ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 白夜のトワイライト いない間に参照が… ( No.170 )
日時: 2011/03/17 13:06
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: Q2XZsHfr)

槍と槍が重なる。
一方は強靭な刃を持つ勇敢な槍。
一方は闇に塗られたおぞましき槍。
それらが交差するたびに、周りの地面は亀裂と共に割れ動く。
それは双方の力の凄まじさを物語っているに過ぎなかった。


第9話:光と闇の咆哮


ヴァンは影を射止めようと巨大で強靭な槍を振り回し、闇の中へと食い込ませていく。
だが、闇はそれを避け、まるで遊んでいるかのようにして闇に塗れた槍で連続的に突きを繰り返す。
そのたびに足を踏み、亀裂内爆発をヴァンは起こす。闇こと悪夢はそれにぶち当たるのだが——傷は皆無であった。
強靭な矛は、斬ってもまるで効果のないように見える闇に目掛けて幾度となく襲い掛かるが、闇たるアバタコード"悪夢"は微動だにしない。
それどころか——楽しんでいるようにも見えた。

「むぅ……厄介じゃのぉ」

ヴァンは顎にあるヒゲを撫でながら槍を片手で振り回し、地面へと突き刺す。
まるで何事もなかったかのようにして悪夢は首元らしき部分を左右に動かす。
槍を幾度となくヴァンは当ててはきたが、どれも傷という傷は与えられなかった。かすり傷でさえも、だ。
いや、これは判断できないともいえるだろう。何せ相手はまるで闇の如く黒のコンテラストしか当てられていない。
つまり、人型はしていても闇そのものなのである。

「へぇ……さすがは元帥だね? ヴァン・グレイセル」

悪夢の声は脳の中に直接送り込まれたような感覚がして倦怠感を感じざるを得ない。
これもまた、能力の一つなのだ。といっても悪夢というこのユーザーが本当に"人間なのか"どうかは不明である。
もし、人間なのだとすると必ず肉体部分があるはずだった。しかし、今のところ全く手ごたえというものを感じない。

「相変わらず、気味が悪い奴じゃのぉ。どこかでこの感じ、覚えがあると思ったわい」
「ふふふ……気付いてくれた? ヴァン・グレイセル」

闇の塊は次々に増幅を重ね、次第に——巨大なランス状のものを生み出す。先ほどの槍の2倍〜3倍はあるだろう。
実体そのものが闇の悪夢だが、脳内で知らされるのだ。——笑っている、と。楽しんでいる、と。

「面白いのぉ……。久々に、老兵が本気を出さねばならんのかのぉ」

ミシミシと、ヴァンの周りの地面に亀裂が入り、それぞれが——次第に爆発していく。
凄まじい爆音の中、悪夢の様子はただただヴァンの姿を見ている風にしか見えない。

「始めようかのぉ……! "ナイトメア"よ」

大きく悪夢は揺れ動き、その巨大な闇のランスを——ヴァンに振り落とした。
ヴァンは槍を引き抜き、構えて悪夢と対峙する。
——地面や周りの風景が崩れ去る中で。




「赤頭巾っ!」

崩れ去りそうな階段の踊り場付近にて、力が抜けたようにして座り込んでいる一人の少女に目掛けて、不知火は呼びかける。
不知火の声に七姫は、思わず安堵のため息を吐く。

「何してたんですかっ!」
「何してたって……まあいいや。そんなことより、さっさとここから出るぞっ!」

揺れ動く地面、亀裂の入っていく床や壁などを見ながら不知火は七姫に言う。

「ま、まだアーカイブを見つけてないですっ!」
「んなことはもうどうでもいいんだよっ! とりあえずここから出るぞっ!」

不知火は七姫の言葉を押しのけて、七姫をお姫様抱っこする。
持ち上げた途端、七姫の能力である七国靴セブンリーグブーツが効果を消す。
七姫はもがくようにして不知火の頭を小さな手で何度も叩く。

