ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: カチューシャ ( No.1 )
- 日時: 2010/08/17 15:50
- 名前: クロウ ◆vBcX/EH4b2 (ID: 2zWb1M7c)
第1話『出会い』
ミハイルは絵の下書きを終え、鉛筆を筆箱に入れる。
自分の書きかけの作品を見て、ため息をつくミハイル。
机の上には、ヒマワリ畑が描かれた1枚の画用紙。
満面のヒマワリの花が描かれた画用紙を教科書やファイルを置いている棚の上に置く。
さて、そろそろ帰るか。
筆箱を机の上に置いてある茶色い鞄にしまい、美術室から出て、ドアに鍵を閉める。
廊下に出ると、誰かの歌声が聞こえた。
高い音域の、美しい声。歌詞は解らないが、その美しい声につい聞き入ってしまう。
一体、誰が歌っているんだろう。
歌声に誘われるように、足を進めるミハイル。
歩いているうちに、ミハイルはいつの間にか音楽室の前に立っていた。
一応ノックをして、音楽室のドアを開ける。
音楽室には、1人の少女がいた。少女は歌を止めて、ミハイルを見ている。
「……あ、笹原君……」
少女がミハイルの名を呼び、微笑む。
ミハイルは少女のことは知らないのだが、少女はミハイルのことを知っているようだ。
「……あの、君、誰?」
ミハイルは少女にそう聞く。
少女はクスッと笑って答えた。
「同じクラスの佐倉 真樹だよ。笹原君、私の名前、知らなかったの?」
ミハイルは申し訳なさそうにこくりと頷く。
真樹は笑いながら、酷いなぁ、とわざと聞こえるように呟いた。
「あ、あの……さっき歌ってた歌」
「歌?」
「うん、あれ、何って歌なの?」
突然の質問に驚きながらも、真樹はその質問に答える。
「カチューシャっていう歌」
「カチューシャ……?」
ミハイルはそう呟き、首をかしげる。
カチューシャ。幼いころ、ミハイルの母もその歌を歌っていた。
カチューシャはロシアの民謡で、ミハイルの母はそれをロシア語で歌っていたことを思い出す。
「あの、もう一回、歌って?」
「え?」
「その歌、もう一回、歌って聞かせて」
ミハイルのリクエストに答え、真樹は眼を閉じ、歌い出す。
ミハイルは目を閉じ、耳を澄ませて真樹の歌声を聞いていた。
放課後の音楽室には、真樹のソプラノの声だけが響いていた。