ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 白夜のトワイライト ( No.181 )
- 日時: 2011/10/02 13:24
- 名前: 遮犬 ◆.a.RzH3ppI (ID: EFs6h6wo)
「どこに連れて行く気だ?」
警察庁内の奥へ、優輝と高宮は二人で歩いている中、優輝が遂に高宮へと質問を投げかけた。
優輝がエデンを始める前に、警察庁内ではとある改築作業が行われたそうだが、その改築した部分が現在二人の向かっている場所であった。
誰もいないせいか、辺りは薄暗い。曇りがかった太陽の光が、薄暗く庁内を反射していた為、通路の行く先先が一応は分かるというぐらいだった。
「勿論、改築した場所さ。日上はまだその部分は知らなかったな」
高宮は、優輝が名乗る前に優輝のことを知っていた。そこからしても謎が多い中、このキザな格好といい、この見た目の若さといい、どう見ても自分よりか年下か、それとも同年代かぐらいにしか見えない高宮は、信用なんて到底思えないし、信じることも出来なかった。
疑心暗鬼のまま、いつでも臨機応変にことごとを運べるように心の準備は整ってはいるが、どうにも高宮自身は悪そうに見えなかった。
「そろそろだ」
結構奥の方まで歩いたかと思うほどの通路を歩くと、遂に目的の場所を高宮が発見した。
薄暗い通路が更に薄暗くなったような暗さに、誰も入っていないような真新しい扉。さらに表札なんてものがついていない、謎の部屋だった。
「さぁ、入ろうか」
高宮は一人、意気揚々と呟いては、ドアノブを手で掴み、右に回した。そしてそのまま扉を開くと、中は闇の闇が広がっていた。
すると、高宮はすぐ横にあるらしい電気スイッチを慣れた手つきで押すと、部屋中が明かりを帯びた。
「何でここだけ……?」
「まぁ、不思議がるのも無理はないな」
高宮はそう言って笑う。
ここだけ、というのは、ここに来るまでの通路の電気やその他の電気はスイッチを押しても付かなかった。それは単に人がいないという理由ではなく、電気が止められている感じだった。
何者かに止められている。そんなことも脳裏に浮かぶような現象だったのだ。
しかし、この部屋の電気は先ほどの電気スイッチらとは違い、電灯がしっかりと光る。その眩しさで、優輝はついつい腕で眼を隠した。
「だが、ここからがまだ驚きだぞ」
高宮はそう言い放つと、丁度部屋の真中に置かれた大きなテーブルへと近づき、すぐ隣の棚の奥へと手を伸ばし、カチッという音がそこから聞こえたかと思うと、真中に置かれた大きなテーブルが勢いよく回転し、真中の地面を露にした。
「よっ、と」
続けて高宮は、その露になった地面をコツッと一箇所だけを足で叩くようにして押すと、鍵の開いた音がして、その地面が再び回転し、今度は地下へと続く階段が露となった。
「こんな仕掛けがあったなんて……」
「知らなかったか? まあ、この為だけに作られたような部屋でもあるし、これは極秘っちゃ極秘だからな」
高宮はそう言って笑うと、その階段を下り始めた。
言わずも知れず、優輝もその後を急いで続いた。
階段を下り切ると、次は短い通路が見えてくる。電球が所々に設置されており、この通路は基本的に明るい。
通路を渡り切ると、次に見えてくるのはエレベーターだった。
「更に地下へと行くぞ」
高宮はその宣言通りにエレベーターへ乗り込むや否や、地下を示すらしい【B】と書かれたスイッチを押した。
低い重低音があちこちから響くと、ゆっくりと下へと向けて稼動し始めた。
「結構速いからな。酔うかもしれないな」
高宮が笑いながらそう言った途端、優輝は突然変な吐気に襲われた。急速的にエレベーターが下へ降りている証拠なのだろうか。
外の景色は全て岩石だった。まるで一直線に何かで掘られたような穴に、エレベーターが通っているという単純な構図のようだった。
暫く優輝はその吐気に我慢していると、次に見えてきたのは信じられないものだった。
「見えたな……あれだ」
「こ、これって……!」
優輝と高宮が見たもの。それは、もう一つの"世界"だった。
「通称、アンダーワールド。呼び名は、楽園の世界だ」
「楽園の、世界……?」
それは地下に作られた機械都市だった。
地上が寂れた構造なら、こちらは科学的に進歩しすぎているとまで言っていいほどの世界観の違いだった。これだけの科学技術があるのに、どうして地上へとそれを活用しないのか。
「簡単だ。これがアップデートに関係するからな」
優輝の考えを見透かしたように、高宮は呟いた。
アップデートによって何が変わるのか。それをこの男は知っている。優輝は、そんな気がしてならなかったのだ。
「何故警察庁の地下に……」
「言っただろう。極秘なんだ。この世界にはこの国を守る軍力がある。最近の戦争は皆エデンによって開催される。この地下都市はもはやこの国の政府といっても変わりはない」
先ほどの笑みを浮かべていた高宮とは違い、厳しい表情で言った。
この機械の街があるということなど、今まで知る由もなかった優輝にとって、これほど驚いたことはなかった。
「もうすぐだな……」
「何が?」
チンッ、と軽やかな音が響くと同時に、エレベーターは静止した。
ゆっくりと高宮はその場に下りて、言い放った。
「アップデートの終了だ」
その瞬間、嫌な感触が優輝の全身へと伝わっていく。ぞわぞわと、何かが込み上げてくる。それはここが現実かどうかさえも曖昧にさせるほどの強力なものだった。
「う、ぅぅぁっ……!」
呻き声を上げる中、高宮が視界から外れない。揺れる視界の中で、高宮は悠然と目の前に立っているのである。
優輝は手を伸ばし、高宮を呼ぼうとしたが、それは無駄ことだった。
ゆっくりと、頭がシャットダウンしていきそうになる中、不意に優輝の伸ばした手に、何かの感触があった。
これは、この感触は——人の手の温もりだった。
「トワイライトは、再び行われる。お前は、お前のままでいろ」
「どう、いう……ッ!」
どういうことだ。そうやって声を荒げたかったが、優輝にはもはやそんな力も考える力も無く、自然に力を失った手と体全身はそのまま倒れ込んでいった。
データ解析、終了しました。
アップデート完了。
アップデート内容:三次元と楽園の混入・及び合成。
——以上。