ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 白夜のトワイライト 参照2500突破。ありがとうございます! ( No.205 )
日時: 2011/11/12 01:36
名前: 遮犬 ◆.a.RzH3ppI (ID: ucEvqIip)

現実と混ざった電脳世界の中、警察署と連結させた巨大な城がある。その城内がいまや警察の本部となっている。
電脳世界が現実に介入する、といった異状すぎる事態は警察の方にも影響を大きく与えていたのだ。
現実世界と混入したということは、今や全世界中でこのような事態が起こっているということなのだろうか。外国との連絡手段もなく、警察だけではなく、政府との連結も薄れかけていた。
政府は何故、このような事態になっても連絡をよこしてこないのか。その手段がないのは分かるが、このような事態が起きた以上、このまま何日も過ぎていく日々の中、何もしないままでいるつもりなのか。
警察の幹部らは皆、我慢の限界を要していたのである。
武装警察と現実世界における警察とはまた種類が違う。武装警察の階級は軍の階級制度と同じく、警察とはそういう面で変わっているのだ。
武装警察のほとんどは自衛隊で統一されているが、警察から変転して武装警察に入るものもいる。更にはどちらにも対応しているといったものもいる。

その警察本部の中を一人の男が足音を鳴らしながら歩いていた。髪型はオールバックの黒色で、服装は青い軍服で、警察が着る制服とはまた異なっている。左腰には長く、厚い軍刀が帯刀されている。軍刀を小さく上下に揺らし、男は悠然とした顔でレッドカーペットの上を行く。
そうしてようやく一つの扉の前で立ち止まった。人気のないそこは、誰もが近づける場所ではない。相当な幹部階級でないと行けないような場所であった。
男は一度咳払いをし、二度扉に向けてノックをした。

「入りたまえ」

扉の向こう側から重苦しくプレッシャーの放つ返事が聞こえてきた。だが、男はそのようなものに慣れているのか、平気な顔で「失礼します」とだけ答え、扉を開いた。
中には、三人の男が座っていた。真正面と左側の男は40、50代を軽く突破している年齢の男だが、その右側の男だけは違っていた。オールバックの男同様に若々しい感じのする青年だったのだ。

「来たか、瀧沢たきざわ

丁度三つに分かれて座っている中の左に位置する場所に座っていたこの三人の中でも若い方の男が声をかけてきた。
瀧沢と呼ばれたオールバックの短髪の男は、ゆっくりとお辞儀をして再び正面を見つめた。
その正面には、白髪頭で、もう60、70にはなるだろうかと思われる男が深くソファーに腰を掛けて座っていた。この白髪の男が警視総監の伊野 平八郎(いの へいはちろう)その人である。この警察本部とされた場所をほとんど取り仕切っているのは実質、この男なのであった。

「村松君。君の言っていた"信頼出来るキャリア"は"コレ"かね?」
「ええ。瀧沢は私の部下の中で、最も信頼が出来ます」
「ふむ……」

伊野は顎をしゃくり、疑うような目線で瀧沢を見つめた。その重苦しい空気の中、伊野はゆっくりと言葉を開いた。

「まあ、何だね。瀧沢君……だったかな? いや、瀧沢将軍と呼んだ方がいいかね? ……疲れただろう? 座りたまえ」
「いえ、結構です」

瀧沢は伊野の言葉を断った。その行為は、伊野にとっても、村松上級大将にとっても実に衝撃の言葉だった。

「な、何を言っているんだ! 瀧沢!」

村松は慌てて瀧沢へと怒鳴りつけた。だが、瀧沢の様子は全く変わりはしない。ただ平然な顔で眼の前の伊野を見つめているのだ。
その様子に、伊野は暫く呆然として言葉が出なかったが、途端に笑い始めた。

