ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 銀の炎 ( No.15 )
- 日時: 2010/09/15 18:30
- 名前: 杵島 茄武 ◆wWr1IKfGtA (ID: hAtlip/J)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel2/index.cgi?mode
第8話 『笑えない人間』
クロムは目を覚ました。
寝る前と比べて大分調子が良いのが分かる。
右腕も感覚を取り戻したが、クロムも意識を取り戻したと同時に、
刺すような痛みがクロムを襲った。
そして、包帯でぐるぐる巻きにされているのが分かる。
「目を覚ましましたか」
クロムは声のするほうに首を向けると、見覚えのある少年が立っていた。
「あ、あなたは……僕を助けてくれた人?」
「いえ、当然のことをしたまでですよ」
クロムは昨日のことをゆっくりと思い起こした。
自分はオオカミと戦って、右腕を負傷したんだ、その後に……
クロムは目を見開いて上半身を起こした。
「あの女の子!昨日の女の子は?」
少年はゆっくりと言った。
「大丈夫ですよ、あなたの応急処置であの人は大事には至りませんでした。
今は食事も摂れるようになりましたよ」
「え、じゃあ、今は起きているんですか?」
「はい、あなたが目を覚ます前に」
クロムは静かに横たわった。顔には少し笑みがあった。
少年はふと思いついたかのようにクロムに言った。
「あの、名乗り遅れましたことをお許しください。
私はリアルロボのノマリと申します」
「僕はクロム。リアルロボって何?」
ノマリは上目線で少し考えながら言った。
「僕たちはリアルロボット、その名のとおり人間の形をしたロボットです。
この医療技術とロボット技術に長けたこの国では頻繁にお目にかかることが出来ます。
僕はそこらのロボットとは別で、成長型ロボットと言って、体は成長しなくても、
僕たちのメモリ、つまり人間で言うと脳みそですね、
脳みそがあたかも人間のように発達し、数々の言葉を覚える。そういうシステムです。
普通のリアルロボは最初から何もかもが組み込まれている完全型ロボットですが、
私の先生はあえて成長型ロボットを選びました。
でも、成長型ロボットとはいえども、出来ないことは沢山あります。
人間にとっては必要不可欠なこと。それは、感情の表れ。
私たちにはそれが出来ないんです。
私たちにはその感情をあらかじめ組み込んでおかないと、
自分では笑うことも怒ることも、泣くことさえ出来ません。
あとは自然治癒力。私が怪我をしたときには先生に直して頂かないと。
あと、僕はそのせいか、体も成長しません。
最初から最後までこの体。そう、見た目は人間に似ていても、所詮人間が作ったもの。
人間は神様なんかではない、完全に僕を内側まで似ることは出来ない。
でも僕は幸せです。もっと酷い仕打ちをさせられるロボットもいますから」
クロムはじっとノマリの顔を見た。ノマリの顔には、すこし笑う表情を浮かべていた。
でも、心から微笑んでいる気がしなかった。クロムはその技術に圧倒された。
「へえ、リアルロボットねえ……」
クロムはノマリを上から下まで眺めたが、ロボットらしいところは見当たらなかったのだ。
ノマリはすっと立ち上がった。
「さて、私は別室の患者様を看てきます。クロムさん、まだしばらく安静になさってください」
ノマリはクロムの部屋を後にした。クロムは左腕を曲げ伸ばしをしたり、わざと笑ったり怒ったりした。
「そうか、リアルロボの本当の脳みそは、
リアルロボ自身ではなく人間ってことか。あ、そうだ。
ノマリが言ってたよな、ここは医療技術に長けていたって……ここにいると長居しそうだ」