」

次第に秋生から闇に似た紫色の煙が吹き出、空へと消えていく。
真っ赤になっていた目は元の黒色へと戻り、その場に秋生は倒れこんだ。

「助けるにしても、俺を殺してからでも遅くはなかった」
「無為な殺しはしません。それは私の……秋生の、モットーです」




何分経っただろうか。以前として見つからない目的の書物を探る白夜と残月。
それぞれの目的を抱えながらも、今は共闘として書物を探すことに二人して専念しているということだった。
残月は、そもそも黒獅子の軍勢に入っていた理由は、ある人物を探すためのことだった。
その情報が無ければ……味方をする必要性も、感情も湧かない。
一つ一つ見ていくのでは時間が多大にかかりすぎる。ただでさえこの建物は壊れていくというのに、タイムリミットが近すぎるのだ。
今もなお、激しい轟音と揺れはたびたび生じていた。

「これだと、いくらかけても時間が足りないな……」

残月は呟き、舌打ちをする。
白夜の方は——探すわけでもなく、ただその場でじっと目を閉じているだけであった。
ただでさえ時間がないというのに、白夜の行動はあまりに異常だった。

「おい、白夜光。さっきから何をしているんだい?」

残月が聞いたとしても、白夜は答える素振りも見せない。
呆れて物が言えない、という風に残月は鼻で笑った後にまた探しに戻る。
白夜はこの時——自らの能力を発動するための精神力を練り上げていた。

(違う……これでもない、違う)

手探りで探すのではなく、白夜は能力を使った方法で探していた。
ここにある書物が全て"嘘"だと考えて、真実は一つとするならば——それだけのものが感知できるはずだった。
電脳世界であるエデンでは、そうしたデータの総量が多いものと少ないものがある。
今しばらく探してみたところ、どれも総量が少ないものばかり。つまり——総量の大きいものが本物ということだった。
しかし、見つけるのはたやすいことではない。何せ精神力が必要なわけで、外見では区別などはつかない。
外見ではなく、中身の総量を覗き見することは多大な精神力が必要なのであった。