ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 白夜のトワイライト 更新再開っ ( No.171 )
- 日時: 2011/08/11 03:28
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: hF19FRKd)
白夜は残された時間の中、必死に探していた。
それは自分がこれからの道をどう歩んでいくかの道標になるものでもある。見つけなくてはという思いがだんだん焦りへと変貌していく。
「チッ……!」
舌打ちをしてからすぐに傍にあった書物を投げ捨てる。まだまだ膨大な数の書物が室内を覆う中、果たして本当に間に合うのだろうか。
普通に考えれば、間に合うはずはない。今も白夜とその近くにいる残月は地上からの揺れが地下にも浸透し、被害を被っている。
これがずっと続けば、いずれかは天井、地上に地割れが出来たものが地下にまで届き、白夜たちの頭上に瓦礫の山が落ちてくるということになる。それがタイムリミットの証でもあったのだ。
「どこにある……!」
血眼になって白夜が探している最中、残月はとある気配に反応した。それも、ただならない殺気に満ちたものである。
「白夜光……何か、とてつもない殺気が——」
残月がそう言った瞬間、体が吹き飛んだ。
元ではあるが、ランク的にSSSを取っている残月の身体能力で避けれない物理攻撃はごく稀なことであった。それが例え、不意打ちだったとしても。
だが、今回は違う。殺気をしっかりと感じ取っており、気配も感じていたというのに——全く避けれなかったのである。
「ぐぁっ……!」
残月の体はそのまま真っ直ぐに飛んでいき、その間にあった書物の山を散乱させながら柱へと激突した。
それは一瞬の出来事で、何が起こったのか判断するのにも時間がかかるほどだった。
「何者だ……!」
思わぬ敵襲に白夜はその敵の方へと振り向いたが、
「——遅いよ」
「ッ!?」
背中を何か風圧のようなもので押され、地面へと叩き付けられた。地面へと直撃する前に、引力の力で反動を抑え、衝撃は免れる。
そのまま身を翻し、敵の方へと睨み付けた。
「おぉ、怖い怖い……そんな睨み付けないでくれないかな?」
薄暗い中、見えたのは——仮面を被っている男の姿。
礼儀正しいのか、タキシードに包まれたその男は、どうやら笑っているようなのだが……殺気が先ほどから白夜へ向けて半端ではない。
こうして白夜は睨み続けているが、正直のところ動けないのが本音である。動いたら——やられる。そんな感覚に不思議と襲われている感じがして不気味であった。
「君のやろうとしていることは、ちょっと厄介なんだよね。とはいっても、黒獅子も黒獅子でさっさと処分しとかないから悪いんだけどね」
「黒獅子……? 黒獅子の仲間か?」
「仲間じゃないね。一応、まあ……言えば同盟みたいなものさ。向こうが僕を雇ったんだよ」
そんな調子で仮面の男はその場から動こうとしない。そうしている間にも、地上からの揺れは激しくなってきている。
「さぁて、どうする? 探したいなら探せばいいけど、僕は阻止しないといけないからねぇ」
「お前……名前は?」
「僕かい? 僕は——」
その時、ゴゴゴッと大きく地上から音が鳴ったと思いきや、凄まじい轟音を見せて、少しのヒビが入ってきた。
「ふふ、タイムリミットも近いし、探していいよ。でも、タイムリミットは巨大な地盤一つ。巨大な、本を埋めるほどの地盤が落ちてきたら、タイムリミットで終了。どう? 面白くない?」
そう仮面の男が告げた瞬間、白夜はすぐさま捜索を再開した。
その様子を見て、クスクスと笑う仮面の男は、ゆっくりと傍にある本を一つ取った。
「……くだらないね」
一方、ヴァンは未だにナイトメアと戦い続けていた。
幾人もの兵士を血祭りにあげたナイトメアは、ただその戦いを楽しんでいるようにさえ見えた。
応戦しているヴァンは、地震や地割れが続く中、優位かと思うが——それは違う。
ナイトメアの強さは尋常ではなく、さらにはダメージの与えようがない。全て、暗闇の中へと吸い込まれていくのだ。