「あ、ちょっとっ! 不知火っ!? 離してくださいっ!」
「いい感触なんだが、そんなことに浸っている場合じゃないな」

不知火はその言葉と共に瞬時に階段を駆け下りながら思う。何とかここから脱出しなくてはならない。
——ここは既に、悪魔の居つく魔窟なのだから。




優輝はその頃、子供を相手に剣を振るっていた。
傷は与えずに、武器などを落として気絶させるというのは困難を窮めた。
それは、この子供達の戦闘レベルが——通常ではないためだった。
レベルが高すぎる。たまに隙をつかれて危ない時さえある。
これまでいくつもの任務をこなしてきたメンバー一同にとっては屈辱に一言だった。

「数も多い。こいつらが大人だったらと思うと……恐ろしいな」

ワイズマンはケロベロスを構えながら、この状況を見て舌打ちをする。
圧倒的に不利な状況でもあった。能力者でもない、ただの子供がこれだけの数でといえど、これほどまでにてこずることはなかっただろう。

「ただの子供達じゃないのは分かったが、何なんだ? 一体……」

冷静に剣を構えながら、向かってくる子供達を受け止めては跳ね返し、武器を破壊しようとするが避けられる。
それの繰り返しがそもそも多く、時間の無駄ともいえた。

「もしかすると、なんだが……」

不意にレイスが言葉を漏らした。
その間にも子供達が襲ってくる。応戦しながらも、ルイスはそのまま続ける。

「足止め、していると考えたならば……この先に、何かがあるというのも捨てきれない判断じゃないか?」

言われてみればそうであった。
この子供達は、大体が攻撃というより、避けることに専念しているような感じだったのだ。
つまり、目的は優輝たちを倒すことではなく、足止めすることにあるとしたら——それは一体、何を指し示すのか。

「個人的に気になるのだが……この奥は確か、政府の隠されたアーカイブに繋がっているはずだ。以前、話を聞いたことがある」
「何か裏がありそう、ということですか?」
「可能性は……あるということだ」

優輝たちは子供達の後ろにある暗い入り口を見る。
その奥には、何があるというのか。真実はその向こうにあるはずだった。

「行こう。行くしかない」

優輝は、そう判断して——子供達の元へと駆け抜けた。
その後に一同もついていく。不気味な笑顔を灯す、一人立ち尽くす凛を置いて。




「うわぁぁぁぁっ!!」

幾度となく響く、剣と剣のぶつかり合う音。
秋生はまるで狂ったかのように叫び、剣を振るっていた。いつしか目の色が赤色に染まっていることも、斬斗は確認する。

「ここまで変わらせるものなのか……! 人の狂気というものはっ!」

斬斗は、暗黒の能力によって禍々しいオーラを身に纏う。それらはやがて斬斗を見えない鎧と化する。

「はははっ!!」

笑いながら攻めてくる秋生に、闇を纏った剣で受け止める。

「ふんっ!!」

横へ薙ぎ払い、秋生の剣を弾き返した後、続いて連続的に斬撃を送り出す。
が、秋生は身をよじらせてはその斬撃を受け止め、身を回転させてその螺旋の力によって逆に剣を弾き返す。

「うわぁぁぁぁっ!!」

そして陽炎を生み出し——秋生の体は"紫色"に染まる。
能力の色さえも、狂気というものは変えてしまうのだった。

「なんという……っ!」

生み出された紫色の陽炎は、とてつもなく強大で危険なものだった。
陽炎を球形に変え、斬斗に向かって投げつける。そして——直前で弾けるかのようにして無数の陽炎を作り出して、斬斗へと襲い掛かった。

「くっ……!」

あまりに生み出された陽炎の数が多く、とても避けきれるものではなかった。
数十個は何とか剣と暗黒でしのいだが……その他のものは体中のあちこちへと爆撃していく。
その様子を見て、秋生は嬉しそうに雄たけびをあげる。その姿はまさしく、狂気といえるものであった。

