ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 白夜のトワイライト ( No.196 )
- 日時: 2011/10/19 21:38
- 名前: 遮犬 ◆.a.RzH3ppI (ID: ucEvqIip)
広い部屋に、コーヒーがスプーンで掻き混ぜられる音しかそこにはない。カップとスプーンが擦れる音を、巨大な椅子に座っている男が右手に持つスプーンによって鳴らしているのだ。
ほとんど無音のその中、それを破ったのはドアをノックする音だった。
「失礼します」
女性の声が室内に交じり合った。だが、男はスプーンを回すことを止めない。そのまま掻き混ぜ続けているばかりで、その他は微動だにしなかった。
彼女は見た目10代、20代程度の若さで、金色の髪をショートにし、一つに小さく纏めあげている。服は軍服のようなものを着ており、見た目やスタイルからしてもあまり似合わない感じである。
彼女のそれらの他に、更に気になるものは背中に掲げられた大型のスナイパーライフル。そして、腰元にあるマシンガンやショットガン、懐にある二丁のハンドガンなど、様々な場所に銃が装備されてあった。
そんな彼女は、ゆっくりと手に持っていた書類に目を通し、真っ直ぐ閣下と呼んだ男を見つめて、口を開いた。
「……閣下。武装警察のアーカイブに眠っていた極秘資料ですが、やはり"あの者"が持っていることが判明いたしました」
「……そっか」
ようやく口を開いた男は、女性に背を向けたまま、ゆっくりとコーヒーのカップに口を付け、一口飲み込んだ。何も言わずに、そのカップを再び机に戻すと、どこから取り出したのか砂糖をカップの中へ何個も入れ始めた。
そしてまたゆっくりと口に含み、飲み込む。すると、男は満足そうに何回か頷き、唸ると、彼女の方へと振り返った。
男は清々しい笑顔を見せ、傍にあった二本の刀を手に持ち、ゆっくりと机の上に置いた。
「そろそろ動こうか、凪」
「閣下が出向かずとも、私が——」
「凪一人に行かせられないよ。エルトールの権限とかも、今となっちゃ無いに等しいしね。閣下ってのも止めて欲しいんだけどなぁ」
「は……——ディスト様」
頭を下げる彼女、凪に対して苦笑いしながら、ディストは椅子から下りながら「様もいらないよ」と、付け加えた。
刀を二本、腰に帯刀すると、ゆっくりと凪の元へと近づいていく。
「着いてきて、くれるかい?」
「はい、勿論です」
しっかりと頷き、凪はディストの前に立った。その様子を見て、ディストは安堵したように微笑み、
「じゃあ、行こうか。頼りにしてるよ、凪」
「はい。……あの」
「ん? 何?」
「コーヒー、飲まれて行かないのですか?」
「あぁ、あれ?」
ディストはコーヒーの置いてある机に目を向けて、そうして言い放った。
「ラプソディが、飲むからいいんだよ」
「ラプソディ……?」
「ふふ、行くよ?」
「あ……はい」
何故か嬉しそうなディストを凪は急いで追いかけていった。
部屋に残ったコーヒーは、いつの間にか空っぽになっていた。
第12話:捜し人
「ご、ごごごごめんないッ!」
「いやいや、俺は別に——」
「ほんま堪忍やっ! 俺が臨ちゃんから目ぇ離さんかったらよかったんやっ! 俺の責任や!」
三人が三人とも、それぞれに言葉を交わす。
突然襲いかかってきたイルを撃退した春之助と裏面、そして優輝は戦闘が終わるや否や、このように自分が悪い、何がどうたらと言葉を交わすのみで、話がまとまりようがない状況だった。
「ちょ、ちょっと落ち着こう。とりあえず、自己紹介だけでもした方がいいんじゃないか?」
「た、確かに……」
「そやなぁ……」
優輝の提案に二人は了解し、早速自己紹介をすることになった。
「俺は日上 優輝。一応、武装警察に所属してて……アバターコードは"神斬"だ」
「日上 優輝、か……。ほな、優輝って呼ばせてもらうわ! ってか、自分警察官? 武装警察ってー……本部の要塞、破壊されたとかいう?」
「ん……あぁ、一応警察官で、まあ、そうだな。本部は破壊されたよ。その現場にいたし」
「え、えっ、た、確か、その本部の要塞が破壊された時の事件って……ほとんどの警察官が死んだって……」
「よく知ってるな……。俺は一応、その生き残り。他にも仲間がいて、その人達のおかげでもあるな」
優輝は話しながらそのことを思い返した。あの無惨な血の海の光景は頭にこびり付いて取れなくなっていたのだ。
多くの仲間が死に、自分は生き残った。罪のある、自分が。ただ復讐の為に此処にいるというのと、死んでいった人達の中、ただ生きたいっていう人との違いを考えれば、自分よりも救われてよかった命は幾らでもあったのだ。
そのことを実感して思うと、急に胸が締め付けられたように苦しくなった。
「おい、大丈夫かいな?」
「あ、あぁ……。少し、そのことを思い出してしまって……」
「ご、ごめんなさい……私が、いらないこと言ったから……」
「いや、君のせいじゃないよ。ごめん。……あ、次、どっちが自己紹介を?」
「ん、じゃあ俺がいこか!」
春之助は元気良く返事をして立ち上がった。
さっきまでの少し暗い雰囲気をまた元に戻そうと明るくしてくれている。そう思うと、優輝は感謝をしたい気分になった。
「俺は緒川 春之助っちゅーもんや! 特に言うほど経歴はないさかいに……アバターコードを言うわ。犬神"ってアバターコードや。よろしゅう頼むわ、えーと、臨ちゃんはもう言うたさかい、優輝、頼むわな!」
「え、あぁ、よろしく」
突然名前を呼ばれ、手を差し出されたので、慌ててそれに返した。春之助はそんな優輝の様子を見て微笑み、
「俺のことは春でええよ。ほとんどそれやからな」
「あぁ、分かった。よろしく、春」
「おぉー! よろしくなぁ、優輝ぃ!」
嬉しそうに優輝の背中をバンバンと音を鳴らして叩く。何だかそれが、仲間の有難さみたいなもののように感じて、心が少し和らいだ。
「えっと、次は臨ちゃんやな」