「そろそろ飽きてきちゃったかな……」
ナイトメアそういうと、先ほどまで槍の形状だった手元の"闇"を、今度は大きな剣状の物へと変化させた。
そしてそれを大きく薙ぎ払い、ヴァンへと斬り付ける。
「それで終わりにするつもりか?」
ヴァンはそれに向かって、自身の槍を大きく回し、旋回して受け止めようとしたが——
ザクッ! と、体の斬れる音がした。ヴァンの腹元の方から鮮血が流れ出ていた。
「この闇は武器とかすり抜けちゃうんだよね。アハハハ!」
ヴァンの槍は何ともないが、槍をすり抜けて体のみを斬り付けていた。幸い、傷がまだ浅くて済んだが、まともに喰らっていれば上半身と下半身に分かれていたことだろう。
「ぐぬぅ……!」
傷口を押さえ、止血しようとしたが、夥しいほどの出血が流れてきた。
「そうそう。言い忘れてたけど……痛いという感情で、どんどん出血は酷くなるよ。それも、僕の能力なんだ〜」
楽しそうに"闇"は笑う。まるでそれは悪夢のようであった。
痛みは消えることはなく、痛みを消さなくてはこの出血は止まらない。例え何で押さえようが、冷やそうが、燃やそうが、血は止まらないのだ。
「どうしたの? そんなかすり傷で? アハハハ! 情けないねぇ!」
こうして人の血を流し切るため、だからあれほどの血の海とも呼べる惨劇を幾つも生み出していた。その惨劇はヴァンが昔、戦場で見たものと同じものだった。
それと同じく、ヴァンもまた、そのような状況におかされていた。
「じゃ、最後トドメでも刺すかな?」
そうして大きくナイトメアが闇の剣を振り落とそうとしたその時——
「元帥ッ!!」
——血生臭い匂いと、誰かの声が同時にヴァンを燻った。
一体何が起きたのか。あまりに一瞬の出来事で、ヴァンは戸惑っていた。
だが、唯一分かること。それは、目の前で見覚えのある男が一人、血を大量に流しているということ。
「な……ッ!」
そこに血を流して倒れていた男は、ヴァンが此処に来る前、司令室で引っ叩いた男だった。
親友があの血の海の中で死に、仇を取りたいと言っていた少年が目の前で息絶えようとしていた。それも、ヴァンをかばって。
「おいっ! しっかりせんか!」
ヴァンは急いで目の前の兵士を抱き抱える。ゆっくりと目を開けて、兵士は何故か笑顔で喋りだした。
「ヴァン……元帥……。貴方は、まだ……死んではならないお方です……」
「もう喋るなっ! どうして、どうしてこんなことをしたっ!?」
ゆっくりと手を挙げて、兵士は手を握り締めた。
ヴァンは自分の中から溢れ出る血など、全く気にも留めなかった。
「助けたい人は……命を懸けて、助けます……。俺は……貴方のように、なりたかった……」
そうして、兵士は涙を流した。その涙は、死ぬことの怖さなどでなかった。
「ヴァン元帥……俺は——少しでも、貴方に近づけましたか?」
ヴァンは、兵士のその言葉に手を震わせ、「ワシ以上だ、バカモン」そう言って、固く手を握り返した。
ゆっくりと、その手は力が抜けていくことが手の感覚からして分かった。そして——兵士は、笑顔で死んだ。だんだんと、その兵士の体の下から血溜まりが溢れかえっている。
最早、ヴァンにとって痛みなんていう感情はなかった。自分が元帥であるがうえの失敗だった。
部下を目の前で失うことが、これほどまでに切ないことなのだろうかと。ヴァンは揺れ動く中、悲しみを心に訴えた。
「あれ? 変な奴に遮られちゃった。ま、いっか。どうせゴミだしね!」
ナイトメアが突如として口を開き、大きく笑い出した。その下衆な笑いは——ヴァンを奮い立たせることを容易に可能とした。
ゆっくりとヴァンは立ち上がった瞬時に、ナイトメアの隣へと移動し、大きく槍を薙ぎ払った。
その瞬間、ナイトメアの体は両断されて、闇は二つになる。だが、また合成しようと塊を一つとするが——それもまた両断。またそれを両断。その両断を両断したものをまた両断。
「ふざけるなよ、小僧……! 貴様にあいつをゴミと呼べる資格はないわッ!!」
最後の一振りは、今までで最大級に渾身の一撃を闇へと与えた。合成しきれず、大きく削られた闇は、そのままどうしようもなく空中へ四散していった。