「う、ぐ……!」

無数の傷を負い、膝を地面につけている斬斗を尻目に、さらに追い討ちをかけようと秋生は走り出す。

「闇に……堕ちろっ!」
「ッ!?」

斬斗の掛け声と共に、秋生の辺りは暗闇で包まれる。
それらは秋生の目をくらまし、まるでずっと奥があるかのような錯覚を植えつける。

「暗黒の真髄……見せてやろうっ!」

斬斗は言い放った瞬間、闇に包まれて斬斗の姿が確認出来ない秋生に目掛けて連続的に攻撃をしかける。

「がっ! がぁぁぁぁっ!!」

何度も斬斗の剣が秋生の体を切り裂き、血が流れ落ちる。
闇の中にいる秋生は何も出来ずに、どこから来るか分からない斬撃を喰らい続ける。

「とどめだっ!!」

満身創痍と化した秋生に、とどめの一撃を喰らわせようと大きく振りかぶった瞬間——

「そこまでです」

女性の声が聞こえ、闇が一気に光へと満ち溢れていく。
その光は、星のように煌きを放ち、とどめの一撃を与えようとしていた斬斗を取り押さえる。

「くっ! 何だこれはっ!!」

その星屑に取り押さえられた斬斗は、そのまま記憶をフラッシュバックさせられ、目の前が過去の映像へと映る。

「幻想系の能力者かっ!」

斬斗はフラッシュバックしていく記憶を見ながら、そう叫ぶ。頭の中に一気に流れ込んでくる過去の情報に、身がよろけて、膝をつく。

「この能力は……っ! 大和撫子かっ!」

斬斗が叫んだ後、颯爽に現れたのは何故か傷だらけの大和撫子こと風月 春だった。
その大和撫子の後方には、ぐったりと倒れている少女の姿があった。斬斗はその少女にも見覚えがあったのだった。

「氷歌……っ!?」

同じ仲間が敵にやられ、あそこに倒れている。
残酷な任務などは心無く果たせる残忍な斬斗だったが、仲間を無為に倒されたまま敵を生かしておくことなどは決してしない。

「貴様……! この斬将が相手をしてやろうっ!」

剣を再び構え、大和撫子に向けて襲い掛かろうとしたその時——

「うわぁぁぁぁっ!!」
「ッ!?」

ものすごいスピードで秋生が斬斗に襲い掛かってきた。
凄まじい速度で振り落とされる紫色の陽炎がついた剣を振るわれるのを斬斗は何とか剣で受け止めることに成功する。
衝撃が手から体全体へと回り、後方へと大きく仰け反ることになる。
秋生の勢いはまだ止まらず、振り落とした剣をもう一度袈裟斬りで斬斗に与えようとした時だった。

「うがっ! うがぁぁぁぁっ!」

秋生はいきなり頭を抱えてもがき出す。
傷だらけの秋生はもがくたびに、血が溢れ出ては流れ落ちていく。
よく見ると、周りに星屑が多く散らばっていることに気付く。

「大和撫子……!? 何故俺を助けた?」
「助けた? 勘違いしないでください。今の秋生は、秋生ではありません。貴方ではなく、秋生を助けたのです」

次第に秋生から闇に似た紫色の煙が吹き出、空へと消えていく。
真っ赤になっていた目は元の黒色へと戻り、その場に秋生は倒れこんだ。

「助けるにしても、俺を殺してからでも遅くはなかった」
「無為な殺しはしません。それは私の……秋生の、モットーです」




何分経っただろうか。以前として見つからない目的の書物を探る白夜と残月。
それぞれの目的を抱えながらも、今は共闘として書物を探すことに二人して専念しているということだった。
残月は、そもそも黒獅子の軍勢に入っていた理由は、ある人物を探すためのことだった。
その情報が無ければ……味方をする必要性も、感情も湧かない。
一つ一つ見ていくのでは時間が多大にかかりすぎる。ただでさえこの建物は壊れていくというのに、タイムリミットが近すぎるのだ。
今もなお、激しい轟音と揺れはたびたび生じていた。