「あ、は、はい……えっと、裏面、臨死って名前です……。あ、アバターコードは、なるようにならない最悪っていいます……よ、宜しくお願いしますっ」
行儀良くお辞儀をする裏面に、優輝と春之助は拍手で送った。
何となくお互いを少しでも知り、親近感が湧いたような気がしていた。
「そういやぁ、優輝は何でここに来たん?」
「あ、そうだった! そうだな……中年の男性で、クリーム色したコートを着ている人、ここら辺で見かけなかった?」
「うーん……そんな刑事みたいな奴、見かけんかったけどなぁ」
「そうか……」
ようやく知り合いと会えると思っていた優輝にとって、愕然とする思いが心に残った。
「何や? そんな見つけたい奴なんか?」
「あぁ。俺の上司なんだけど……ここで待ち合わせしてた時、何が起きたのか、どこかへ行ってしまったみたいなんだ」
「ここで、何かが……ですか?」
不思議そうな顔をして裏面が優輝に返した。その表情は、どうにも優輝の言っていることに疑問を感じている表情であった為、優輝は裏面に顔を向けて、
「何か知っているのか?」
「い、いえ……ただ、ここで何かが起きるといっても、それは優輝さんの上司さんの身に何かが起きたのではなく、その上司さんは誰かを追っていたのではないかな……と、お、思いまして……」
裏面は、この場で優輝の上司である橋野に何かが起きたとしたなら、優輝と待ち合わせをしているその場にいる時に起こったとされるので、普通なら優輝に助けを求めたりするはず。
けれど、橋野は急用が出来た、としか言っていない。つまり、橋野は誰かを追っていて、もしくは探していた誰かが現れて、それを追うことにした。その方が辻褄に合う。
「橋野さんは、誰かを追っている……?」
一体それは誰なのか。優輝の知っている人物とすれば、それは誰か。優輝との待ち合わせを崩してまで追わなければならなかった人物。それは重要な人物とするのが一番妥当なのではないだろうか。
「人に無茶するなって言うクセに……!」
優輝は唇を噛み、自分を頼ってくれなかったことがこれほど辛いことなのだろうか、と心の中で悲しんだ。
その様子を見ていた春之助はゆっくりと優輝の肩に手を置くと、
「これからどないすんねん?」
「これから……」
「せや。お前がしたいことをすればいいやろ。この世界はただでさえ狂うとるんや。自分がしっかりせなあかんやろ」
春之助の言うことはもっともだった。
ただでさえ、右も左も分からないようなこの混沌した世界で、一体一人、何が出来るのか。ただ、眼の前に与えられたことをがむしゃらに突き進むしかない。優輝は、ゆっくりと口を開いた。
「俺は……橋野さんに頼っていたのかもしれない。心の中では、自分の目的を果たす果たすって言ってるクセして、実際は周りに頼ってばかりだ……。だから俺は……俺の道を進む」
息を吸い込み、ため息を吐く。そうして決めたことを春之助と裏面に顔を向けて言った。
「俺は今から中央に行く。橋野さんからも言われていたし、そこで情報を集めたい。きっと中央というぐらいだから、プレイヤーが多いと思うからな。そこで、人を捜すことにする」
「誰を捜すんや?」
春之助の言葉に、少しの間口を閉じ、そしてゆっくりと言い放った。
「高宮 修司。俺がこの現実と混入した世界に来る前の最後に会った奴だ。あいつはアップデートの最中にも関わらず、普通に立っていた。ログインできていたんだ。今回のアップデートの件に関わっているかもしれない」
高宮 修司。それは、優輝が現実世界からエデンと混合された世界に来る前に会っていた謎の男のことだ。その男は、意味深な言葉を残し、優輝の前から去っていったのだ。最も今のところ怪しい人物といえば高宮しか優輝には思い浮かばなかった。
「高宮 修司? うーん……どっかで聞いたことあるような名前なんやけどなぁ。まぁ、ええけど、その話がほんまやったら、かなり巨大な敵ちゃうの? こんなアホみたいな世界と現実を混入させるなんちゅーことは、専門の科学者でも無理な話やろ? とんでもない奴な気がするんやけどな」
「確かに……だから、俺は高宮の情報を少しでも集めながら、仲間も集めていきたいと思ってる」
「……それが出来たらええねんけどな。結構難しい思うで? それに、そこまで使命染みたことせんでもええやろ?」
春之助の言うことは間違ってはいない。しかし、優輝にとってそれは関係のあることだった。
アップデートをした犯人。それは、必ず黒獅子と繋がっているような気がしてならなかった。そして、また何かをしようとしている。周りから見たらこの行動そのものが偽善なのかもしれないけれど、それでも優輝は守りたかった。
もう、眼の前で大事な人を失うのは見たくなかったから。
「出来る限りやってみるさ。それが、どれだけ無謀でも。やるかやらないかとか、そういう二択じゃなく、やってみなきゃ分からないの一本だと俺は思ってるから」
心に決めた優輝は、真っ直ぐに春之助と裏面を見た。
その様子をずっと見ていた裏面はオドオドしていたが、春之助は真顔でそれを見つめた後、笑い始めた。
「おもろい奴やなぁっ! まあ、そやなぁ。やってみな分からんわな。……よーし、俺は優輝に付いて行くわ」
「え? いいのか?」
「いいも何も、こうして出会った縁やろ? 俺もその賭けに乗ってみてもええかなぁ思たんや」
「そうか……。ありがとう、春」
「礼とか、照れ臭すぎるやろー!」
先ほどまで微塵も動いてなかった春之助の犬耳と犬尻尾が前後、左右に揺れる。嬉しそうにしている証拠だった。
「あ、あのっ、私も……付いて行っても、いいですか?」
「え、裏面さんも?」
「は、はい……足手まといに、なっちゃうかもしれませんが……」
「そんなことないよ。ありがとう。お願いしてもいいかな?」
「あ、は、はいっ!」
嬉しそうに裏面は笑顔で答えた。
これで春之助と裏面と共に行くことになった優輝は、二人に感謝しつつ、一歩踏み出した。
(強く、ならないと……!)