「いいじゃないか! いい根性をしている! それで、何故座りたくないのか答えを聞こうじゃないか」

伊野は瀧沢の様子を伺うようにして前鏡になり、聞いてきた。その様子を見つめ、瀧沢はふっと笑うと、

「私がそこに座るのは、逆にあまりに無礼だからです。私はいつか血を浴びる者。そのような汚れた者は、臭うわけですよ。目の前まで近づくと、ね。だから私はそこに座るのを拒んだわけです。この血の臭いを、警視総監殿に与えたくないのでね」
「おい! 無礼だぞ!」

村松が立ち上がり、瀧沢を睨みつける。
どう見ても信頼出来るやら、信用のある、といった関係性には見えなかった。だが、それこそが伊野の求めていた人材。こうして狂ったように権力の力に従わずに刃向かって来る者。これほど強い"獣"は他にどこにもいない。

「ククク……! なるほど、なぁ……。信頼出来る人間だよ、瀧沢将軍」
「ありがとうございます」

瀧沢は頭を下げずにお礼の言葉を言った。その様子を見て、再び佐野は笑い声をあげる。村松はそんな瀧沢の様子を見て、ゆっくりとソファーへと再び座り直した。
そもそも、村松は武装警察の人間ではなく、警察から武装警察へと移動した身分であった。力ではなく、頭脳として上級大将の座についているのだが、ほとんどは他の者が指揮をしている形となっていた。
ただの表面だけこうして出てくるだけで、本来ならば元帥であるヴァン・クライゼルが此処にいなければならないのだ。しかし、あの武装警察の要塞が崩落して以来の行方不明扱いとされていた。崩落からわずかな時間でアップデート化され、世界は混乱したのだ。ただでさえパニックになっている中、ヴァン・クライゼルただ一人の為に動員させるほどの人数も余裕もなかったのである。

「瀧沢君、紹介しよう。こちらが警察側からの有力な男だ。警察側でエデンの調査をさせていた——高宮君だ」

右側に座っていた男が立ち上がる。どう見ても20代か10代後半に見えるその容姿は、この場には似合わないほどの雰囲気を漂わせていた。
どこか、奇妙な感じが瀧沢の全身を襲う。これは歴戦の証としても残っているのか、感覚が強く訴えかけてくる。
ゆっくりと高宮は右手を差し伸ばし、そして微笑むと、

「よろしく。瀧沢将軍」

その瞬間、瀧沢は変にこの男は危ないと直感的に思ったのである。その理由は分からないが、何かこの男には裏がある。そして、伊野にも。どうにも本来の警察は怪しい雰囲気を漂わせていたのである。どこでどう政府と繋がっているかも分からない。そのような連絡は一切武装警察には入ってこないのだ。軍と警察。今となってはどちらが正義を名乗れるかも分からない。

「よろしく」

瀧沢はその手を握り返した。そして、微笑む。ずっと瀧沢は高宮の顔を見つめていた。その表情は、揺れることのない笑みだけが広がっていた。悪寒が全身を駆け巡る。何かが、襲いかかってくるように。

「これから、宜しく頼むよ——"君達"」

伊野が表情を歪ませて、不気味な笑みを浮かべて言った。



第13話:惨劇の再来



私は、どこにいるの?
ここは、どこなの?
辺りは真っ暗で、何も見えなくて、どうすることも出来ずに、ただ足掻くようにして、呼吸を求めているのかも分からず、ただただ眼の前の虚空を掴もうとするけれど、手は動かなくて、そもそも手があるかどうかさえも分からずに、ただ動きたくて、けれど言うことを利かなくて、全身が麻痺しているように身動きがとれずに、ただただ足掻いている。足掻きまわっている。
私は一体何なのだろう。きっと死んだのだろうか。いや、生物だったのだろうか? 私は——何?

何も思い出せない。けれど、意識はある。そんな虚空の中、私は叫んでいる。誰かの助けを求めている? いや、分からない。
きっと何か、私は求めている? いや、分からない。

怖い。悲しい。切ない。辛い。逃げたい。暴れたい。無くなりたい。消えたい。終わりたい。

——私の求めているのは、何?