「これだと、いくらかけても時間が足りないな……」

残月は呟き、舌打ちをする。
白夜の方は——探すわけでもなく、ただその場でじっと目を閉じているだけであった。
ただでさえ時間がないというのに、白夜の行動はあまりに異常だった。

「おい、白夜光。さっきから何をしているんだい?」

残月が聞いたとしても、白夜は答える素振りも見せない。
呆れて物が言えない、という風に残月は鼻で笑った後にまた探しに戻る。
白夜はこの時——自らの能力を発動するための精神力を練り上げていた。

(違う……これでもない、違う)

手探りで探すのではなく、白夜は能力を使った方法で探していた。
ここにある書物が全て"嘘"だと考えて、真実は一つとするならば——それだけのものが感知できるはずだった。
電脳世界であるエデンでは、そうしたデータの総量が多いものと少ないものがある。
今しばらく探してみたところ、どれも総量が少ないものばかり。つまり——総量の大きいものが本物ということだった。
しかし、見つけるのはたやすいことではない。何せ精神力が必要なわけで、外見では区別などはつかない。
外見ではなく、中身の総量を覗き見することは多大な精神力が必要なのであった。

Re: 白夜のトワイライト 更新再開っ ( No.171 )
日時: 2011/08/11 03:28
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: hF19FRKd)

白夜は残された時間の中、必死に探していた。
それは自分がこれからの道をどう歩んでいくかの道標になるものでもある。見つけなくてはという思いがだんだん焦りへと変貌していく。

「チッ……!」

舌打ちをしてからすぐに傍にあった書物を投げ捨てる。まだまだ膨大な数の書物が室内を覆う中、果たして本当に間に合うのだろうか。
普通に考えれば、間に合うはずはない。今も白夜とその近くにいる残月は地上からの揺れが地下にも浸透し、被害を被っている。
これがずっと続けば、いずれかは天井、地上に地割れが出来たものが地下にまで届き、白夜たちの頭上に瓦礫の山が落ちてくるということになる。それがタイムリミットの証でもあったのだ。

「どこにある……!」

血眼になって白夜が探している最中、残月はとある気配に反応した。それも、ただならない殺気に満ちたものである。

「白夜光……何か、とてつもない殺気が——」

残月がそう言った瞬間、体が吹き飛んだ。
元ではあるが、ランク的にSSSを取っている残月の身体能力で避けれない物理攻撃はごく稀なことであった。それが例え、不意打ちだったとしても。
だが、今回は違う。殺気をしっかりと感じ取っており、気配も感じていたというのに——全く避けれなかったのである。

「ぐぁっ……!」

残月の体はそのまま真っ直ぐに飛んでいき、その間にあった書物の山を散乱させながら柱へと激突した。
それは一瞬の出来事で、何が起こったのか判断するのにも時間がかかるほどだった。

「何者だ……!」

思わぬ敵襲に白夜はその敵の方へと振り向いたが、

「——遅いよ」
「ッ!?」

背中を何か風圧のようなもので押され、地面へと叩き付けられた。地面へと直撃する前に、引力の力で反動を抑え、衝撃は免れる。
そのまま身を翻し、敵の方へと睨み付けた。

「おぉ、怖い怖い……そんな睨み付けないでくれないかな?」

薄暗い中、見えたのは——仮面を被っている男の姿。
礼儀正しいのか、タキシードに包まれたその男は、どうやら笑っているようなのだが……殺気が先ほどから白夜へ向けて半端ではない。
こうして白夜は睨み続けているが、正直のところ動けないのが本音である。動いたら——やられる。そんな感覚に不思議と襲われている感じがして不気味であった。

