ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 白夜のトワイライト 番外編更新っ ( No.204 )
- 日時: 2011/11/10 00:05
- 名前: 遮犬 ◆.a.RzH3ppI (ID: ucEvqIip)
「追っては来ない、か……」
周りを見渡してから、白夜は呟いた。その隣にはヴァンが足を押さえて座っていた。地面には足から出血されて出来たと思われる血の水溜まりが小さく出来ている。
「ぐぅ……不覚じゃわい。まさか、あの小僧に遅れを取るとは……。まさか、絶撃の凪がいるとは思わなかったわ……」
「絶撃……」
白夜は絶撃の名を呟き、その名を思い出していた。
絶撃と呼ばれたその者は、あらゆる銃機を使いこなし、どんな状況下でも命中させることの出来る異状な身体能力を合わせ、第六感覚と呼ばれる6つ目の感覚を呼び起こし、それを起用していかなる戦場でも無類の強さを誇ったとされている。
どの人間でも第六感覚は持っているが、呼び起こすまでは凄まじく難しい。大抵の人間は自分の中に眠る第六感覚に気付かずに生涯を終えることがほとんどである。その理由は、生活において必要性がないからだ。
しかし、この第六感覚を目覚めさせることによって様々な予知が可能となる。それに異状な身体能力を合わせた絶撃と呼ばれる者は脅威の強さだという。
「絶撃は一人ではない。軍隊のように沢山いたのじゃが……今では稀だな。戦争で使われ、皆相打ちで死んでいったとされておるが……」
「あいつはその生き残りか?」
「そういうことになるな。あの機敏な動きに、洗練された技はまさにそのものだろう。人間の化け物というのはアレが当てはまるわい……」
実の所、白夜にも弾は当たっていた。何とか掠れた程度で治まったのだが、あの煙で視界が遮られている中での射撃。普通ならば当てれるはずがない。しかし、予測して当てたかのように狙ってきた。もし左手の闇の引力を発動し、弾の軌道を変えていなかったら直撃していただろう。それも、心臓にだ。
掠れた部分は、左腕の内側だった。左手を開いて引き寄せた為、心臓に当たるはずの弾を逸らし、瞬間的に掠らせただけで済ませたのである。
一閃、弾が掠れた痕が切り傷のようにして残り、そこから血が滴り落ちるのを右手で押さえる。ヴァンは直撃なので、今すぐでも治療をした方が良い状況だった。
「とにかく、場所を移す。そこで治療することが出来る奴を捜す」
「ふふっ、白夜光の小僧。ワシを助けるのか?」
「お前からはまだ聞いてないことが沢山ある。それに、ディストとの関係も知りたい。それに、さっきので確信した。あんたは、黒獅子について何か知っている。それを聞き出す為に助けるまでだ」
白夜はヴァンを立ち上がらせると、巨大な盤が置かれてある場所へと歩いて行った。
その盤上からは無数の風のようなものが吹き荒れ、辺りへと撒き散らしている。異様な雰囲気を漂わせるそれは、世界と世界を跨ぐ次元の発生装置のようなものだった。ただ、どこに向かうかは未知数である。自分で自発的に選べなくなってしまっていた。これも世界との混入のせいなのかは分からない。いや、知り得ない事実だった。
「行くぞ——」
白夜とヴァンは光に包まれ、一瞬の内に吹き荒れる風と共にその場から姿を消したのであった。
深い闇の中、ゆっくりと深い椅子から腰を上げ、悠然と部屋の中にたった一つだけある扉へと向かい、その扉のドアノブを握り締めたその男は、少しの間そこで立ち止まり、不敵に笑みを浮かべてから扉を開けた。
その瞬間、大勢の何かが薄暗い宮殿のような造りの柱ごとに蠢き、一斉に声をあげた。
「黒獅子様、万歳!」
その歓声は無数に宮殿内に響き、轟音のような形で扉を開けた黒獅子へと降りかかった。その様子を見て、黒獅子はまたも笑みを零すと、ゆっくりと階段を下りていく。
黒獅子の傍に、すっと何者かが隣に並んだと同時に黒獅子の歩みが止まる。
「ご機嫌は?」
「まあまあだね。良くも無く、悪くも無いよ」
「ツクツク法師殿は?」
「あの人はまだNoLogic(不完全論理)のことを見て笑っているよ。あの力を存分に引き出せるのも時間の問題かな」
再び黒獅子は歩き始めた。その後をその"女"は着いて行く。綺麗な白いシルクの布で作られた装束を身に纏い、背中に巨大な二つの剣を背負っている。見た目は美しい女性の姿で、その煌びやかな容姿は見る者を惑わせる。
「ブリュンヒルデ。君の機嫌は?」
「言わずながら……これから攻め込むというように、そんな無粋なことを仰るおつもりで?」
「ふふ、本当に君は戦いを好むんだね……」
「何の為に私がここにいると? それこそ無粋な言葉ですね、黒獅子殿」
ブリュンヒルデと呼ばれたその女性は、鼻で笑うようにして黒獅子へと言葉を紡いだ。ゆっくりとその目は黒獅子より先に前方の方へと向いた。その様子を見て、黒獅子はニヤリと口を歪ませて笑うと、同じように前方を振り向いて歩くのを再開した。
「黒獅子殿、ラプソディは?」
「あぁ、きっと今頃はNoLogicの亡骸でも見ている頃だと思うよ。一人が好きだしね、ラプソディは」
「奴は侵略の一手だったはず。大丈夫なので?」
「問題ないさ。思うままにやらせるまで。狂気はどこにでも広がっていく」
ククク、と笑い声をあげて黒獅子は笑うと、左右に広がるようにして群がっている者達が一斉に頭を下げていく様を見届ける。
人であるものもいれば、人ではない形のものもいる。この電脳世界と現実世界を混入させたのは、この者達の願いでもあった。この世界を、そして世界を正義などふざけた偽善などではなく、再び再構築させる為に。電脳世界は世界を上書きする為に使う。力を持たない者が、この世界では力を持つことが出来る。強い者に刃向かうことが出来る。
そして今、トワイライトが再び始まるのだ。
「皆の者、よく聞け!」
黒獅子が後ろを振り返り、何千といる者達に目掛けて声を投げかけた。
その隣にはブリュンヒルデが腕を組んでその様子を観察している。一斉に静まり返ったその宮殿の中で、黒獅子は大きく声を張り上げて宣言した。
「我らが世界の不条理を正す時が来た! 何年前のトワイライトの意思は費えない! この力は、我らが世界を自由にする為に行動する為にある! 全てを還元出来た時、世界は我らの思うままに、正しい形として存在される! 弱い者、強い者などは存在せず、皆が自由に平等される世界を!」
「黒獅子様! 万歳!」
「今此処に、宣言する! ——世界へ宣戦布告を!」
「万歳! 世界に復讐を!」
宮殿の中にいつまでも歓声は響く。
その轟音は、黒獅子の笑みと同様にいつまでも保ち続けた。
トワイライトが、再び幕を開けるのである。