ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 鎖と闇 —解き放たれた呪術師— ( No.14 )
日時: 2010/09/08 13:18
名前: 十六夜 ◆aUgcx1Sc9Q (ID: COldU63y)
参照: http://いやねーパソ禁喰らってる割には勉強してないんですよ、ははは(←

ようやく落ち着いてきたので更新します。

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「……その様子じゃあ何処にいるのかも知ってるんだよな」

ミハエルは溜息を着きながらナタンの方を見る。ナタンは少し間を間をおいて「あぁ」と頷いた。
その頷きは深刻な空気の威力を強めるには有り余る威力がある。
ナタンはそんな空気に耐えられなくなったのかいきなり立ち上がり、台所の方へと行く。
何かをガサガサと探る音や湯を沸かす音からして、珈琲を入れているようだ。

「…………」

ミハエルは幼さを残す顔立ちを少し曇らせていた。嫌な予感が的中したかの様な表情だった。
そしてまた先程より大きい溜息を着くと小さく畳んだマントから一枚の写真を取り出す。
写真に写っているのはミハエルとナタン、そして二人の真ん中にいる一人の少女だ。
少女の外見は焦げ茶色の髪に漆色の瞳。身長は二人よりも少し低いが顔はかなり大人びている。
ミハエルはその写真の少女を見つめると少し哀しげに微笑み、マントへと写真をしまう。
するとナタンがその一部始終を見る事は無く珈琲と何かのお菓子の乗ったトレイを持って来た。

「菓子か……いつもお前の作る菓子は上手いな」

「まぁね。伊達に自炊生活送って来たわけじゃ無いし」

トレイに乗っている菓子は、確かに美味しそうに彩られていた。
こんがりと綺麗に焼かれているスコーンには赤、紫、黄色とこれまた綺麗な色のジャムがかかっている。
そして皿に乗っているクッキーはバター、ココア、チョコチップ、型抜きと種類も豊富だ。
何処からどう見ても「美味しそう」と言う言葉以外には何も無さそうだった。
感心した風に菓子を眺めるミハエルにナタンは誇らしげな表情を見せつつ机へトレイを置く。

「一応その光の魔術師の居るらしい学校へ転入手続きしておいたから」

「あぁ、分かった」

早速菓子を食べながらナタンは無造作にミハエルとナタンの名前の書かれた転入届を見せた。
食べるのに夢中で気付かない、かと思いきやミハエルはじっとその転入届を見つつ名前の欄には本名でなく、偽名の苗字が使われているのに気付いて頷く。
どうやら本名で入学するのを拒んでいるようだ。この時代のせい、とでも言うべきだろうか。
何しろ二人の年代くらいの魔術師の子供は施設に居るはずなのだ。勿論施設からの脱走は禁じられている。
本名を使えば怪しまれる可能性もある事から二人はなるべく偽名で生活をしていた。


「それにしても、ホント〝災厄の因果〟を復活させるのって面倒なんだなー」

ナタンはスコーンを頬張りながら苦笑する。最も物を口にしている為緊迫感などは全く無いのだが。
そんなナタンのは少し対照的にミハエルは真面目そうな表情で机にたまたまあった本を見ていた。
表紙に書かれているのは円の中に複雑な模様が書かれている絵と上にある魔術の歴史と言う文字のみ。


実は人間と魔術師が和解するにあたって教育のカリキュラムに魔術の歴史。即ち〝災厄の因果〟についての学習が増えたのだ。
二度とこの過ちを繰り返さず、また後世にそれを語り継ぐ為でもある。
勿論それを復活させようとしている者がいるだなんてその者達も知らなかっただろうが。



「あぁ、まぁな。事実上悪人になっちまうし」


言葉とは不似合いに、ミハエルは淡い笑みを見せた。