「君のやろうとしていることは、ちょっと厄介なんだよね。とはいっても、黒獅子も黒獅子でさっさと処分しとかないから悪いんだけどね」
「黒獅子……? 黒獅子の仲間か?」
「仲間じゃないね。一応、まあ……言えば同盟みたいなものさ。向こうが僕を雇ったんだよ」

そんな調子で仮面の男はその場から動こうとしない。そうしている間にも、地上からの揺れは激しくなってきている。

「さぁて、どうする? 探したいなら探せばいいけど、僕は阻止しないといけないからねぇ」
「お前……名前は?」
「僕かい? 僕は——」

その時、ゴゴゴッと大きく地上から音が鳴ったと思いきや、凄まじい轟音を見せて、少しのヒビが入ってきた。

「ふふ、タイムリミットも近いし、探していいよ。でも、タイムリミットは巨大な地盤一つ。巨大な、本を埋めるほどの地盤が落ちてきたら、タイムリミットで終了。どう? 面白くない?」

そう仮面の男が告げた瞬間、白夜はすぐさま捜索を再開した。
その様子を見て、クスクスと笑う仮面の男は、ゆっくりと傍にある本を一つ取った。

「……くだらないね」




一方、ヴァンは未だにナイトメアと戦い続けていた。
幾人もの兵士を血祭りにあげたナイトメアは、ただその戦いを楽しんでいるようにさえ見えた。
応戦しているヴァンは、地震や地割れが続く中、優位かと思うが——それは違う。
ナイトメアの強さは尋常ではなく、さらにはダメージの与えようがない。全て、暗闇の中へと吸い込まれていくのだ。

「そろそろ飽きてきちゃったかな……」

ナイトメアそういうと、先ほどまで槍の形状だった手元の"闇"を、今度は大きな剣状の物へと変化させた。
そしてそれを大きく薙ぎ払い、ヴァンへと斬り付ける。

「それで終わりにするつもりか?」

ヴァンはそれに向かって、自身の槍を大きく回し、旋回して受け止めようとしたが——
ザクッ! と、体の斬れる音がした。ヴァンの腹元の方から鮮血が流れ出ていた。

「この闇は武器とかすり抜けちゃうんだよね。アハハハ!」

ヴァンの槍は何ともないが、槍をすり抜けて体のみを斬り付けていた。幸い、傷がまだ浅くて済んだが、まともに喰らっていれば上半身と下半身に分かれていたことだろう。

「ぐぬぅ……!」

傷口を押さえ、止血しようとしたが、夥しいほどの出血が流れてきた。

「そうそう。言い忘れてたけど……痛いという感情で、どんどん出血は酷くなるよ。それも、僕の能力なんだ〜」

楽しそうに"闇"は笑う。まるでそれは悪夢のようであった。
痛みは消えることはなく、痛みを消さなくてはこの出血は止まらない。例え何で押さえようが、冷やそうが、燃やそうが、血は止まらないのだ。

「どうしたの? そんなかすり傷で? アハハハ! 情けないねぇ!」

こうして人の血を流し切るため、だからあれほどの血の海とも呼べる惨劇を幾つも生み出していた。その惨劇はヴァンが昔、戦場で見たものと同じものだった。
それと同じく、ヴァンもまた、そのような状況におかされていた。

「じゃ、最後トドメでも刺すかな?」

そうして大きくナイトメアが闇の剣を振り落とそうとしたその時——


「元帥ッ!!」


——血生臭い匂いと、誰かの声が同時にヴァンを燻った。
一体何が起きたのか。あまりに一瞬の出来事で、ヴァンは戸惑っていた。
だが、唯一分かること。それは、目の前で見覚えのある男が一人、血を大量に流しているということ。

「な……ッ!」

そこに血を流して倒れていた男は、ヴァンが此処に来る前、司令室で引っ叩いた男だった。
親友があの血の海の中で死に、仇を取りたいと言っていた少年が目の前で息絶えようとしていた。それも、ヴァンをかばって。