その決意は固く優輝の胸の中に篭ったのであった。
- Re: 白夜のトワイライト ( No.197 )
- 日時: 2011/10/19 19:05
- 名前: 世移 ◆.fPW1cqTWQ (ID: 4OBDh6qC)
また、人が少し筒増えてきましたね。しかしついに新展開になってきましたねw続きが気になりますww
- Re: 白夜のトワイライト ( No.198 )
- 日時: 2011/10/19 21:53
- 名前: 遮犬 ◆.a.RzH3ppI (ID: ucEvqIip)
>>旬さん
むぁ、第8話からですかー……確かに、急展開続きでしたからね……本当に文章力が無く、申し訳ない……;
面白いと言っていただけるだけで感謝でございますよ!腕は鈍りに鈍りまくってますb
え、ググったんですかwwあらやだ、お恥ずかしいw
こえ部は投稿途絶えてますし、ブログは昨日から再開いたしました(キリッ
才能ではなく、煩悩なら有り余っているのですが……それでもよかったr(殴
あぁ、白夜さんですか……。正直、すげぇナルシストだなぁと思いながら書いてたりもします(ぇ
いい所に現れるというね……主人公だからしょうがないだろ、みたいなナルシストぶりが……書いてて何かうぜぇ、とか思ってしまうわけで(マテ
だから二章から白夜君のこと全く書いてない!……というのは関係しないわけなんですけどねw
アドバイス与えられるほど偉く……いや、エロくないでs(ry
あれ、煩悩についてのアドバイスじゃぁ……(ぁ
まあ、どちらにしろ、ですからねぇw
黒獅子wwあの人のことはもうほっといてくださいw何か格好付けるだけ格好付けて、全然何もしてない人なんでwほんとw
雑談ですかw旬さんのところに顔出しますぜー。
おうふ……ちゃん付けですら嫌なのね?wふふっ!僕は女の子g(黙
いえいえー、長ったらしい文ほど有り難味が出ますともさ!短文でもそうなんですけどもw
どちらにせよ、おkということですー。ていうか、偉そうに言える立場じゃないですからw
コメントありがとうございましたっ。
>>世移さん
そうですねぇ……少しずつ……といっても、自分は書きまくるだけなんですけどもwとても有難いことですよね……凄く励みになりますおっ。
新展開に無理矢理させました(ぇ
何かアップデートとかわけ分からん設定盛り込んじゃったからこんな無理矢理になってしまったわけなんですけどもw
正直、世界観が書いててもよく分からん、という事態に陥りましてw今必死に設定を集めてたりもします。
こんな感じで、今までになかった様々なパーティ+それぞれの人物がどういう立場なのかとか、オリキャラ様や新キャラを含めてこれからも更新していきたいと思っております!
世移さんのオリキャラの双ちゃんは番外編で出してますが、本編で思いっきり出ますw
それらも含めて、楽しみにしておいてください!とか生意気なことを言って返信を終わります><;
コメントありがとうございましたっ。
- Re: 白夜のトワイライト ( No.199 )
- 日時: 2011/10/19 23:32
- 名前: 遮犬 ◆.a.RzH3ppI (ID: ucEvqIip)
民家の並ぶ町並みの中に、巨大な門と柵が連なっている屋敷がそこにはあった。
豪華な振る舞いはこれといっては見当たらないが、なんといってもその大きさと豪快さだった。
屋敷の面積は民家が何十軒分だろうかというぐらいの大きさで、その門の隣には巨大な表札があり、そこに書かれてある文字は【花鳥風月】と書かれてある。その門の前に、嘉高と不知火は立っていた。
「家に帰ってきたって感じがするねぇ……嘉高さんもするでしょう?」
「家というより、楓という名の牢獄に帰って来た気がするよ」
「何言ってんですかっ! ……斎条、結構嘉高さんのこと心配してましたよ? その"能力"のおかげでただでさえ敵と出くわしやすいってのに……」
不知火はぶつくさと文句を言いながら、嘉高の様子を伺うが、相変わらずのぼんやりとした顔といい、少し微笑んだ姿がとても女の子らしい感じのする嘉高の外見に不知火は自分の吐息が何となく荒々しくなっていくような気がして慌てて止めた。
「うん? 入らないの?」
「あ、いやいや! 入りますともっ!」
考えている不埒なことを悟られぬよう、不知火はその場から逃げ去るようにして門の中へと入っていった。
その様子を嘉高は見つめ、少し首の角度を曲げて傾げた後、微笑みながら「まあいっか」と呟いて自らも門の中へと入っていった。
中は見事に掃除が行き届いていて、床が太陽の光を反射していた。磨いたばかりなのだろうか、水滴が少し付いている部分もある。
和風な感じが漂うその屋敷の中には、それ相応の庭もあった。庭といっても、嘉高と不知火の所属するここ、花鳥風月はこの広い庭で稽古を行う。鯉が泳ぐ池もあるが、丁寧にそこも手が行き届いていた。
奥に行くと、応接間やら宴会場などがあり、更にその奥には巨大な面積を誇る部屋があった。まるで道場のような雰囲気を出すそこには、今もなお一人のプレイヤーが素振りをする声が聞こえて来る。
それからまた先を進むと、ようやく会議が行われる場所が見えてくる。そのまた奥には、それぞれの門下生やらが住まう寮のような建物も庭に備えられている。
嘉高と不知火はその会議が行われる場所へと進み、その障子を開けた。
ススー、と障子がスライドした途端、障子を開けた不知火の顔のすぐ横に何かがもの凄い勢いで通り抜けた。
それは、まぎれもない手だった。その手の奥には、10代に見える若い女性が怒った表情で腕をふるっていたのだ。
「さ、斎条ぉぉっ!?」
「え? 楓?」
不知火と嘉高がほぼ同時に声を挙げる中、ただ一人、その二人の眼の前にいる女性、斎条 楓(さいじょう かえで)は違っていた。
「この——アホンダラーッ!」
楓はとてつもない速さで拳を振るった。しかし、相手が違っていることには気付かないまま。
「ぶふっ!」
楓の拳は、見事不知火の顔面を捉え、強烈な勢いで吹っ飛ばしたのであった。
不知火の体は宙に浮き、そのまま後方の庭へと勢い良く滑り込んでいった。
「ただいま、楓」
「ったく……ん、おかえり、正宗……って、えぇっ!? さっき吹っ飛ばしたの、正宗じゃないのっ!?」
嘉高は気分良く笑っている最中、楓はようやく殴った人が目当ての嘉高でないことに気付くと、驚いた声をあげて砂煙のあがっている庭の方を見つめた。
