ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 白夜のトワイライト 更新再開っ ( No.172 )
日時: 2011/09/25 16:44
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: PUkG9IWJ)

段々と時間が迫っていく中、白夜は凄まじい勢いで捜索を続けていた。
目の前に何がいようが、関係なかった。ただひたすら、己の目的のためにそれを探す。それが道標となるはずだから。

(どこにある……?)

それほど重大なものが、ほんのそこらにあるというのはまずない。そうとなれば、探すべき場所は限られてくる。周りにある本棚はフェイクで、大切なものは、この山積みの上ではなく、中にある。
そうと見て探していたのだが……全く見つからなかった。となれば、どこにあるのか?

「タイムリミットが近いね……」

時間も少なすぎた。仮面の男が呟いた言葉通り、天井は更にヒビ割れが激しくなっており、今にも瓦礫の山が落ちてきそうな予感を漂わせている。そればかりか、砂が辺りに舞い散っていくのも見て分かった。
白夜は、ここぞとばかりに集中力をより高めた。先ほどの速度よりも、まだ速い。その速度は10,000ページの本を0.5秒で読むスピード。尋常ではないスピード、という言葉よりもまだ速いその速度でさえ、この多さには敵わない。関係のない資料が山ほどあり、それは既にカモフラージュのためのものだと算段もついている。
しかし、見た目が全て同じなのだから、こうしなければ——

(いや……可笑しい)

不意にそう感じた。それは直感ではあるが、今思うと、可笑しく感じたのだ。
もし、その資料を此処の他に移動させるということが出来たとすれば、ここまでカモフラージュをする必要があるのだろうか。そうでないなら、何故ここまでカモフラージュのための模造品をここまで配置したのか。隠した方も、見つけるのにこれは労働がかかるのではないだろうか。
ということは、元から他に移す気は無く、他人から奪われる危険があったら今のように埋めるか、爆破などをするしかない。
だが、そんな簡単に捨てていいものなのだろうか? 本当にそうだとしたら……。いや、そう簡単に捨てていいはずがなかった。それほど重要な資料がここにはあった。だが、見つけにくく——見つけにくい?

「もしかすると——」

白夜は引力の力によってそれらを集めた。その集めたもの、全てを読み合わせると——それが答えだ。
つまり、一冊の膨大な知識を全てに分担して分けた。そうすることによって、少なくとも分かりにくくなる。山積みとなった本の知識をこまめに分析し、取り出し、それを組み合わせることによって初めて一つの情報が手に入る。
それが、このカモフラージュの意図だった。段々と組み合わせていき、ようやくもの凄い速度で行った結果、見えてきたのは3冊の本。
この分担した3冊の本こそが——

「タイムアップだよ」
「——ッ!!」

仮面の男は上空に落ちてきた瓦礫を粉砕し、更にその3冊の本を奪い取った。そして、そのまま——

「残念っ! 後もう少し早かったよかったのにね」

その3冊を一瞬の内にバラバラにした。手を出す暇も無くである。
白夜はその瞬間、右手によって形成された熱光線を浴びせようと構え、それを放った。
だが、瞬間移動をするかのように、仮面の男は一瞬の内でそれを避け、白夜の元へと近寄り、仮面をつけたまま顔を近づける。
白夜と仮面の男の距離は、目と鼻の先だった。

「僕の名前はラプソディ。アバタコードは、狂気。君の大好きな、君を狂わせた、狂気!」

そういいながら、仮面の男は笑った。その瞬間、白夜の中でゾワッと何かが蠢く感じがした。
それが一体なんなのか分からないが、おぞましいと感じるほど、その感覚は気持ち悪かったのだ。思わず息を呑み、ラプソディの顔を見るが、仮面に隠された顔は全く分からない。まるで道化師のような仮面の奥には——狂ったものしかない。それが直感的に分かったのだ。
だが、その狂ったものに吸い込まれそうになっている白夜には分かった。

「白夜ッ!!」

その瞬間、どこからともなく、白夜にとって聞き覚えのある声がした。
白夜がその方へ視線を向けると、優輝がこちらを見て叫んでいた。

「もう此処は危ないッ! 早く脱出しようっ!」

白夜は、その言葉を聞いた後に、再び前方へと振り向くと、ラプソディの姿は既になかった。
優輝の言った通り、瓦礫が既に何箇所か落ちてきており、とんでもなく頑丈で、分厚い天井が、今にも没落しそうなほどにまで陥っていた。
残月は、未だに気絶して、壁にもたれかかっている。

「……チッ」

やがて天井は没落していき、地下は全て瓦礫の中へ埋もれていくことになった。




「やるねぇ、ヴァン・クライゼル。老兵かと思ってたけど……」

空中に四散していったナイトメアは、そのままゆっくりと風に揺られて少し遠くの方で元の闇の集まりへと戻った。
ニヤリ、と口元らしき部分を歪ませて、ヴァンを見つめる。

「僕の攻撃を喰らって、自動止血した奴は二回目だよ。ふふ……それじゃ、楽しかったよ」

そう残すと、ナイトメアはゆっくりと風に流されるようにして消えていった。
ヴァンは、その場に一人残され、膝をついて倒れている兵士を抱きかかえた。血がほとんど抜けきり、青白くなっている。ゆっくりと、兵士の体はプログラム化されて消えていった。
揺れ動き、地面が割れ響く中、ヴァンは瞳の中から水滴を地面に垂らした。

「すまんのぅ……。すまんのぅ……!」

既に、人間の重みがなくなった両手には、寂しく兵士の感情が残るようで、切ない感じがした。




白夜達が得たものは何もなかった。ただ、悲しみが今はもう要塞とは呼べないほど破壊されたその跡地には、何も無い。