「おいっ! しっかりせんか!」

ヴァンは急いで目の前の兵士を抱き抱える。ゆっくりと目を開けて、兵士は何故か笑顔で喋りだした。

「ヴァン……元帥……。貴方は、まだ……死んではならないお方です……」
「もう喋るなっ! どうして、どうしてこんなことをしたっ!?」

ゆっくりと手を挙げて、兵士は手を握り締めた。
ヴァンは自分の中から溢れ出る血など、全く気にも留めなかった。

「助けたい人は……命を懸けて、助けます……。俺は……貴方のように、なりたかった……」

そうして、兵士は涙を流した。その涙は、死ぬことの怖さなどでなかった。

「ヴァン元帥……俺は——少しでも、貴方に近づけましたか?」

ヴァンは、兵士のその言葉に手を震わせ、「ワシ以上だ、バカモン」そう言って、固く手を握り返した。
ゆっくりと、その手は力が抜けていくことが手の感覚からして分かった。そして——兵士は、笑顔で死んだ。だんだんと、その兵士の体の下から血溜まりが溢れかえっている。
最早、ヴァンにとって痛みなんていう感情はなかった。自分が元帥であるがうえの失敗だった。
部下を目の前で失うことが、これほどまでに切ないことなのだろうかと。ヴァンは揺れ動く中、悲しみを心に訴えた。

「あれ? 変な奴に遮られちゃった。ま、いっか。どうせゴミだしね!」

ナイトメアが突如として口を開き、大きく笑い出した。その下衆な笑いは——ヴァンを奮い立たせることを容易に可能とした。
ゆっくりとヴァンは立ち上がった瞬時に、ナイトメアの隣へと移動し、大きく槍を薙ぎ払った。
その瞬間、ナイトメアの体は両断されて、闇は二つになる。だが、また合成しようと塊を一つとするが——それもまた両断。またそれを両断。その両断を両断したものをまた両断。

「ふざけるなよ、小僧……! 貴様にあいつをゴミと呼べる資格はないわッ!!」

最後の一振りは、今までで最大級に渾身の一撃を闇へと与えた。合成しきれず、大きく削られた闇は、そのままどうしようもなく空中へ四散していった。

Re: 白夜のトワイライト 更新再開っ ( No.172 )
日時: 2011/09/25 16:44
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: PUkG9IWJ)

段々と時間が迫っていく中、白夜は凄まじい勢いで捜索を続けていた。
目の前に何がいようが、関係なかった。ただひたすら、己の目的のためにそれを探す。それが道標となるはずだから。

(どこにある……?)

それほど重大なものが、ほんのそこらにあるというのはまずない。そうとなれば、探すべき場所は限られてくる。周りにある本棚はフェイクで、大切なものは、この山積みの上ではなく、中にある。
そうと見て探していたのだが……全く見つからなかった。となれば、どこにあるのか?

「タイムリミットが近いね……」

時間も少なすぎた。仮面の男が呟いた言葉通り、天井は更にヒビ割れが激しくなっており、今にも瓦礫の山が落ちてきそうな予感を漂わせている。そればかりか、砂が辺りに舞い散っていくのも見て分かった。
白夜は、ここぞとばかりに集中力をより高めた。先ほどの速度よりも、まだ速い。その速度は10,000ページの本を0.5秒で読むスピード。尋常ではないスピード、という言葉よりもまだ速いその速度でさえ、この多さには敵わない。関係のない資料が山ほどあり、それは既にカモフラージュのためのものだと算段もついている。
しかし、見た目が全て同じなのだから、こうしなければ——

(いや……可笑しい)

不意にそう感じた。それは直感ではあるが、今思うと、可笑しく感じたのだ。
もし、その資料を此処の他に移動させるということが出来たとすれば、ここまでカモフラージュをする必要があるのだろうか。そうでないなら、何故ここまでカモフラージュのための模造品をここまで配置したのか。隠した方も、見つけるのにこれは労働がかかるのではないだろうか。
ということは、元から他に移す気は無く、他人から奪われる危険があったら今のように埋めるか、爆破などをするしかない。
だが、そんな簡単に捨てていいものなのだろうか? 本当にそうだとしたら……。いや、そう簡単に捨てていいはずがなかった。それほど重要な資料がここにはあった。だが、見つけにくく——見つけにくい?