「この、バカ斎条! 良い女だからといって、調子に乗ってんじゃねぇ! 毎度毎度、何でお前は嘉高さんじゃなくて俺を殴るんだよっ!」
その煙の中から、頬を右手で押さえて立ち上がる不知火の姿を見つけると、楓は申し訳なさそうに両手を合わせ、
「ごめんッ! また間違えたっ!」
「どれだけ間違えれば気が済むんだよっ!」
「でもまあ、日頃僕の代わりに殴られてることだし、別に大したことは——」
「「お前が言うなッ!」」
嘉高が場を取り正そうとしたのだが、二人が猛烈な勢いでそれを否定した。取り正そうとしたというより、悪気の無い嘉高は二人がこんな風に言い合っているのかの事の発端が自分であることを気付いていないのであった。
「ていうより……この、アホ正宗! バカ! ボケ! アホ! ボケ!」
「アホとボケ、被ってるよ」
「どっちでもいいわッ! ……とにかくっ! またどこをほっつき歩いてんのよっ! それでも花鳥風月の"頭首"? もっと自覚持ちなさいよ! 自覚をっ!」
「あ、そうだ。楓、今日のご飯何?」
「人の話を聞かんか、ボケーッ!」
このような調子が毎度続く嘉高と楓のやり取りは、見ている者からした痴話喧嘩のようにしか見えない。二人は別に夫婦やら恋人やらの関係は無く、ただ単に幼馴染ということでこうしているのだという。
(それ以上の進展はない……って言っても、お二人さん、お似合いだと俺は思うがねぇ……)
「ちょっと! 不知火も何か言ってよっ! このボケアホのバカ正宗に!」
「はいはい……」
毎度のことのように楓から援助を頼まれるのはもう慣れている不知火にとって、これだけ微笑ましく見れる光景はこの世界の中でも有数のものだった。
「うわっ! 組長さんが帰ってきてるッ!」
「ん……お、七姫じゃないか。久しぶり」
嘉高が微笑んだその目線の先には、阜 七姫の姿があった。黒混じりの白髪に、可愛らしい黒目に似合っている赤頭巾は、その格好通りにアバターコードも"赤頭巾"である。
口を両手で押さえ、意外そうな顔をして七姫は嘉高を見つめていた。
「久しぶりも何も無いですよっ! 組長さんが依頼してたこと、とっくに終わってるのにずっと遊んでばかりだったし、アップデートのせいでどっか行っちゃってましたし、久しぶりを超えての久しぶりですよ!」
「そうだねぇ……長らく留守にしてたんだっけ? でも、とっくに戻ってきてたんだけどなー」
「えっ!? 何時ですか?」
「んー少なくとも今日じゃないね。ずっと七姫の顔は見れなかったから、報告はどうなったのか心配はしてたんだよ?」
「え、えぇっ! じ、じゃあ、私が悪いのですかっ!?」
「悪いというより、運が悪かったんだね」
「やっぱり悪いんじゃないですかーッ!」
嘉高と七姫の会話はいつもこんな感じで、七姫の回答も嘉高の回答もどちらもどこかズレているような感じのまま、聞いていると、ついツッコみたくなるような話し合いである。
「んー……そういえば、まだ"鳳仙花"と"犬神"に会ってないなぁ。二人は今どこにいるか、楓知ってる?」
「鳳仙花はー……またいつものように修行とかで江戸を離れてて……犬神っていうか、春之助は迷子」
「よく迷子になる奴だねぇ……俺が探して来ようか?」
不知火が頬を人差し指で掻きながら言うと、嘉高がその場に突然座り、
「放っておけばいいと思うよー。春之助が迷子ってことは、また何か面白い人を見つけてくれるかもしれないしね」
「鳳仙花は多分もうすぐ帰ってくると思う。またトラブルに巻き込まれてなければいいんだけどね……」
「あいつは人一倍熱血で、正義感が強いからなぁ……」
「この間、鯉にあげる餌の量を間違えたとかで凄く落ち込んでましたね……」
嘉高以外の三人は鳳仙花が何事も無く、無事にこちらに戻ってきてくれるのか心配でならなかった。
そんな頃、とある滝の流れる林の中で、一人の男が槍を振るっていった。もの凄い速さで槍を次々と振り回して行くその若者こそが、鳳仙花である。
本名は幸村 匁(ゆきむら もんめ)といい、鳳仙花はアバタコードであった。
「でりゃぁっ! はぁぁっ!」
声を張り上げ、一人黙々と鍛錬をする幸村は、幾度かそれを繰り返し、落ち着いた所で槍を動かす手を止めた。
「ん……もう帰らないと、斎条さんが怒るかな……」
空を見上げ、呟くようにして言うと、槍を背中に戻し、林の中へと歩いて行った。
林の中はいつになくジメジメした空気を放ち、湿度はあがっているようだった。しかし、そんなことを構うこともなく、幸村は歩いていく。
だが、その時、不意に奥の方から何か音を感じ取った。それは、幸村の方へと向かってきていた。
「何だ……?」
槍を構え、その林の奥に潜む闇を見つめる。距離はだんだんと近づいて行き、そうして姿を現したのは——
「誰だッ!」
「きゃぁっ!」
幸村の眼の前で地面に転んだのは、少女だった。
その少女の体は傷だらけで、とても痛々しく幸村の目には映った。慌てた様子で幸村はその少女の体を起こし、声を呼びかけた。
「おいっ! おいっ! 大丈夫か!?」
「う……」
苦しそうな顔をし、傷に手を当てるその少女を見つめ、どうしたいいものかと考えた末に幸村は、
「な、名前ッ! おぬし、名前は?」
「わ、私は……鈴音……凛、と……うぅっ!」
「お、おいっ! しっかりしろ! おいっ!」
幸村がその後何度呼びかけても、鈴音 凛は反応しなかった。
意識を失ったようで、幸村は何とかしなければならないという決意の元、花鳥風月へと連れて行くことを決めたのだった。
- Re: 白夜のトワイライト ( No.200 )
- 日時: 2011/10/24 16:06
- 名前: 栗鼠隊長 ◆Q6yanCao8s (ID: aza868x/)
- 参照: 元:旬です。『りすたいちょー』と読みます。
へい!
なんとか乗り越えほとんど読みましたっ。
まだ少しのこってますけど,それがまた楽しみなんだw
で,です。しゃいぬお兄さん,途中で確実に腕を上げましたね。相変わらず一文字ずつの間違いはあるものの,文章自体が読みやすく構成されているようで読み心地がとてもよかったです! 読みやすいというのは小説家の最大の見方ですからねっ。
素晴らしいです。さすがしゃいぬお兄さん! しかも犬ミミてwもえですね。憧れの犬ミミですっ。
最初の段階の小説よりは,絶対に読みやすくなってます。見習おう(´`*
もうすぐ旬も小説ここにあげます。そのときは是非に! 一文字でも読みに来てくださいねっ!
