ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 白夜のトワイライト  ( No.185 )
日時: 2011/10/11 23:14
名前: 遮犬 ◆.a.RzH3ppI (ID: EFs6h6wo)

都会染みた場所から離れ、人気のなさそうな場所へと春之助と裏面は来ていた。
都会の風景には似合わず、周りには誰もいない寂れた様子に首を傾げつつ、裏面は春之助に着いて行った。
元を辿れば、裏面はとある人物を探しているのだが、その道中に道に迷い、異形の化け物に襲われたのだった。自分に心底自信のない裏面にとって、春之助の存在はとても頼りになる。春之助がゆっくりと歩いていくのを、小走りで裏面は追いかけていく。正確に言えば、春之助に付いてある犬の尻尾が左右に動くのを見つめながら着いていっているわけなのだが。

「大丈夫かいな? 疲れたか?」
「え、あ、い、いえっ、だ、大丈夫です……」
「んじゃあ、俺が疲れたから休もか!」
「えぇっ!? あ、あのッ! ……あぁ……」

突然振り向いた春之助に驚いたのと、休もうと言い出しては裏面の腕を引っ張り、半強制的に休まされることになったことも驚いた。
見た目が犬耳、犬尻尾というコンビになので、可愛さで圧倒されていた為かここまで強引な人だという印象は全くなかったのだ。
丁度公園があり、そのベンチに座ることにした。都内は都内だが、ここは静かな場所で、ビル群もあまり見えない。都会というより、田舎臭い雰囲気のある場所だった。だが、それが返って落ち着かせてくれた。

「この場所が分からんわぁ……ここ、どこやろな」
「あ、それ、私も聞こうとしてました……」
「ほんまかいな? 臨ちゃんも知らん都会やとはなぁ……」

悩んだように腕を組み、うーんと唸り声をあげている春之助を横目に、裏面は小さく笑い声をあげてしまった。

「な、何がおかしいんや?」
「あ……ご、ごめんなさいっ。あの、その尻尾って、態度によってやっぱり変わるんですね?」

裏面が春之助に生えている尻尾を指摘しながら言った。
その言葉通りに、尻尾は真っ直ぐ伸びていた。左右に揺れることもなく、尻尾はその態度の通りに従っていたのだ。

「うぁ! めっちゃ恥ずかしいやん!」

慌てて尻尾を隠そうとする春之助だが、今度は犬耳がピクピクと前後に動いているのを見つけた裏面が再び笑い声をあげた。

「わぁぁっ! どうしろ言うねん!」
「ふふっ、可愛いからいいじゃないですか?」
「よくないわぁっ! あぁ、もう……あんま見んといてっ」

そっぽを向いて頬を膨らませる春之助の姿は本当の犬のようで、とても可愛らしく見ている裏面は思っていた。元々春之助は童顔な顔の造りをしている為、そのおかげでそう見えているのかもしれないのだが、それは言わないでおこうと裏面は口を結んだ。
そうして少ししてから、不意に春之助が裏面の方を向いた。その様子に驚いた裏面は、思わず「な、何か……?」と返してしまった。

「あんな、臨ちゃん。実は——」

春之助が言葉を紡ごうとしたその時、理解しがたい雑音に似た声が聞こえてきた。それも春之助と裏面の辺り一面を囲んでいるようで、辺りからその雑音は聞こえてきた。

「&#&%$”#&%&」
「何語喋ってんねん! ……それにタイミング良すぎやろ! 台無しにすんなや! KY集団が!」

マシンガントークの如く、早口で春之助は言葉を吐き出すと、それと同時に両手を握り締め、ゆっくりと構えた。
敵はあちこちにいる。数は正確には分からないが、かなりの数がいることは明白だった。
煩い雑音が辺りから聞こえ、耳が痛いほどの状況下の中、

「臨ちゃん、戦える?」
「は、はい……大丈夫、です」
「よっしゃ、ほな——暴れてくるわ」

その瞬間、春之助は猛烈な勢いで前方駆け出した。
左右からその春之助をすかさず攻撃を加えんと、化け物が飛び掛ってくるが、空中で春之助は両手を交差させる。その後、綺麗に化け物の頭だけが飛び上がった。データの化け物は血を噴出すことはないが、青白い光を傷口から発光させている。

「よっ、と」

春之助はそのまま体を捻らせ、そのままの勢いで着地する地点にいた化け物へと手を振りかざし、振り落とした。その瞬間、何かが"噛み千切った"ような惨い音が響いた。化け物の半身は噛み千切られたように裂け、体と呼ぶには到底及ばないものへと変貌されていた。
着地した後、足に力を込めた春之助に、一斉に前方から襲いかかってくる化け物の集団は奇妙な声をあげて春之助を仕留めようと飛び掛ってきた。

「春之助風、ドッグ・ムーンアサルトォォッ!」

早口でそう言った直後、勢いよく春之助は宙に浮いて後転した。爪で引っかくように、両手を伸ばしながら行ったので、足と共に手も同じように前方へと後ろ回りに振り回した。
前方にいた化け物の集団は4,5体だろうか。それらの化け物は全て"上半身が食い千切られた"ような有様となっていた。
春之助は素早く着地すると、また駆け出していく。その姿を裏面は見つめ、たった30秒にも及ばない行動に圧巻されていた。

「$&%##!」
「っ……!」

裏面の元にも化け物は迫ってきていた。ほんの後わずかの距離で、間一髪にして裏面は避けたのだ。
そのまま倒れるようにして転がった後、すぐに立ち上がり、決心したような顔付きでハッキリと言い放った。

「ショートカット【手榴弾】」

すると、裏面の手には手榴弾が握られており、それを多少慣れた手つきで前方へ投げつけた。
手榴弾が地面へと被弾した直後、強烈な破裂音と共にその場にいた化け物は皆吹き飛んでいた。
何とか倒せたことで、一息吐く裏面の後ろに化け物の声が聞こえてきた。それも、すぐ近くに。

「あ——」

声をあげたが、それは何の意味も無く、裏面は化け物の攻撃を受けてしまった。肩に痛みが走る。それは抉られ、自分の肩に強烈な痛みが走っているのだという実感が湧き、思わず叫び声を出した。

「臨ちゃん!」

春之助の声が遠い。少し視界がぼやけ、後ろへと倒れていく自分の体はどの方向にあるのかも分からずに、裏面は地面へと——倒れなかった。
そしてその直後、化け物の断末魔が近くで聞こえた。一体何が起こったのか。何故自分は地面に倒れていないのか、と裏面が考えるのも束の間、

「大丈夫?」

その声は、とても優しそうな声だった。裏面がゆっくりと目を開けてみると、右手に大きな剣を持ち、左手で裏面を支えている優輝の姿があった。