「もしかすると——」

白夜は引力の力によってそれらを集めた。その集めたもの、全てを読み合わせると——それが答えだ。
つまり、一冊の膨大な知識を全てに分担して分けた。そうすることによって、少なくとも分かりにくくなる。山積みとなった本の知識をこまめに分析し、取り出し、それを組み合わせることによって初めて一つの情報が手に入る。
それが、このカモフラージュの意図だった。段々と組み合わせていき、ようやくもの凄い速度で行った結果、見えてきたのは3冊の本。
この分担した3冊の本こそが——

「タイムアップだよ」
「——ッ!!」

仮面の男は上空に落ちてきた瓦礫を粉砕し、更にその3冊の本を奪い取った。そして、そのまま——

「残念っ! 後もう少し早かったよかったのにね」

その3冊を一瞬の内にバラバラにした。手を出す暇も無くである。
白夜はその瞬間、右手によって形成された熱光線を浴びせようと構え、それを放った。
だが、瞬間移動をするかのように、仮面の男は一瞬の内でそれを避け、白夜の元へと近寄り、仮面をつけたまま顔を近づける。
白夜と仮面の男の距離は、目と鼻の先だった。

「僕の名前はラプソディ。アバタコードは、狂気。君の大好きな、君を狂わせた、狂気!」

そういいながら、仮面の男は笑った。その瞬間、白夜の中でゾワッと何かが蠢く感じがした。
それが一体なんなのか分からないが、おぞましいと感じるほど、その感覚は気持ち悪かったのだ。思わず息を呑み、ラプソディの顔を見るが、仮面に隠された顔は全く分からない。まるで道化師のような仮面の奥には——狂ったものしかない。それが直感的に分かったのだ。
だが、その狂ったものに吸い込まれそうになっている白夜には分かった。

「白夜ッ!!」

その瞬間、どこからともなく、白夜にとって聞き覚えのある声がした。
白夜がその方へ視線を向けると、優輝がこちらを見て叫んでいた。

「もう此処は危ないッ! 早く脱出しようっ!」

白夜は、その言葉を聞いた後に、再び前方へと振り向くと、ラプソディの姿は既になかった。
優輝の言った通り、瓦礫が既に何箇所か落ちてきており、とんでもなく頑丈で、分厚い天井が、今にも没落しそうなほどにまで陥っていた。
残月は、未だに気絶して、壁にもたれかかっている。

「……チッ」

やがて天井は没落していき、地下は全て瓦礫の中へ埋もれていくことになった。




「やるねぇ、ヴァン・クライゼル。老兵かと思ってたけど……」

空中に四散していったナイトメアは、そのままゆっくりと風に揺られて少し遠くの方で元の闇の集まりへと戻った。
ニヤリ、と口元らしき部分を歪ませて、ヴァンを見つめる。

「僕の攻撃を喰らって、自動止血した奴は二回目だよ。ふふ……それじゃ、楽しかったよ」

そう残すと、ナイトメアはゆっくりと風に流されるようにして消えていった。
ヴァンは、その場に一人残され、膝をついて倒れている兵士を抱きかかえた。血がほとんど抜けきり、青白くなっている。ゆっくりと、兵士の体はプログラム化されて消えていった。
揺れ動き、地面が割れ響く中、ヴァンは瞳の中から水滴を地面に垂らした。