では,残りの話を楽しみながら読破しますぬ♪
ついでに言うと,「白夜のトワイライト」を読みすぎてしゃいぬお兄さんが夢に出てきた;
- Re: 白夜のトワイライト ( No.201 )
- 日時: 2011/10/26 22:57
- 名前: 遮犬 ◆.a.RzH3ppI (ID: ucEvqIip)
墓標がいくつも作られた丘があった。その丘は、何段にも、何重にも広がっており、石碑と共に何人もの人々の魂を眠らせている。
エデンでも形として作るだけであり、実際の魂はデータ化され、消去されるか、もしくはイルとなる為の素材となるかの二つなのだが、慰めのような対象として墓標を作っているのだ。
広すぎるその広大な墓標には、いくつか入り口があり、眠っている人はその入り口の特定ワードにおいて導かれる。通称、墓標谷と呼ばれるそこに、一人の男が一つの墓標を前にして立っていた。
「懐かしいのぉ……」
男はそう呟き、その墓標をただ見つめている。周りにも墓標で埋め尽くされ、白と青で統一された空模様とその神々しい雰囲気と統合し、見事なまでに静かである。
男は、ゆっくりと手に持っていた水の入った瓶をその墓標の上からかけていく。トクトクと、水が瓶の中から放出される音がその場に取り残された。水が全て無くなった後、ゆっくりと"男の後ろにいた者"が口を開いた。
「ヴァン・クライゼル。あんた、その墓標に何の用がある」
墓標の前に立つ男、それはヴァン・クライゼルだった。
ヴァンは、後ろにいるはずの男の声をしっかりと受け止め、振り返ることなく、
「ワシにとっても、所縁はあるからのぉ」
「……所縁?」
「そうじゃな。所縁、じゃ」
ヴァンは男の言葉を聞いて微笑み、ゆっくりと振り返った。
「お前も会いに来たんじゃろう? なぁ——白夜光」
ヴァンの眼の前にいたのは、白夜だった。
白髪に、黒のパーカーを来たその少年は、小さな野花を持っていた。腰の後ろには双剣と銃が二丁納められている。
「アップデートの影響で、ここに異変が起きていないか確かめに来た。それに……」
「今日は9月31日。この日は"この子"の命日じゃからのう」
「命日じゃない。あいつは……ルトは、生きている」
白夜は足取りを真っ直ぐ、一歩ずつ墓標へと近づいていく。しかし、その墓標にはあるはずのものがない。
それは、名前だった。名前がそこに刻まれていないのである。つまり、その墓標は誰の墓かどうかさえ、分からないのだ。しかし、この"何も無い墓"を白夜とヴァンは一人の少女のものとしている。
墓標、その言われは悪いが、この墓に本当に名前が刻まれることの無いように願ってのことだった。こうして会いに来るという名目の上で、白夜はこの場で自らの目的を再確認するのであった。
ゆっくりと、白夜は小さな野花をその墓標の前に静かに置いた。
「……あんた、知ってるんだろ? 武装警察の地下に眠っていたアーカイブのトワイライトの資料のことだ」
「……あれはもう無くなっただろう」
「いいや、違う。あんたは知ってるはずさ」
白夜は隣にいるヴァンの方へ振り返る。その目つきは、酷く冷静なものだった。ヴァンはその目線を見ることもなく、白夜から背を向けている。
「どこにそんな確信が持てるかのぉ……ワシは、ルトの"見舞い"と死んだ部下達の報いの為に来たんじゃが……」
「あんたがあの時、地下を瓦礫で埋めたのは、あんたの計画通りだった。そうした方が都合の良い、いや、そうしなければならなかったからだ」
「……どういう意味じゃ? お前はワシの与えたタイムリミットに間に合わなかった。ただそれだけの——」
「いや、タイムリミットなんてそもそも存在しなかった。それは……アーカイブにはもう、極秘資料は存在していなかったからだ」
「……!」
ヴァンは少し表情を驚きで露にすると、そのすぐ後にニヤリと口を歪ませ、笑みを浮かべた。白夜はそんなヴァンの様子を冷静な瞳で見つめ、無表情・無言のままでいた。
「名探偵にでもなったつもりかのぉ? 白夜光。まぁ、大体が正解じゃがな」
顎にある白髪の髭を撫でながら、ヴァンは頷き、ゆっくりと、しかし重みのある言葉で、
「それで、何の用じゃ? 白夜光」
白夜は再び墓標の方へ顔を向けると、白夜は置いたばかりの野花をもう一度手中に収めた。その様子を訝しく見ていたヴァンに対して白夜は再び振り返り、その手にある野花を手から離した。ゆっくりとその花は地面へと落ちていく。その様子をヴァンは見つめている最中、
「用は無い。トワイライトの資料を調べた所で何もならない。ただ今日は、ここに来て決別したかっただけだ」
「決別?」
思わずヴァンは白夜の言葉に対して聞き返してしまった。その様子を見て、白夜はふっと笑うと、
「——無いものを有るものとして見、そしてそれにすがることに」
白夜の言葉が何も無い虚空へと響く。それを聞いたヴァンはその言葉を意味が理解できず、それを問う為に一歩踏み出したその瞬間、
「思わぬ面子だなぁ、これは」
ヴァンの後方から足音と共に男の声が届いた。そこには——ディストと凪の姿があった。ディストは微笑みながらこっちを見ているのに対し、凪の方は白夜達を睨みつけ、今にも襲いかかってきそうなほど凶暴な目をして、両手が既に腰元にあるハンドガンに伸びようとしていた。しかし、それをディストが手で制止させ、ゆっくりと微笑み、白夜に向けて声を発した。
「やぁ、元気かい?」
「……どうしてここに来れた」
「僕にとっても、ここはとても所縁のある場所だからね」
「……何時からここにいた?」
「何時からだろうね?」
気にした様子もなく、ディストは淡々と答えていく。白夜も後ろの腰に装備してある双剣へと手を移すところであった。
まず間違い無くディストは最初からここにいたことになる。僕にとってもここはとても所縁のある場所。この言葉は最初からずっとヴァンと白夜の会話を聞いていたことを示唆するのには十分な言葉だった。
