ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 白夜のトワイライト ( No.203 )
- 日時: 2011/10/28 19:43
- 名前: 遮犬 ◆.a.RzH3ppI (ID: ucEvqIip)
砂漠を超えると、ようやく街が見えてきた。アラビアのような雰囲気を漂わせる建築物が立ち並ぶそこには、プレイヤーの姿がどの方向を向いてもいるというぐらい、辺りには溢れかえっていた。
まだ肩を震わせる双に毛布を羽織らせ、秋生達は街の中を歩いた。
「情報が必要だねぇ……さて、どこにいるのやら」
「誰を捜しているんだ?」
「それは内緒のお楽しみさ。見てから驚くといいよ」
断罪はクスッ、と声を出して笑みを浮かべると、賑わいをみせている繁華街に商店街を背中に向け、逆に人気の無い場所へと向かって行こうとした。
「おいっ、双も連れて行くのか?」
秋生は慌てて断罪を呼び止める。そんな秋生のすぐ傍には、双が体を震わせ、青ざめた顔色のまま虚空を見つめている。余程先ほどの出来事が怖かったのだろうと安易に推測することが出来た。
「んーそうだねぇ……じゃあ、君は双を連れて宿でも取っておいて。僕は少し、用事があるから」
「そういうわけにも行かないだろ。双を一人にさせる方が危険だ」
「い、いえっ! わ、私は……大丈夫、です……! 断罪様に付いて行きます! 足手まといになるかもしれないけど……」
俯きながら双は段々と声が小さくなっていく。その様子を見ていた秋生から見れば、無理をしているような気がして仕方がなかった。
「おい、やっぱり——」
「なら着いて来ていいよ」
断罪はすぐさま了解の旨を伝えたのである。表情は笑みを浮かべたままで、少しも双のことを考えたような素振りは見えなかった。
「お前——!」
「大丈夫だって言ってるじゃん! ……しゅう君は黙ってて」
気を遣っている相手に対してここまで言われた秋生は、もうそれ以上口を挟むことは出来なかった。
「それじゃあ、行こう」
断罪はどこか満足そうにそう言ったのであった。
路地裏のような場所が真っ直ぐ、一本道となって続いていた。高い堀に囲まれ、壁が周りにぐるりと円状にして聳え立っている。所々分かれ道などがあったり、広場のような場所に着いたりと繰り返し、ようやくバーらしきものが見えてきた所で断罪は立ち止まった。
「ここに、何かあるのか?」
秋生が不思議そうに断罪に聞くと、黙って再び断罪は眼の前を歩き出した。その先は、誰もいなさそうな人気の無いバーの中だった。
店内に入ると、案の定誰もおらず、割れたグラスや酒瓶などがそこらに散らばり、椅子や机も散乱していた。既に営業していないということがこれを見るだけで分かる。
しかし、明かりが点々と光る辺りを見れば、まだ何かに使っていることを意味していた。
「何だ? ここに、裏世界でもあんのかよ」
秋生が言った傍から、断罪が店の奥へと歩き出し、コンコンと何度かそこらの壁を軽く叩いて行く。そうして行っている内に、明らかに音がおかしい場所が一点見つかったのである。
その壁に向けて笑みを零すと、断罪は思い切りよくその壁に向けて蹴りを放った。
すると、バキバキと木が裂け、割れる音ではなく、ガコンという何かが開いた音が店内に響いたのだ。そうした後、その壁の横から鍵の開くような音が聞こえた。横には、棚のようなものがあるだけ。しかし、断罪はそれを手で軽々と倒すと、そこから扉のようなものが見えたのである。
「——正解だよ、月蝕侍」
「……マジかよ」
半分呆れつつ、半分驚いた秋生は、笑みをなおも浮かべている断罪が開き、歩いて行ったその扉の先を双と一緒に追いかけて行った。
扉の先には長い下り階段が続いていた。明かりが点々とついているが、その光は弱弱しく、足元程度しか見えないぐらいである。足元を気をつけながら行く秋生と双とは違い、断罪は足元など見ずにどんどん先へと進んで行く。すると、奥から扉が見えてきた。随分と大きな扉で、頑丈な造りをしているようだった。ゆっくりと断罪はその扉を押して、開いた。
中から聞こえてきたのは、大歓声に似たようなものだった。
「これは……?」
「あぁ。ここは金、命、情報、名声、何でもいい。賭けるものがあれば成立するコロシアム。ただし、敗北者はほとんどが死亡さ。通称、Bet murder(賭け殺し)と呼ばれる不法なコロシアムだよ」
「賭け殺し……?」
秋生は眼の前の光景に驚きを隠せなかった。
辺りを円状に囲むように、まるでドームの観客席のようにして集う人々が真中のかなり広い面積を保つフィールドに向けて歓声を贈っていた。
秋生達が入ってきた場所からフィールドを見ても小さくしか見えないが、それでもどういう状況なのかがよく理解できるように上には巨大モニターがいくつも取り付けられている。
見ると、一方がほとんど無傷で、もう一方は血だらけなうえに、腕が一本無かった。
「も、もうやめてくれぇ……!」
血だらけの男は怯えた表情で対戦者を見つめる。しかし、対戦者は狂ったように笑うと、手に持っていた凶器で怯えた相手へとトドメを刺したのである。
「酷い……なんだよ、これ……!」
秋生が呟いている言葉は、スタジアム内の観客の声によって掻き消されていった。
そして、司会者のような者がスタジアムの奥の方に現れると、
「勝者には、賭け金の二倍の賞金を獲得ぅっ!」
マイク越しに聞こえた司会者の声は、ますますスタジアム内を盛り上げる。どうやらあの男は金目当てでここに来ているらしく、画面には賭け金と思われる数値が跳ね上がっていく。
「観客が自分に賭けた金の倍の金額をもらうことが出来るシステムさ。観客も、賭けている方が勝つとその分の金額が毎回のレートごとによって跳ね上がる形式。敗北者には負け分のリスクを払うと共に試合後はほとんどが対戦者に殺されているというおまけ付きなわけ」
断罪は淡々とフィールドを見つめながら言った。その言葉に一瞬言葉を失った秋生だったが、すぐに断罪がどうしてここに来たのかの意味が分かったような気がした。
「断罪、もしかして……」
「ふふ、ここで情報を手に入れるとするよ。正規のルートじゃ手に入らないと思うからね」
ニヤリと口を歪ませて笑う断罪は、とても楽しそうに、これから起こる殺し合いを待ち望んでいるかのように見えたのであった。