ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 白夜のトワイライト ( No.208 )
- 日時: 2011/11/28 20:00
- 名前: 遮犬 ◆.a.RzH3ppI (ID: FMKR4.uV)
「う……」
周りの歓声が血生臭いコロシアムに轟く中、双は頭を抱えて今にも倒れそうに体をふらつかせていた。その足取りは段々と千鳥足へと変化していき、そして——
「おいっ、大丈夫かっ?」
双はゆっくりと秋生に体を預けるかのように倒れた。その動きはまるで一連の動作のようにごく自然なもののようにも見えた。
秋生は双を抱きかかえるようにして何度も双に呼びかけるが、全く反応を示さない。
「断罪、双にとってここは……!」
「ふふ……言い忘れていたけど、双は血の臭いを嗅ぐと高確率で気絶する。だけど……その気絶した後に、もう一人の双が現れるのさ」
不気味に表情を笑みに浮かべ、先ほどよりもより悪態のついた笑顔を見せながら断罪は言った。秋生は、ただその言葉を聞いて、呆然としているばかりだった。
歓声が轟き、この暑苦しい空気と、重い血と汗の臭いが混ざり合うこの地下コロシアムで、ゆっくりと双は目を覚ました。
秋生は驚きも含め、安堵した表情で双を見つめたその瞬間、双の口元が大きく歪み、笑みを浮かべた。
先ほどまでの双ではない。それを気付くのに、数秒もかからなかった。
「——あはは! 血の臭い……いい香りぃ……!」
秋生は絶句し、断罪はそんな双の言葉に再び不気味な笑みを増すのであった。
Bet murder。通称、賭け殺しはそれぞれタイプが違う。大抵は殺し合いが主になるのだが、ごく稀にギャンブル事で勝負をするということもあるらしい。賭け殺しと呼ばれるほどでもあって、何かを賭けて殺し合わなければならないのが原則のルールである。
賭けるものは金や命、極秘情報などでも構わない。大抵が金を賭け、それぞれに取り合うのだが、たまに極秘情報や物を賭けて戦うものもいるらしい。そんなものに命を賭けるという自体がおかしいと思われるのだ。ただ、その情報性は極めて高いものであり、試合前から取引される情報が確かなものかを確認して取引される。存在しない、もしくは有り得ない情報ならば取引は却下される。少しでも不確かならばその情報はないことになる。
様々な殺し合いがあるのだが、その中で一対一は勿論、チーム戦もある。三人一組のチームを作り、お互いが競い合うシステムである。リーダーをチーム内で一人選び、そのリーダーを倒すと強制的に勝利とすることとなる。
つまり、勝つ為の手段としてはリーダーを倒すか、もしくは相手チームの全員を倒すか。その二つのみとなっている。
コロシアムといっても、戦う場所はかなり広めに取ってあるので、思う存分戦える反面、数々の戦略を組むことが出来る。そして、最も今までとは勝手が違うのは、能力がコロシアム内では一切使えないということ。つまり、生身の人間状態で戦わなければならない。その為、武器に慣れている人間が基本的に有利な位置に立つのである。
断罪達が選んだのは、このスリーマンセルで行われる殺人ゲームであった。
「生身で戦うって……大丈夫なのかよ……ッ」
「ふふ、生身で戦うのは戦う。けれど、制限されたのは能力だけだよ、秋生君? ふふふ……」
「それ、どういう意味——」
「あはっ! 楽しみだなぁ……! 血がいっぱい見られるんだよねっ? もうウズウズが止まらないよぉ……!」
場所を移し、受付を済ませた三人は既に控え室で待機していた。秋生の言葉を遮った双は、もはや血を怖がるどころか、血を喜んでいるようになってしまっていた。
「ま、すぐに分かるよ……」
断罪は不気味な笑みを浮かべ、綺麗な着物に似た服を翻すと、ゆっくりと扉へと向かって行った。
重苦しい部屋の中、厳重に閉ざされているその扉の奥からは歓声によって生まれた轟きしか残らない。血生臭い臭いが奥から異様に放たれている。この奥には、本当に殺し合いがされている。それは現実的に秋生の心を蝕んでいく。
「殺し合い……俺は、罪の無い人間を斬れるのか……」
震える手を押し込めて、秋生は立ち上がった。仲間の元に、再び帰れることを信じて。
「両者、入場ですッ!」
奥の方から、甲高い声で司会が告げる。その声と共に、厳重な扉はゆっくりと開いた。ギギギ、という軋んだ音が鳴り響き、そのたびに胸が躍るかのように鼓動を速める。
落ち着け、落ち着け、と何度も自分に言い聞かせても、それはまるで意味のない、ただの言霊でしかなかった。
眩しい光が眼の前に現れ、それは視界を覆っていく。歓声が耳鳴りを起こすかのようにして響き渡っていくことを感じ取ると、そこは既にコロシアムが眼の前に広がっていた。
前方には真っ直ぐ一直線で相手の姿が見えた。巨大な大剣を持つ大柄の男に、フードつきの黒装束を着ている暗殺者のような格好をしている人に、もう一人は巨大な大鎌を持ってニヤニヤと不気味に笑っている女だった。どうやらその大鎌を持った女がリーダーのようで、リーダーの証となる真っ赤な腕章がわずかだが見えた。断罪のチームは、断罪が腕章を付け、リーダーを務めることとなった。
コロシアムには、周りにいくつもの砂山やらで盛り上げられており、平面なフィールドではなかった。しかし壮大で、戦うには十分すぎる場所でもある。秋生の左腕が再び狂気の痛みを帯びようとする中、
「それでは! 賭け殺し、開始いたします!」
——試合開始の合図の掛け声と共に、大きく鐘のような音が会場内へと鳴り響いた。。