「何しにここに来た? それにあんた、エルトールにいなくていいのか?」
「何しにここに来たという質問は、そこにいるヴァン・クライゼルさんに会いに来たんだ。そして二つ目の質問の、エルトールにいなくていいのか。いなくていいさ、権限はもう無いに等しい。この状況はあの惨劇、トワイライトと同じようなものだね。違うといえば、現実世界が混入したことぐらい」
「そんなによく喋る奴だったのか?」
「知らなかったかい? ……ま、いいや。僕に質問してきたんだし、僕も君に質問させて欲しいね」
ディストは懐から雨模様のマークが入ってある紙包みを出し、その中から飴玉を取り出して口に放り込んだ。
暫くしてから、口の中で飴玉が割れる音がし、ディストはようやく口を再び開いた。
「白夜光。この件に関しては君は関わらないで欲しい」
「それは質問じゃない」
「……まぁ、仕方ないか。白夜光、ちょっと席を外してもらえるかな? ヴァン・クライゼルさんと話がしたいんだ」
「あんたはもうエルトールの何でもない。指図される覚えも何もない」
「元から君は僕の指図は受けなかったからそんなことは関係ないと思うんだけどなぁー」
「関わらせてもらう。それが今の最短ルートだ」
「そうか……残念だね、白夜光」
その瞬間、白夜に向けて銃声と共に銃弾が飛んで来た。それを白夜は咄嗟に体を反転して避ける。だが、その避けた先にも弾丸は放たれていた。左手をかざし、黒色の光が白夜の正面を覆う。弾丸はほとんど全てその闇に触れるや否や、勢いを失って地面へと落ちていく。
しかし、白夜の腕と足の方に弾丸が掠れ、赤く血が滲んでいた。白夜はすぐに名前も知らない墓標の後ろへと隠れる。
「ここは神聖な墓地だぞっ! わかっとるのかっ!」
「仕方ないさ。白夜光はこうでもしないと分からない。時に引くことも肝心ということは大事だろう? ヴァン・グライゼルさん」
「お前がエルトールの長か……! 黒獅子の小僧に一番繋がっとるのはお前じゃな?」
背中に背負っていた巨大な槍をヴァンは取り出し、構えた。しかし、ディストは冷静にその様子を見て、
「ややこしくなったね……。ま、とりあえず——凪、頼むよ」
ディストが言ったその時、凪は懐からハンドガンを取り出し、ヴァンへと向けて乱射した。どれも正確にヴァンを捉えていくのに対し、ヴァンは槍でその銃弾を弾き返しながら凪へと近づいて行く。
「ワシもなめられてもんじゃのぉ……! うぉぉッ!」
槍を大きく振り上げ、横に薙ぎ払う。一閃、凪の眼の前を通りすぎていく。凪が後方へ下がったのだ。
そのまま後方へ下がりつつ、凪は銃を撃っていく。何度かその弾はヴァンへと掠っていくが、
「ふんっ!」
右足を大きく上げ、勢いよく地面へと叩き付けた。
叩き付けた場所から地面が割れ、揺れ始める。その震動のせいで、凪は体勢を崩し、よろけたが、片手を地面に付き、その体勢のままハンドガンを撃った。地面の割れ目と割れ目を丁度挟んだ辺りに凪は片腕をついただけの体勢で撃ったのだ。
激しく揺れ動き、尚且つそんな無茶な体勢で銃を撃つこと自体が困難なことだが、凪は銃を放った上に、さらにはその銃弾をヴァンの足へと直撃させた。乾いた音が地面の揺れる音と同化する中、
「ぐぁぁっ!」
ヴァンは呻き声をあげて地面へと倒れ込んだ。地震は程なく止み、辺りを地割れまみれにして終わった。
凪はいつの間にか立ち上がっており、白夜の隠れているであろう墓標へ目掛けてマシンガンを撃っていく。墓標が穴だらけになり、粉々になった先を見ても、白夜の姿も無く、ただ一滴か二適のごく少量の血痕しかそこにはなかった。
「——どこを見ている」
「ッ!」
白夜は凪の後ろへ回っており、両手に構えてあった双剣を振り下ろした。しかし、凪は倒れるようにして体を横転させると、横転している最中だというのに銃を白夜に向けて放った。両手に双剣を持っている為、能力は発揮出来ない。速い弾丸を至近距離で避けるのは困難だが、白夜はその銃弾をかろうじて受け流すことに成功した。
金属と金属が弾ける音が響き、更に銃声が次々とその中へと混ざる。白夜は着地した瞬間、空中にいた時に双剣を戻していた為、能力が発動できる素手の状態でその右手を振り下ろした。
その瞬間、右手に眩しい光が包み込み、その光は真っ直ぐ凪を捉え、閃光がその辺りを包みこんだかと思うと、爆発が起きた。
煙が立ち込め、周りが見えない中、凪は——無傷の状態でスナイパーライフルを構え、白夜を狙っていた。
バァンッ!
重い銃声が響き、その煙の中に包み込まれていった。
やがて、その煙が全て無くなると、白夜の姿は無く、更にはヴァンの姿も無くなっていた。
「く……! 逃がしたか……!」
凪はスナイパーライフルを背中に収め、軽く舌打ちをした。
「申し訳ございません……」
「気にしなくていいよ。ま、好きにやらせておくよ。好きに……ね」
口を歪ませ、微笑みというには程遠い笑みを浮かべたディストは煙が去った後に残してあった"血痕"を見つめていた。
- Re: 白夜のトワイライト ( No.202 )
- 日時: 2011/10/24 21:27
- 名前: 遮犬 ◆.a.RzH3ppI (ID: m16n.Ntt)
>>栗鼠隊長さん
うへぇ、バレちゃいましたk(ぁ
途中で腕が上がったように見せかけてるだけですおw根本的にはあまり変わってないです。
一文字ずつの間違えwごめんなさい;推敲していないもので……。
読みやすく……心がけてるようにはしているつもりですが、全く出来やしません;まだまだ頑張らないと……。
犬耳といえば春之助君のことですかw名前をこれでいこうとした時、オリキャラの春ちゃんと名前が被っちゃってかなり焦ったり。直すのもあれなので、春之助でいきたいと思っておりますw犬耳、いいよね!絶対こういうキャラは入れたかったのさ!