「すまんのぅ……。すまんのぅ……!」

既に、人間の重みがなくなった両手には、寂しく兵士の感情が残るようで、切ない感じがした。




白夜達が得たものは何もなかった。ただ、悲しみが今はもう要塞とは呼べないほど破壊されたその跡地には、何も無い。

Re: 白夜のトワイライト  ( No.173 )
日時: 2011/08/16 14:00
名前: 世移 ◆.fPW1cqTWQ (ID: JqUT1Sap)

久々に白夜のトワイライトを見た気がするwwwがんばってください

Re: 白夜のトワイライト  ( No.174 )
日時: 2011/08/16 20:41
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: hF19FRKd)

>>世移さん
本当に久々の更新再開ですみません;
いやぁ、何だかここで終わっていいのかという迷いが生じまして……。いくら駄作といえど、ここまできたら逝ってしまいましょうということで(ぇ
再び頑張ります。また何か下手に掛け持ちして書いてますが、できれば応援宜しくお願いいたします><;
それでは、失礼いたしますー。

Re: 白夜のトワイライト  ( No.175 )
日時: 2011/09/25 16:43
名前: 遮犬 ◆.a.RzH3ppI (ID: PUkG9IWJ)

データを解析中……。

そんな文字が薄暗い部屋の中、パソコンに浮かび上がる。
食べかけの林檎は既に腐り、その場に放置されていた。
お腹が減ることも無く、また、現実の世界に帰って来たとしても、何も感じることはなかった。ただ、一度望みはシャットダウンされただけで、これからも探し続けるだけ。
それは、今も前からも変わらない自分の使命、罪なのだから。

「ふぅ……」

ブゥゥン、と重低音がパソコンから部屋へと鳴り響いた。
疲れが相当溜まってしまったのか、少年は頭を抱える。そして、一つ息を大きく吐くと、立ち上がる。
現実と電脳の違いにより、感覚が麻痺し、上手く歩けない。ふらふらと足取りをそのままに、冷蔵庫へと近づく。
中を開けてみると、何本ものドリンクが入っており、それを何とか取って飲み干した。
冷蔵庫の上に貼ってあるカレンダーには、赤く塗り潰された日にちがあった。
9月31日。
それは、悲劇の始まりを意味する日付だった。
少年は、その日付を睨みつけた後、ゆっくりと元の場所へと戻っていく。
少し、電脳世界の方で能力を使いすぎた。その疲れが現実にこうやって疲労を感じさせている。
金には困らなかった。電脳世界の、エデンというふざけたゲーム世界の中、金というものなどいくらでも稼げる。上手く出来たリアルな世界は通り、食べ物や飲み物もリアルに感じることが出来る。しかし、死も同様に。
これを好き好んでやるこの世界の人間共は皆腐っている。そこに、メリットは沢山あるが、デメリットは命の保障ということを感じないままにデットヒートを繰り返しているのだから。

カタン、とその時机から何か物が落ちた。
それはビー玉だった。拾う気もなく、ただその青いビー玉を見つめるだけだった。
電脳世界の出来事は、全て本当の出来事として還元される。それは、いつまでも忌々しく続いていく。
少年の、月影 白夜の体がその証明だった。
副作用という名の体の収縮がそれだった。本当ならば、植物状態になっていただろう体を見ては、何度も傷つけようとしたことか数え切れなかった。
白夜にとって、それだけ自分の存在は許せないものがあった。

「だから……」

部屋の中、ようやく呟いた言葉がそれだった。喉が潤されたとしても、しばらくはこの本物の喉で声を出していなかった白夜の声は掠れていた。

「だから、俺はここにいるんだろう」

擦り切れそうな声で搾り出した声は、どこか決心を決めたような表情だった。
見つけなければいけない人がいる。助けて、それから……どうしようというのだろう。
白夜は再び電脳世界へと飛び込んだ。
何をするわけでもない、ただ、自分の宿命のために。




【一章完結】