ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 白夜のトワイライト ( No.182 )
- 日時: 2011/10/03 20:04
- 名前: 遮犬 ◆.a.RzH3ppI (ID: EFs6h6wo)
世界は豹変する。
異次元と現実が混じる時、世界は新たな形を創造する。
それは、壮絶な物語のきっかけに過ぎない。
まだ頭が痛む。酒を浴びるほど飲み、二日酔いをしたような気分で、優輝はゆっくりと体を起こした。
一体何が起こったのかも分からず、ただぼんやりしている頭を押さえながら、優輝はふらついた足で何とか立ち上がった。
「ここは……どこだ?」
次第に視界が治まっていく。しっかりと目の前が見ることが出来たと思うと、そこは優輝自身のベッド上だった。
周りは散乱し、いつもの部屋だという感覚と共に、不意に違和感を覚えた。
「これ……何だ?」
腕に、いつの間にか腕輪が取り付けられていた。銀色に光る腕輪で、優輝はそんなものを身に着けていたことなどは知らなかった。いや、それよりも見覚えすらもない。一体これは何だと疑心に溢れていると、不意に思ったことがあった。
「俺は、どこにいた?」
優輝はもう一度自分はどこにいたのか考えてみることにした。
警察庁に向かい、そこで自分は誰と会ったのか。
「そうだ……高宮、修司に会ったんだ」
そして、その後高宮に連れられて警察庁の奥まで連れて行かれることになった。そこから何を見たのか。
「下には、もう一つの世界があって……機械だらけの、すげぇ街が……」
エレベーターから下りて、そこからどうしたのか。
「高宮が……突然、わけのわからないことを言って……? それから、俺は……気を失った?」
全てを思い出した優輝は、単純な疑問を抱いた。
あの場で倒れたのだとしたら、もしそうだとして、夢でなかったとして、
「なら、俺はどうして自分の部屋にいる?」
素朴な疑問は、一つの行動を駆け巡らせた。
最後に聞いたアップデートと関係のある言葉。それは、この世界に何らかの異変が起きたということだろうか。
もしそうだとしたら、この世界は一体どういう風に変わってしまったのだろうか。
優輝は自分のパソコンの画面を見た。節電状態で、真っ暗な画面と化していたそれに浮かびあがったのは、
『アップデート完了。アップデート内容:三次元と楽園の混入・及び合成。』
「三次元って……この世界のことか? 楽園……エデンのこと? それの混入と、合成……。もしかして……!?」
優輝の考えたこと。それは——
ガシャァンッ!
不意に外からガラスの割れるような音が響いた。音の大きさ的にも、すぐ近くだということが分かる。一体何事かと、優輝は窓の外を覗いて見るが、よく見えない。実際に行ってみるしか方法がなかった。
商店街の一角。そこは現実にて、現実ではなくなってしまった場所に、一人の少女が、そこにいた。
少女は、その傍で力が抜けたのか、へたりこんでしまっていた。その姿を見て、少女の眼の前にいる異形の生物はニヤニヤと笑っているような不気味な笑みで少女を見つめていた。
「あ……ぁ……」
少女は、眼の前の明らかに怪物といえる存在を見て、怯えていた。
「G%&')'$"$……!!」
文字として表しようのない雑音に似た音声がその怪物から放たれる。それは少女も今まで見たこともなかった。
ゆっくりと怪物は少女へと近づいていく。怖くて少女は声を出すことすらも敵わなかった。
「#%%#”#%’&!」
化け物は一気に少女の上空へと飛び上がり、そのままその身を切り裂こうとしたその時だった。
一閃、斬撃が虚空を舞う。
それは音も無く、無音のまま、化け物を切り裂き、そしてゆっくりと化け物は肉塊へと変化していった。
その様子を見て、少女は絶句した様子でその肉魂を見つめた。そのすぐ傍で、誰かが歩み寄ってくる気配がした。
「姉ちゃん、大丈夫かいな?」
関西風の言葉をその男は投げかけてきた。
その男の頭には、見たことのあるものが生え、そしてその男の尻の辺りにも見たことのあるものが生えてあった。
意気揚々と、元気良く少女に話しかけたこともあってか、少女は戸惑いながらもゆっくりと頷いた。
「そぉーかぃっ! よかったわー! 大丈夫そうやな!」
「あ、あの……」
「なんや?」
喜ぶ関西風の男の頭上と尻の辺りを交互に見てから、
「それ……犬耳と、犬の尻尾……ですよね?」
「え!? ……あ、あぁっ! バレてもとるやん!」
何故だか愕然としたような態度を取り、頭を抱えてはうずくまる関西風の男を見て、少女は少しその様子を驚いたように見つめ、その後、慌てたように、
「あ、あああのっ! い、言ったら、ダメ、でしたか……?」
「へ? あぁ、いやいや! かまわへんよ! これなぁ……俺の能力の代償みたいなもんやねん」
「能力の、代償ですか?」
「せや。やから、そないに気にすることもないねんけどなぁ……まぁ、ええわ。姉ちゃん、名前教えてくれへんか?」
突然話が切り替わったりして、そのスピードについていけずに慌てる様子を取る少女を見て、関西風の男は気にしない様子で「あぁ!」と声をあげた。
「そうやなぁ! 名乗らせる前に、俺から名乗っとかなあかんわな! 俺の名前は、緒川 春之助(おがわ はるのすけ)ゆーもんや! よろしくな、姉ちゃん!」
緒川は笑顔で言うと、手を差し伸ばした。その手に触れようか触れまいか悩んだようにした挙句、少女はゆっくりとその手を掴んだ。
「わっ!」
そうした途端、急に体が浮き上がり、少女は立ち上がった。緒川が手に力を込めて少女を立ち上がらせたのだった。
その様子を見て、緒川は高笑いすると、
「次は姉ちゃんの名前やで。教えてくれへんか?」
緒川の言葉に促されるように返事をすると、少女は少し戸惑いがちに言葉を漏らした。
「ぼ、僕の名前は、裏面、臨死(りま、りんし)っていいます……。え、えっと、アバタコードは……"なるようにならない最悪"です……」
「えらいけったいな名前しとるなぁ〜……って、アバタコード忘れとったわ! 悪い悪い!」
緒川はそう言って人懐こそうな顔を見せた後、
「俺のアバタコードは"犬神"や! よろしゅう頼むなっ! えーと……臨ちゃんって呼ぶわ! な、臨ちゃん!」
「え、え? あ、は、はい……あの、えっと……」
「あぁ、俺のことは春でえぇよ! 春之助、なんて言い難いしなぁ! それで堪忍してや!」
「はい……よろしく、お願いします……。そ、それと……先ほどは助けていただいて、ありがとうございます」
「お互い様やろ? ははっ、大したことしとらんわ〜!」
緒川はそういって犬耳を前後に揺らし、尻尾を左右に振った。
どうやら無意識らしく、嬉しかったりすればこういう動作を行ってしまうようだった。
(か、可愛い……)
初対面でこう思うの、とは思ったが、裏面は密かにそう思ったのであった。