褒め言葉、ありがとうございます><;身に染みますなw
これからも精進いたしますので、宜しくお願いいたします(_ _)
えwwどういうことなのw
僕が夢に出てきたとか!犬の状態でか!人面犬でサーセンorz(ぁ
- Re: 白夜のトワイライト ( No.203 )
- 日時: 2011/10/28 19:43
- 名前: 遮犬 ◆.a.RzH3ppI (ID: ucEvqIip)
砂漠を超えると、ようやく街が見えてきた。アラビアのような雰囲気を漂わせる建築物が立ち並ぶそこには、プレイヤーの姿がどの方向を向いてもいるというぐらい、辺りには溢れかえっていた。
まだ肩を震わせる双に毛布を羽織らせ、秋生達は街の中を歩いた。
「情報が必要だねぇ……さて、どこにいるのやら」
「誰を捜しているんだ?」
「それは内緒のお楽しみさ。見てから驚くといいよ」
断罪はクスッ、と声を出して笑みを浮かべると、賑わいをみせている繁華街に商店街を背中に向け、逆に人気の無い場所へと向かって行こうとした。
「おいっ、双も連れて行くのか?」
秋生は慌てて断罪を呼び止める。そんな秋生のすぐ傍には、双が体を震わせ、青ざめた顔色のまま虚空を見つめている。余程先ほどの出来事が怖かったのだろうと安易に推測することが出来た。
「んーそうだねぇ……じゃあ、君は双を連れて宿でも取っておいて。僕は少し、用事があるから」
「そういうわけにも行かないだろ。双を一人にさせる方が危険だ」
「い、いえっ! わ、私は……大丈夫、です……! 断罪様に付いて行きます! 足手まといになるかもしれないけど……」
俯きながら双は段々と声が小さくなっていく。その様子を見ていた秋生から見れば、無理をしているような気がして仕方がなかった。
「おい、やっぱり——」
「なら着いて来ていいよ」
断罪はすぐさま了解の旨を伝えたのである。表情は笑みを浮かべたままで、少しも双のことを考えたような素振りは見えなかった。
「お前——!」
「大丈夫だって言ってるじゃん! ……しゅう君は黙ってて」
気を遣っている相手に対してここまで言われた秋生は、もうそれ以上口を挟むことは出来なかった。
「それじゃあ、行こう」
断罪はどこか満足そうにそう言ったのであった。
路地裏のような場所が真っ直ぐ、一本道となって続いていた。高い堀に囲まれ、壁が周りにぐるりと円状にして聳え立っている。所々分かれ道などがあったり、広場のような場所に着いたりと繰り返し、ようやくバーらしきものが見えてきた所で断罪は立ち止まった。
「ここに、何かあるのか?」
秋生が不思議そうに断罪に聞くと、黙って再び断罪は眼の前を歩き出した。その先は、誰もいなさそうな人気の無いバーの中だった。
店内に入ると、案の定誰もおらず、割れたグラスや酒瓶などがそこらに散らばり、椅子や机も散乱していた。既に営業していないということがこれを見るだけで分かる。
しかし、明かりが点々と光る辺りを見れば、まだ何かに使っていることを意味していた。
「何だ? ここに、裏世界でもあんのかよ」
秋生が言った傍から、断罪が店の奥へと歩き出し、コンコンと何度かそこらの壁を軽く叩いて行く。そうして行っている内に、明らかに音がおかしい場所が一点見つかったのである。
その壁に向けて笑みを零すと、断罪は思い切りよくその壁に向けて蹴りを放った。
すると、バキバキと木が裂け、割れる音ではなく、ガコンという何かが開いた音が店内に響いたのだ。そうした後、その壁の横から鍵の開くような音が聞こえた。横には、棚のようなものがあるだけ。しかし、断罪はそれを手で軽々と倒すと、そこから扉のようなものが見えたのである。
「——正解だよ、月蝕侍」
「……マジかよ」
半分呆れつつ、半分驚いた秋生は、笑みをなおも浮かべている断罪が開き、歩いて行ったその扉の先を双と一緒に追いかけて行った。
扉の先には長い下り階段が続いていた。明かりが点々とついているが、その光は弱弱しく、足元程度しか見えないぐらいである。足元を気をつけながら行く秋生と双とは違い、断罪は足元など見ずにどんどん先へと進んで行く。すると、奥から扉が見えてきた。随分と大きな扉で、頑丈な造りをしているようだった。ゆっくりと断罪はその扉を押して、開いた。
中から聞こえてきたのは、大歓声に似たようなものだった。
「これは……?」
「あぁ。ここは金、命、情報、名声、何でもいい。賭けるものがあれば成立するコロシアム。ただし、敗北者はほとんどが死亡さ。通称、Bet murder(賭け殺し)と呼ばれる不法なコロシアムだよ」
「賭け殺し……?」
秋生は眼の前の光景に驚きを隠せなかった。
辺りを円状に囲むように、まるでドームの観客席のようにして集う人々が真中のかなり広い面積を保つフィールドに向けて歓声を贈っていた。
秋生達が入ってきた場所からフィールドを見ても小さくしか見えないが、それでもどういう状況なのかがよく理解できるように上には巨大モニターがいくつも取り付けられている。
見ると、一方がほとんど無傷で、もう一方は血だらけなうえに、腕が一本無かった。
「も、もうやめてくれぇ……!」
血だらけの男は怯えた表情で対戦者を見つめる。しかし、対戦者は狂ったように笑うと、手に持っていた凶器で怯えた相手へとトドメを刺したのである。
「酷い……なんだよ、これ……!」
秋生が呟いている言葉は、スタジアム内の観客の声によって掻き消されていった。
そして、司会者のような者がスタジアムの奥の方に現れると、
「勝者には、賭け金の二倍の賞金を獲得ぅっ!」
マイク越しに聞こえた司会者の声は、ますますスタジアム内を盛り上げる。どうやらあの男は金目当てでここに来ているらしく、画面には賭け金と思われる数値が跳ね上がっていく。
「観客が自分に賭けた金の倍の金額をもらうことが出来るシステムさ。観客も、賭けている方が勝つとその分の金額が毎回のレートごとによって跳ね上がる形式。敗北者には負け分のリスクを払うと共に試合後はほとんどが対戦者に殺されているというおまけ付きなわけ」
断罪は淡々とフィールドを見つめながら言った。その言葉に一瞬言葉を失った秋生だったが、すぐに断罪がどうしてここに来たのかの意味が分かったような気がした。
「断罪、もしかして……」
「ふふ、ここで情報を手に入れるとするよ。正規のルートじゃ手に入らないと思うからね」
ニヤリと口を歪ませて笑う断罪は、とても楽しそうに、これから起こる殺し合いを待ち望んでいるかのように見えたのであった。
- Re: 白夜のトワイライト 番外編更新っ ( No.204 )
- 日時: 2011/11/10 00:05
- 名前: 遮犬 ◆.a.RzH3ppI (ID: ucEvqIip)
「追っては来ない、か……」
周りを見渡してから、白夜は呟いた。その隣にはヴァンが足を押さえて座っていた。地面には足から出血されて出来たと思われる血の水溜まりが小さく出来ている。
「ぐぅ……不覚じゃわい。まさか、あの小僧に遅れを取るとは……。まさか、絶撃の凪がいるとは思わなかったわ……」
「絶撃……」
白夜は絶撃の名を呟き、その名を思い出していた。
絶撃と呼ばれたその者は、あらゆる銃機を使いこなし、どんな状況下でも命中させることの出来る異状な身体能力を合わせ、第六感覚と呼ばれる6つ目の感覚を呼び起こし、それを起用していかなる戦場でも無類の強さを誇ったとされている。
どの人間でも第六感覚は持っているが、呼び起こすまでは凄まじく難しい。大抵の人間は自分の中に眠る第六感覚に気付かずに生涯を終えることがほとんどである。その理由は、生活において必要性がないからだ。
しかし、この第六感覚を目覚めさせることによって様々な予知が可能となる。それに異状な身体能力を合わせた絶撃と呼ばれる者は脅威の強さだという。
「絶撃は一人ではない。軍隊のように沢山いたのじゃが……今では稀だな。戦争で使われ、皆相打ちで死んでいったとされておるが……」
「あいつはその生き残りか?」
「そういうことになるな。あの機敏な動きに、洗練された技はまさにそのものだろう。人間の化け物というのはアレが当てはまるわい……」
実の所、白夜にも弾は当たっていた。何とか掠れた程度で治まったのだが、あの煙で視界が遮られている中での射撃。普通ならば当てれるはずがない。しかし、予測して当てたかのように狙ってきた。もし左手の闇の引力を発動し、弾の軌道を変えていなかったら直撃していただろう。それも、心臓にだ。
掠れた部分は、左腕の内側だった。左手を開いて引き寄せた為、心臓に当たるはずの弾を逸らし、瞬間的に掠らせただけで済ませたのである。
一閃、弾が掠れた痕が切り傷のようにして残り、そこから血が滴り落ちるのを右手で押さえる。ヴァンは直撃なので、今すぐでも治療をした方が良い状況だった。
「とにかく、場所を移す。そこで治療することが出来る奴を捜す」
「ふふっ、白夜光の小僧。ワシを助けるのか?」
「お前からはまだ聞いてないことが沢山ある。それに、ディストとの関係も知りたい。それに、さっきので確信した。あんたは、黒獅子について何か知っている。それを聞き出す為に助けるまでだ」
白夜はヴァンを立ち上がらせると、巨大な盤が置かれてある場所へと歩いて行った。
その盤上からは無数の風のようなものが吹き荒れ、辺りへと撒き散らしている。異様な雰囲気を漂わせるそれは、世界と世界を跨ぐ次元の発生装置のようなものだった。ただ、どこに向かうかは未知数である。自分で自発的に選べなくなってしまっていた。これも世界との混入のせいなのかは分からない。いや、知り得ない事実だった。
「行くぞ——」
白夜とヴァンは光に包まれ、一瞬の内に吹き荒れる風と共にその場から姿を消したのであった。
深い闇の中、ゆっくりと深い椅子から腰を上げ、悠然と部屋の中にたった一つだけある扉へと向かい、その扉のドアノブを握り締めたその男は、少しの間そこで立ち止まり、不敵に笑みを浮かべてから扉を開けた。
その瞬間、大勢の何かが薄暗い宮殿のような造りの柱ごとに蠢き、一斉に声をあげた。
「黒獅子様、万歳!」
その歓声は無数に宮殿内に響き、轟音のような形で扉を開けた黒獅子へと降りかかった。その様子を見て、黒獅子はまたも笑みを零すと、ゆっくりと階段を下りていく。
黒獅子の傍に、すっと何者かが隣に並んだと同時に黒獅子の歩みが止まる。
「ご機嫌は?」
「まあまあだね。良くも無く、悪くも無いよ」
「ツクツク法師殿は?」
「あの人はまだNoLogic(不完全論理)のことを見て笑っているよ。あの力を存分に引き出せるのも時間の問題かな」
再び黒獅子は歩き始めた。その後をその"女"は着いて行く。綺麗な白いシルクの布で作られた装束を身に纏い、背中に巨大な二つの剣を背負っている。見た目は美しい女性の姿で、その煌びやかな容姿は見る者を惑わせる。
「ブリュンヒルデ。君の機嫌は?」
「言わずながら……これから攻め込むというように、そんな無粋なことを仰るおつもりで?」
「ふふ、本当に君は戦いを好むんだね……」
「何の為に私がここにいると? それこそ無粋な言葉ですね、黒獅子殿」
ブリュンヒルデと呼ばれたその女性は、鼻で笑うようにして黒獅子へと言葉を紡いだ。ゆっくりとその目は黒獅子より先に前方の方へと向いた。その様子を見て、黒獅子はニヤリと口を歪ませて笑うと、同じように前方を振り向いて歩くのを再開した。
「黒獅子殿、ラプソディは?」
「あぁ、きっと今頃はNoLogicの亡骸でも見ている頃だと思うよ。一人が好きだしね、ラプソディは」
「奴は侵略の一手だったはず。大丈夫なので?」
「問題ないさ。思うままにやらせるまで。狂気はどこにでも広がっていく」
ククク、と笑い声をあげて黒獅子は笑うと、左右に広がるようにして群がっている者達が一斉に頭を下げていく様を見届ける。
人であるものもいれば、人ではない形のものもいる。この電脳世界と現実世界を混入させたのは、この者達の願いでもあった。この世界を、そして世界を正義などふざけた偽善などではなく、再び再構築させる為に。電脳世界は世界を上書きする為に使う。力を持たない者が、この世界では力を持つことが出来る。強い者に刃向かうことが出来る。
そして今、トワイライトが再び始まるのだ。
「皆の者、よく聞け!」
黒獅子が後ろを振り返り、何千といる者達に目掛けて声を投げかけた。
その隣にはブリュンヒルデが腕を組んでその様子を観察している。一斉に静まり返ったその宮殿の中で、黒獅子は大きく声を張り上げて宣言した。
「我らが世界の不条理を正す時が来た! 何年前のトワイライトの意思は費えない! この力は、我らが世界を自由にする為に行動する為にある! 全てを還元出来た時、世界は我らの思うままに、正しい形として存在される! 弱い者、強い者などは存在せず、皆が自由に平等される世界を!」
「黒獅子様! 万歳!」
「今此処に、宣言する! ——世界へ宣戦布告を!」
「万歳! 世界に復讐を!」
宮殿の中にいつまでも歓声は響く。
その轟音は、黒獅子の笑みと同様にいつまでも保ち続けた。
トワイライトが、再び幕を開けるのである。